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03-08.霊器(2)



「トリガーは『破壊』で設定しておいたわ。それに合わせて強度を本物よりも弱くしてあるから、煉瓦塀にこするだけでも簡単に壊れるはずよ。

その代わり、壊れやすいから扱いには注意なさいな」

「ええ、ありがとう。助かったわ」

「お礼なんていいわ。私は召喚主(アナタ)の英霊なのだもの、主のために力を尽くすのが当然じゃない?」

「……なんか貴女にそう言われちゃうと、裏切りのフラグみたいに聞こえるのだけれどね?」

「まあ酷い。本当に裏切ってやろうかしら」


 言いながら、ふたりとも笑顔である。


「あと、坊やにはこれをあげるわ」


 メディアが振り向いて絢人に歩み寄り、小ぶりな魔杖(ロッド)を手渡す。30センチメートル程度の短い杖には、先端部に小さな宝石が5つ付いていた。紗矢の指輪と同じ宝石だ。


「え、これは……?」

「私が昔使っていたものの[複製(コピー)]を少し改造したものよ。5つの石には坊やが最低限戦えるようにそれぞれ術式をセットしておいてあげる。くれぐれも肌身から離さないようにね?」


「なるほど、確かに今はそれがベターな方法だろうな」


 ザラが感心したように言う。確かにトリガーさえ起動すれば魔術が発動する霊器を持たせるのが、現状で絢人を戦わせる唯一の手段であると言えた。


「さて、なんの術式を込めましょうかね?」


 言いながらメディアは紗矢を見る。絢人の同盟者であり、メディアの契約者でもある紗矢の意向を尊重しようというのだろう。


「まず[投射]は絶対ね。それから[遮界]と[還解]も。

あとは……絢人は何か使いたい魔術、あるかしら?」

「て言われても、俺まだ詳しい魔術の分類も知らないんだけど」


「そっか、メディアにそのあたり教えさせるつもりでまだ授業に取り掛かれてないんだったわね。

⸺じゃあ、そうね。[強化]と[跳躍]でどうかしら?」

「俺分かんないから紗矢に任せた」

「ええ、初心者にも難しくなくていいと思うわ」


 メディアは絢人から魔杖を受け取ると、紗矢の指輪と似たような手順で術式を込めていく。[契約]でトリガーを設定する段になって、ふと彼女は手を止めて絢人の方を見る。


「トリガーなのだけど、坊やは何がいいかしら?」

「え、あ、うーん。分かりやすいものなら何でもいいけど……」

「あまり分かりやすすぎるのも敵に読まれちゃうのよねえ」

「んー……」


「……日本語でいいんじゃないかしら?短い音節で、絢人が分かりやすく覚えやすい言葉がいいわね。私の見たところ、他の参戦者で日本人は小石原くん以外にはいないみたいだったから、[翻言]を無効にしておけば言葉で読まれることもないと思うわ」


 横で見ていた紗矢が言う。確かにそれなら、相手がザラのように日本語を学んで覚えているのでもなければ聞き取られる事もないだろう。


「そう。その日本人には読まれてもいいの?」

「小石原くんは、魔術師としては絢人と同レベルのはずだから聞かれても問題ないと思うわ」

「というかまあ、理には出来れば攻撃したくないしな……」

「まだそんなこと言ってるの?下手な情けをかけたら逆にこっちがやられるだけよ?彼はやる気だったのを忘れたのかしら?」


「それはともかく、私は日本語が解らないから貴方達で文言を決めて頂戴」



 そして絢人と紗矢が決めたトリガーは、

[放射]がルビーで「放て」。

[還解]がエメラルドで「還れ」。

[遮界]がサファイアで「隠せ」。

[跳躍]がガーネットで「跳べ」。

そして[強化]がダイヤモンドで「爆ぜろ」になった。


 「爆ぜろ」の意味を聞いたメディアは[強化]の術式を組み直して、威力の増強限定に変える。用途を限定することで効果が上がるため、文言に相応しい効果に変えてくれたのだ。


「これは紗矢の指輪とは違って使い捨てではないから、ひとまず5回ずつセットしておいてあげる。使い切ったら補充してあげるから、また持っておいでなさいな」


「ありがとうございます。

⸺でも、いいのかな……」


 絢人はお礼を言いつつ、どこか釈然としない様子だ。


「なにがよ?」

「だってメディアさんはお前が召喚したんじゃん。俺の“戦力”じゃないのに、俺がこんなにしてもらって本当にいいのかな」


 絢人の心配はもっともだ。魔道戦争といえど不正行為があれば罰せられるわけで、裁定者の裁定次第では即敗退、ということも有り得るのだ。そうなれば、同盟を組んでいる紗矢まで敗退の憂き目に遭ってしまう。


「ああ、それならいいのよ。私と貴方は同盟を組んでいるのだし、メディアは私の英霊なのだから、これは同盟相手への戦力供与であって不正にはならないわ。同盟は裁定者が直々に認めたものだし、私たちは彼女の目の前で組むことを匂わせたのだから何も心配いらないはずよ。

⸺まあ、もしもその魔杖を用意したのがザラだったら、不正と取られたかも知れないけれどね」

「私は参戦者ではないからな。始まってしまった以上は私は手を出せんし助けることも叶わん。邸まで帰ってくれば知恵は出してやれるが、それ以外はお前たちだけで乗り切るしかない」


 なんだそんなことか、とでも言いたげに紗矢が肯定し、ザラもふたりで協力することは問題ないという認識のようだ。なら気にすることもないか、と絢人は納得することにした。


「それにしてもメディア。ずいぶん魔術を使ったが、そろそろ休息が必要なのではないか?」


 メディアに向かってザラが言う。

 言われたメディアの方は腰に手を当てて軽く伸びをする。


「そうねえ、さすがに霊炉の半分くらいは使いきってしまったかしら。でもまだ休息が必要なほどではないわね。お昼を頂ければそれで充分」

「いや半分て。どれだけ桁外れなのよ神代の魔術師って」


 さして疲れた様子も見せないメディアを見て、紗矢は呆れるばかりである。霊器ひとつにつき[契約][付与][固定]と3つの術式を使い、それを25個分で計75回、さらに絢人に渡した魔杖にも同じく75回で、合計150回も魔術を使っているのだ。それでいて霊炉本数の半分以下にしかならないというのは人間の魔術師では有り得ないことだ。

 並みの魔術師であれば1日ではとてもこなせない量だし、紗矢であっても霊炉のほとんどを使い果たして、その日の活動が不可能になるほどの作業量なのだ。


「あら、キルケー叔母様なんてもっと凄いわよ?」


 だがメディアは相変わらずあっけらかんとしたままである。

 神代の魔術師ってマジパネェ。そう思って震えずにはいられない絢人であった。


「ああ、ちなみにね?」


 何やら急に思い出したようにメディアが紗矢の方に振り返る。


「さっきの戦闘、会敵の時点で私が半径1キロメートルばかり[遮界]を張っておいたわ。貴女たち三人とあの韻律魔術師だけ取り込んでおいたから、誰にも気付かれてないわよ」


「……へっ?」

「何だと!?」

「マジか!」


「じゃ、そういうことで♪」


 呆気に取られる紗矢とザラと絢人を残して、それだけ言うとメディアはさっさと地上に上がって行ってしまったのだった。







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