【幕裏-絢人】07.そして運命は廻り出す(2)
「うわ、なんだこれ!?」
「裁定者に従わない場合、その隷印が貴方がたの霊核に攻撃を与えます。三度の攻撃ののち、四度目で霊核は砕かれるでしょう。心するように。
敗北あるいは死亡すれば印はその時点で解かれます。もちろん勝者となった場合も」
「本当に、彼らを参戦させるの?」
紗矢が半ば諦めたような困惑した表情で今一度問いただす。
「隷印は参戦の証。それ以外に私から述べることはありません」
自称ジャンヌは澄ました顔で、とりつく島もない。
「ああそれと。参戦者同士の同盟や連合は自由とします。同盟者が勝者となった場合、談合で誰が獲得するか決めることも許可します。
話は以上です。解散して構いません」
「な、なあ。ところで、あんたがジャンヌ・ダルクって本当なのか?」
我慢できずに、絢人は自称ジャンヌに問いかけた。
絢人にとって今一番重要なのはこの話題だった。歴史好きの絢人としては、ジャンヌ・ダルクだと名乗られては本物かどうか確かめずにはいられない。
確かに雰囲気からしてただのコスプレとも思えないが、一方で彼女は普通に日本語を喋っている。絢人としては判断がつかない。
「そうですよ」
そして彼女は爽やかな笑顔で肯定してきた。
「だ、だってジャンヌは15世紀の人物で、それが現代に生きてるなんておかしいじゃないか!しかも日本語喋ってるし!なあ黒森、どうなってんだよこれ。これも魔術かなにかなのか?」
「ふふ。そのあたりの詳しい話は彼女からお聞きなさい」
自称ジャンヌは、軽く微笑むだけで自ら説明しようとはしない。
「それよりも今は、貴方がたふたりはまず彼女の助力を仰ぐか決めるべきではありませんか?」
そして彼女は、絢人と紗矢と、振り返って理にも声をかける。
「オレはひとりでやる。そいつらとは組まない」
「なんでだよ理。お前だって右も左も分かんねえんじゃないのか?」
「オレにはすでに助力者がいる。お前らとは違うんだよ」
理はそう言ってニヤリと笑う。
「小石原くん、悪いことは言わないから奴らとは手を切りなさい。貴方のためになるとは思えないわ」
どうやら紗矢には、理が言う助力者というのに心当たりがあるようだ。
「ふん、余計なお世話だ。いいか覚えてろ、お前らへの復讐もこっちの目的のひとつに入ってるんだからな」
だが理は紗矢の申し出を拒否しただけでなく、憎らしげな目を絢人と紗矢に向けて明確な敵意を露わにしてきた。理の逆恨みは今に始まったことではなかったが、今回は少々根が深いように絢人には感じられた。
「私たちに何の恨みがあるというの?」
「そうだぞ、俺たちずっと友達じゃねえか」
「うるさい!お前らにオレの気持ちなんか分からないだろ!」
「貴方ね、魔道戦争がどういうものか解っていて?」
「ハッ。少なくともそこのバカよりは解ってるさ。なに、他のヤツらを、太刀洗もお前も全員殺せばいいんだろ?簡単じゃないか。しかも魔術師の世界の話だから人間社会の法律や常識は無視でいいんだろ?願ったりだよ!」
「はぁ。やっぱり解ってないわね、貴方」
理の言葉を聞いて、呆れたように紗矢がため息をつく。
どいつもこいつもバカばっかり、とでも言いたげだ。
「俺は、お前と殺し合うのは嫌だけどな……」
理に殺すとまで言われてさすがに絢人はショックを隠せない。今まで彼のためによかれと思ってしてきたことが、まさか恨みの対象になっていたとは。
それまでの苦労を全て否定されたようで絢人は悲しかった。理とはもう少し解りあえていると思っていたのに。
「これだからお前は甘ちゃんなんだよいつまで経っても!オレの欲しいものを、オレの目の前でいつもいつも全部奪っていきやがって!今度は俺が奪う番だ、覚悟しとけよ!」
苛立ちをまき散らすかのように怒鳴り捨てると、理はそのまま公園から出て行ってしまう。絢人が引き止める暇もなかった。
「貴方がた三人は友人同士のようでしたので参戦を認めましたが、少し早まりましたでしょうか…」
彼らやり取りを黙って眺めていた自称ジャンヌが、少し気まずそうに申し訳なさそうに言う。
「いや、友達だけど」
「いえ、友達じゃないわ」
それに対して絢人と紗矢が同時に真反対のことを口走った。
「ていうか、そういう関係性が分かってて殺し合いに参加させるってどういう神経してんのよ!」
「いえ、それは……お互い助け合いの精神で……」
「その余計なお節介の結果がこれよ!だいたいあんたね、英霊だか聖者だかなにか知らないけど、ちょっと無条件で人ってものを信じすぎなのよ!」
「えええ……」
「いや……黒森、相手は歴史上の偉人だからさ……」
物凄い剣幕で紗矢に怒られている自称ジャンヌが少し可哀想になって、思わず絢人は助け船を出そうとする。
「だから何よ!?今目の前にいるのはこのなんにも解ってないぽやっぽやのお嬢さんなの!人の苦労も知らないで、勝手に混ぜっ返すなって言ってんの!」
だがかえって紗矢の怒りの火の粉をもろに浴びてしまった。
「と、とりあえずさ、俺に魔道戦争のこと教えてくれよ。まずはそこからだってジャンヌも言ってただろ?」
「え、ええ、そうです。おふたりの奮戦を期待していますよ」
「あんたは黙ってなさいよ!」
「ふえぇ……!」
一喝されてさすがの自称ジャンヌも形無しである。可哀想なくらい縮こまって半分涙目になっていた。
「…………はあ、もういいわ。話終わったんでしょ?私たちも帰るわ」
「あっ、はい……お疲れ様でした……」
「あ、そう言えばあんたとコンタクト取りたいときはどうするのよ?」
「あ、えっと、私はこの地の聖典教会におりますので。それと参戦者が念じて私を呼べば、基本的にはいつでも参じます」
「そう。じゃ、そういうことで」
そこまでで話を打ち切って、紗矢はひとりでスタスタと駅の方へ歩いていく。絢人はそんな紗矢と自称ジャンヌを交互に見比べつつ、結局は紗矢を追いかけるしかない。
後には所在なさげに自称ジャンヌが独りポツンと立っているばかりだった。
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