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03-01.霊炉の強度

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。



お待たせしました、連載を再開いたします。

ブックマーク、評価、いいね、感想などで応援頂けましたら作者のモチベーションアップに直結しますので、是非よろしくお願いします。

全くと言っていいほど評価されてないので割と凹んでいます。だいぶ切実です。



更新は5の倍数日の20時に予定しています。次回は1月10日です。






「わっ!な、なに!?」


 いきなり布団をはぐられてベッドから吹っ飛ばされ、壁にぶち当たって身体がベッドとの隙間に落ち込む。その衝撃で絢人は目を覚ました。


「ふん。お早いお目覚めだな小僧」


 一体何事かと思いつつ身を起こすと、いつものメイド服姿のザラがこめかみに青筋を立てて腕組みしたまま鬼の形相で立っている。その左足の靴裏が、たった今絢人を蹴り落とした状態のまま自分の方を向いていた。

 いやなんで軍靴履いてんですかアナタ。


「あ……」

「今何時だと思う、小僧?」

「え……えっと、申し訳ないです……」

「何時だと思う、小僧?」


 答えたいが、絢人の位置から見える場所に時計がない。部屋の時計は絢人の頭の真上にあって盤面が見えないし、スマートフォンは充電器がないので電源を落として書き物机に置いたままだ。

 しまった、電源を落とさずに目覚ましをセットしとくべきだった、と思ったが今さらもう遅い。


「え、えーと、7時……ですか?」


 言った途端に顔面に靴の裏が飛んできた。


「7時半だ愚か者め!!」

「ギャアッ!」


 靴の裏と壁で挟撃されて絢人の口と後頭部が悲鳴を上げる。完全に寝坊してしまった自分が悪いのだから文句の言いようもないが、頭が潰れるかと思うほどの衝撃と痛みで一瞬意識が飛びかける。

 顔面から靴が離れ、ベッドに突っ伏す寸前で絢人は何とか意識を取り戻した。

 だがザラとしてはこれでもずいぶん手加減してやっているのだ。本気ならばまず[投射]の2~3本でも突き刺しているのだから。


「ハッ、命拾いしたな小僧。もしも意識を失おうものなら、今度は両足でお見舞いしている所だったぞ」


 いやこの人絶対やるでしょそれ。


「ご………ごめんなさい……」

「ふん、さっさと服を着て降りてこい。食器が片付かんではないか」

「ふぁい……」

「10秒以内だ!」

「ひゃいっ!?」


 絢人の人生で早着替えの最速記録が出たのがこの時である。後に彼はこの時のことを述懐して「あんな怖い思いは二度としたくない」と語ったとか。



 閑話休題(それはともかく)


 絢人が大急ぎでダイニングに駆け込むと、メディアがそれを見て大笑いを始める。テーブルに着いたままの紗矢が今までで一番冷たい声で一言。


「顔洗って来なさいよ」

「へ?」

「いいから、食べる前に顔洗ってこいっつうの!」


 大慌てで絢人は一階のバストイレに駆け込み洗面台の鏡を見る。顔面にくっきりとザラの靴跡が付いていた。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「……で、なんでメディアさんまで朝飯食べてるのさ?」


 メディアにさんざん笑われながら食事を終え、鬼の形相のままのザラが食器を下げて行ってから、絢人が恐る恐るメディアに聞く。


「あら、英霊といえどエネルギー補給は重要よ?何もなしに霊炉を稼働させられるわけもないのですからね?」


 聞けば、英霊であっても人間と同じように睡眠と食事は重要なのだそうだ。霊力そのものは召喚主である契約者と繋げた経路(パス)から供給されるから不要といえば不要なものだが、それだけに頼っていてはいざという時に霊力が枯渇しかねないという。


「最悪の場合、契約者の方が英霊から霊力の供給を受けることだってあるの。だから英霊は英霊で自分の霊体(からだ)にある程度霊力を溜めとくのよ」


 まだ食べている紗矢が補足する。彼女もメディアも絢人がなかなか起きてこないので、朝食がお預けになっていたのだった。


「霊力、つまり霊炉の回復に必要なのは睡眠、休憩、そして食事。これは人間の魔術師でも英霊でも変わりはないのよ。

それに元は私たちも人間と同様の存在なのだから、現界中の食事を楽しみにしている英霊も多いわ。まあ、食事に関しては人間と同じものでなくとも構わないのだけれどね」

「……?」


 メディアの言葉の意味がよく分からず、絢人が不思議そうな顔をする。それを見て、悪戯っぽい笑みを浮かべてメディアが続ける。


「要するに英霊(わたしたち)の食事は霊力回復のためなのだから、一番手っ取り早いのは中位霊体(ロー・ソウル)の霊核を食べることよ」


「…………は?」


「だから。最悪の場合、そこらの小動物を食べちゃうのよ。犬とか猫とか鼠とか、あと人間とか」


 呆れ顔で紗矢がさらに補足する。


「えっいや、ウソでしょ!?」

「あら、嘘なものですか」

「本当よ。まあ私はそういうのを禁止する契約を組むからこの人にはさせないけど」

「私はそこまで追い詰められるような事も滅多にないから、それでも平気なのだけれどね。でも弱い英霊や弱い召喚主だったら、どうなるか分からないわねえ」


 そ、そうだったんだ……英霊って怖い……。


「ということで、朝食が終わったらあんたの霊炉の強度を測定するわ」

「え、なに?」

「霊炉には強度ってものがあるの。その強度の数値のぶんだけ休憩や補給なしで霊炉が回せるんだから、自分の霊炉の強度をあらかじめ把握しておくのは大事なことよ」



 魔術師や英霊の身に備わる霊炉は霊力の発生装置というべきものだが、無制限で稼働がかなうようなものではない。稼働回数に制限があり、その上限に達するとその霊炉は休息し回復させない限りは使えなくなってしまう。

