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03-23.最後の準備(2)

「怖いも何も事実だ。そもそも覚醒したばかりの魔術師など師や一族の庇護下で護られつつ、霊力のコントロール訓練から始めて数年はじっくり修行するものだ。そしてその間は魔術なぞ使うこともない」

「えっじゃあ俺って魔術使ったらダメなんじゃ」

「だがお前の場合はそうも言っておれんだろうが。お前自身が参戦を表明した魔道戦争はすでに始まっていて、間もなく1日目が終わろうとしているのだからな」


 つまり、絢人の置かれている状況が幾重にも異常なのだ。その異常な状況では、霊核の維持を捨てるリスクを負ってでも魔術を使わねばならない。そうしなければ勝って生き残ることなどできはしない、とザラは言う。


 確かにそう言われればその通りでしかなかった。常に紗矢とともに行動できればいいのだが、ふたりがセットで動く以上は敵は必ずふたりを分断するように仕向けるはずで、ひとたび分断されてしまえば絢人は自分で自分の身を守るしかないのだ。

 そのための霊力のコントロール、そのための魔術行使なのだから、リスクだろうが何だろうがやるしかないのだ。


 だから、絢人は腹を括る。

 腹を括るしかない状況なのだ。


「なるほど……分かりました」


 そして絢人は決断する。


「メディアさん」

「何かしら?」

「この魔杖(ロッド)、剣かなにかに変えてもらっていいですか」


「なるほどね。使い慣れた得物の方がいい、と言いたいのね」


 そう。絢人は部活動として剣道をやっているからこそ、棒状のものを持つとどうしても自然とそれをそのように(・・・・・)構えてしまう。ロッドやスタッフといった魔術師が使い慣れた道具よりも剣や刀、竹刀や木刀といったものの方が手に馴染むし、きっと魔力も通しやすいだろう。さらにはそれそのものを使って敵に打撃なり与えられるかも知れない。

 魔術師にどこまで物理攻撃が効くかは分からないが、もしも効くのなら魔術を使わなくてもある程度戦えるかも知れない。少なくとも絢人が唯一見た参戦者、あのナンパに命をかけていそうな優男になら剣道でも対抗できそうな気はする。


「ふむ。確かに考え方は合理的ではあるな」


 おそらく前段だけではあるだろうが、ザラも同意を示した。ならば自分の考えも決して的外れではないと絢人は考える。


「でも、私が剣なんて使ったこともないのよねえ」


 対してメディアはやや消極的だった。ナイフぐらいなら使えるのだけれど、と彼女は言うが、ナイフでは逆に絢人の方が使い慣れない。


「紗矢はどうかしら?」

「私だって剣なんて扱ったことないわよ」


 剣どころか武器の類はほぼ持ったこともない紗矢である。


「私が作ってやるのは、まあ問題があろうな」


 そして武器の扱いに手慣れていそうなザラは、魔道戦争の参戦者ではない。実際彼女は剣を扱ったこともあるし、なんなら銃の扱いは人並み以上に上手かったりもするのだが。

 実を言えばコピー品くらい結晶魔術の[複製]でいくらでも作れるのだが、作るためには作成者がそのものをよく知っていなくてはならない。だから刀剣をよく知らないメディアや紗矢は作れないし、よく知っているザラは立場的に手助けができない。


「じゃあ、無理かあ……」


 ということで落胆するしかない絢人である。


「ザラが作ってみて、それをメディアが[複製]したらどうかしら?」

「えっ?」


 つまり紗矢が言っているのは、ザラがよく知る実物を元に結晶魔術の[組成]でコピー元を作り、それをメディアがやはり結晶魔術の[複製]でコピーした上で、魔杖と同じように魔術を付与して霊器に変えればいい、ということだ。そうすれば絢人の望む剣や刀を模した霊器が作れ、魔道戦争のルールにも抵触しないだろう。


「まあ、それが無難だろうな」

「いや、そこは某に任せてもらおうか」


「あー!」

「そうよ、孫七郎がいるじゃない!」


 いきなり実体化した紹運を見て、絢人と紗矢がほぼ同時に声を上げた。

 その紹運は武者姿で、腰の刀をスラリと引き抜くとメディアに見せる。ザラが一から作るまでもなく、武器としても大変有用な業物がそこにあった。


「これをそのまま真似てもらえば宜しかろう」

「あらあ、血をよく吸った良い得物ねえ」


「えっ嘘マジで?俺孫七郎さんの刀使ってもいいの!?」

「ははは。坊にであれば喜んで差し出そうとも」


 ただし自分の刀そのものは今や自分の霊体の一部だからそのまま貸せはしないが、と紹運は笑った。メディアがなにか怖いことをサラッと言っていたが、それは絢人も紗矢も敢えてスルーした。



 そうしてメディアが模して作ったそれを、震える手で絢人は受け取る。

 それは本物と全く見分けのつかない出来栄えで、鞘も(こしらえ)も完璧に再現されていた。これなら魔術だけでなく、刀本来の物理攻撃にも充分耐え得るだろう。


「あの、もしかしてですけど、これ……」

「うん?いかがした、坊」

「俺、刀剣はあんま詳しくないんでアレですけど、これ、もしかしなくても宗茂に与えた“長光(おさみつ)”では……」


「ははは。やはり坊は知っておったか」

「やっぱりーーー!!」


 高橋紹運は息子・宗茂を戸次道雪の婿養子として送り出した際、自身の持つ名刀・長光を与えて、「これより先は親子とは思わぬように。もしも儂と道雪どのが敵対する事あらばそなたはこの刀で儂を討て。もしもそなたが不始末をしでかして道雪どのに害を与えるようなら、この刀で自害いたせ」と訓じたという。

 宗茂は他にもうひと振り、水田長光という銘の長光を所持していたというが、このふた振りの“長光”が同じものであるかは定かではない。



 こうして絢人は備前の名工、長光の刀を手に戦うことになった。もちろんメディアが霊器として加工して、鍔に五色の宝石を付けたため寸分違わぬ同じものとはいかなかったが。というか紗矢が追加で鞘に[遮界]を施して、刀自体を常に隠して常時携帯できるようにしてくれたため、絢人がそれを持っていると知っているのはこの場の三人と二柱だけではあるが。

 そして名刀を手にテンションのだだ上がりした絢人は、なんと課題だった霊炉の起動と霊力のコントロールまであっさりとクリアしてしまったのだった。


 要するにそれは、絢人が考えた通りに「外部からの補助があれば起動がスムーズになる」ということの証左であったが、絢人はもちろん解っていない。そしてそれを正確に理解している紗矢はといえば。


「あれだけ散々振り回されたのは一体何だったのよっ!!」


 あまりにも簡単にいき過ぎたものだから逆ギレしていた。


「まあ良いではないか(あるじ)よ。万事収まったのだから後は戦い、勝つだけよ」


 気持ち悪くデレデレしながら刀の鞘に頬ずりする絢人の隣で紗矢が激怒し、それを紹運が宥めてはいたが、ともかくこれでようやく絢人も戦う態勢が整ったと言えよう。ただしそれはあくまでも最低限の、と但し書きが付くものでしかなかったが。

 だがとにかく、明日からはようやく、他の参戦者を探して市内を探索することになる。







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