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02-03.明らかになる事実(1)



「あ、いや、ちょっと待って。その前に自己紹介とかお願いしたいんだけど。あと、(うち)に連絡も入れないと」


 そう言われて紗矢が振り子時計を見ると、もう夜9時を回っていた。絢人は未成年なので、彼を泊めるなら彼の家に連絡して家族の了承を取り付ける必要があった。


「あー、そうね。じゃあ今連絡しなさい」

「いやでも、なんて言おうか……」


 まさか魔術師になったから魔術師の家に住む、などと言えるはずもない。同級生とはいえ女の子の家に泊まり込む、というのも普通は簡単に許してもらえる話ではないだろう。


「そこは……まあ、なんかいい具合に言い訳考えなさいよ」


 紗矢も思いつかないようで絢人に丸投げである。

 仕方なく、絢人はスマートフォンを取り出して家に電話をかけ始めた。


「あ、もしもし母さん?うん、絢人だけど。

いやそれがね、ちょっと事情があって友達の家に泊まることになっちゃってさ。……え?う、うん、その……黒森っていう子の家なんだけど。

…………は?え、いや、まあいいけど。⸺じゃあちょっと待って」


 そこまで話してから、絢人は不思議そうな顔で紗矢にスマートフォンを差し出してきた。


「なんか、うちの母さんが話したいって」

「え、わ、わたし!?」

「黒森の家の人と直接話す、って言うんだもん。お前しかいねえじゃん」

「ええ……」


 そう言われては仕方ない。渋々、紗矢は絢人のスマートフォンを受け取り耳に当てる。


「もしもし、お電話代わりました」


『黒森家の、紗矢様でいらっしゃいますね?

わたくし、絢人の母で(さくら)と申します。紗矢様におかれましては、“白石(しろいし)桜”と名乗った方が通りがよろしいかと存じます』

「え、てことは貴女、白石の?」

『はい。現当主、白石(いわお)の妻である白石(あずさ)の姉でございます』


 紗矢は驚きを隠せない。白石(しろいし)というのは黒森の分家筋のひとつで魔術師の家系だったのだ。

 白石の家から一般人に嫁いだ者がいる、という話は黒森家にも伝わっており、紗矢も父から聞いたことがあった。その時はよくそんなことが可能だったものだと感心しただけだったが、まさかそれが絢人の母親だったとは。

 そして紗矢は絢人の妹、柚月から霊核を感じたことを思い出す。なるほど、母親が白石の出ならば彼女が魔術師の素質を持っていても何の不思議もない。そして絢人も、霊核が[貼付]で隠されていただけで普通に母の能力を受け継いでいたのだろう。蓋を開けてみれば納得の話であった。

 ということはつまり、紗矢と絢人は遠い親戚同士ということになるわけだ。


 お互いが魔術師ならば話は早い。桜は魔道戦争も察知していて、紗矢が参戦することも予測していた。絢人が参戦者になってしまった事を伝えるとさすがに驚いた様子だったが、すでに処置して魔術師として覚醒させたこと、期間中は紗矢と同盟ということにして常に共に行動することなどを伝えると安心したようであった。

 紗矢は総持の死と自身の黒森当主就任も伝え、父の葬儀や白石への連絡はおそらく魔道戦争後になるという話もする。桜は、自分は霊核を封印されていて今は一般人なので、白石のことは関知できないと言った。



「はあ。世の中って案外狭いわねえ。

貴方のお母さん、魔術師だったわ」


 電話を切り、スマートフォンを返しながら紗矢は絢人に言う。


「…………は!?」

「今は封印されてて魔術は使えないそうだけどね。お母さんの旧姓、知ってるわよね?」

「え、それは白石(しろいし)だけど……」

「白石家っていうのは黒森の分家筋なの。

つまりね、貴方と私は親戚同士ってことになるのよ」

「はぁ!?マジで!?」


「白石から一般人に嫁いだ者がいるというのは私も聞いたことがある。それを認める代わりに霊核と霊痕に封印を施して、魔術師としては死んだも同然という話だったが。まさかそれがコイツの母親だったとはな」


 絢人だけでなくザラも驚きを隠せない。この場の誰もそんな事だと想定すらしていなかったのだから、無理もない。


「というわけで、一も二もなくOKだったわ。話早くて助かっちゃった」


「母さんが……魔術師……ウソだろ……」


 聞いても信じられない様子で絢人が頭を抱えている。それを見てつい紗矢はイタズラ心を起こした。


「貴方も魔術師になったからついでに教えといてあげるけど、貴方の妹、柚月にも霊核が出てるからね?あの子も魔術師よ」

「ウッソだろ!?」

「まああの子の場合はまだ誰からも手ほどきを受けてないみたいだから、自分じゃ何も気付いてないはずよ。でも私の目には結構ハッキリした霊核が見えてたから、あの子魔術師としては結構な素質を持ってると思うわよ?」


「マジか…………」


 身近な誰かが魔術師かも知れないが、それを確かめる術はない。ゆえに魔術師だからと、魔術師かも知れないと偏見や差別を向けることのないように。そして仮に魔術師だったとしてもそっとしておくように。そう言った甘木先生の言葉が耳に蘇ってくる。だがそれでも、絢人は他人事だと思っていた。それがまさか、身内も含めてこんなにも身近にたくさん存在していたなんて。しかも赤の他人だと思っていた紗矢が、親戚?

 まだこれから魔道戦争のことも魔術師そのもののことも知らなければならないというのに、自分の周囲の情報量だけで、もはや絢人の脳内は溺れる寸前であった。







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