 もしその制限を無視して無理に稼働させようとすれば破損してしまい、最悪の場合は二度と使い物にならなくなることさえあるという。


 強度にはランクがあり、SSからEまでの10段階に分かれる。SSが最高でEが最低なのだが、人間の魔術師でA+を超えることは通常は有り得ない。

 一般的な魔術師の平均値はCで、強度は10となる。つまり同じ霊炉を連続で10回稼働させればそれ以上は使えなくなるわけだ。

 そして一般的にはそれ以上、つまり強度にしてB以上であれば充分に優秀と言える。なおB以上は判定に+がつき、C以下は+がなく、強度数値は2刻みである。


 ちなみに紗矢はこの強度がB+、つまり14ある。12本ある霊炉の本数と並んで、この強度も紗矢の強みのひとつだった。多くの霊炉をたくさん使えるということは、持久力や戦闘継続性という意味で大きなアドバンテージになるのだ。

 なお英霊の強度の平均はA、つまり16である。メディアの場合は特に強力で、強度Sを誇っていた。数値換算で20である。


 ただし、紗矢にしてもメディアにしても強度の数値は公にしていない。霊炉強度がいくつか分からない、つまり何発の魔術が飛んでくるか分からないというだけで戦闘においてはひとつのアドバンテージになるのだから、秘匿するのは当然と言えた。

 霊炉の本数、強度、そして霊痕と霊核の位置。魔術師には隠さなければならない情報が多いのだ。命を懸けて戦うのだから、自分の情報は厳格に管理して他人には一切明かさない。そうでなければ対策を取られてしまうのだから当然と言えた。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「で、あんたの霊炉の強度だけど」


 念のために地下に降りてから[解析]で調べた紗矢が、呆れかえった顔を隠そうともしない。


「う、うん……」

「…………はぁ。あたしこんなの初めて見たわ。信じらんない」

「え、なんだよ教えろよ。気になるだろ」

「……いい?気をしっかり持って、くれぐれも悲観しないようにね?」

「いや怖ぇな!」


「あんたの強度、E判定より下だったわ」

「…………は?」


 霊炉の強度は10段階、最低はEで強度は6である。先ほどの説明では確かにそう言っていた。それなのに、Eより下とはどういう事なのだろう。なんで下回るのか。


「そんなのあたしが知りたいわよ!」

「ねえ紗矢。私、この仕事降りてもいいかしら?」


 さすがのメディアすら呆れている。いくら神代の大魔術師といえども、才能の皆無な生徒はどうしようもないのだ。


「まあ暫定的にE-、強度は5といったところか。

滅多に起こり得ない事例だ。これだけで魔術論文が一本書けるな」


 一緒に地下について来ていたザラさえも失望を隠さない。昨夜『彼が戦えないなら自分が戦えるようにしてやる』と決意したばかりだというのに、これではさすがに手の施しようがなかった。


「いやちょっと!みんな!見捨てないで!」


 居並ぶ魔女と美女と美少女からなんとも言えない失望の眼差しを浴びせられ、さすがの絢人も涙目である。剣道の腕ならばそれなりに自信もあるが、まさか魔術がここまでダメだとは思ってもみなかった。

 その絢人の背をザラが優しく叩く。


「短い人生だったな。⸺まあ心配するな、墓はちゃんと建ててやる」

「いやあ~~~~~!!」


 朝の鬼の形相から一転して憐れみの視線を向けられて、朝とは違う意味で絢人は悲鳴を上げるしかなかったのだった。







【霊炉強度について】

霊炉には強度があり、強度にはランクがある。現在確認されているランクは以下の10段階。

強度の数値は回数で、霊炉1本につき強度の数値まで魔術が放てる。紗矢はこのランクがB+、つまり霊炉1本で連続14回の魔術を行使できるということ。それ以上は休憩と食事を挟んで、霊炉を休め回復させなければならない。もしくは別の霊炉を起動するかである。


基本的に人間の魔術師は高くてもA+まで。Sに届いた者は稀だがいなくもない。


SS:40

S+:30

S :20 ※血鬼や上位竜種の平均値

A+:18

A :16 ※英霊の平均値

B+:14

B :12

C :10 ※一般的な魔術師の平均値

D :8

E :6


※数値は仮。S+以上は推定値。

なお作中では当初は主人公(絢人)の霊炉強度はEを下回っており、暫定的にE-(5)と判定されている。



ちなみに、【開戦前】1-05.で紗矢が行っていた『術式を霊炉にセットする行為』を行うと、詠唱して霊炉を起動させるだけでその術式の発動フェーズに移行する。ただしその霊炉ではセットされた術式しか行使できなくなる。

術式[召喚]に関しては、召喚された存在が消滅するなどして術式が終了すれば再度[召喚]ができるため、八重羽雉などの「召喚してもすぐ消える」タイプの化生(けしょう)付喪(つくも)が重宝される。[召喚]では被召喚対象と術者が起動に使用した霊炉が“経路(パス)”で繋げられ、召喚主と被召喚対象とで霊力のやり取りが可能になるが、英霊を召喚すると英霊が現界を終えるまで経路で繋がった状態、つまり霊炉が起動しっ放しになるため霊炉が1本塞がることになる。

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