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縁(えにし)の旋舞曲(ロンド)【Fabula Magia 魔術師の世界の物語】  作者: 杜野秋人
【序章3】とある女子高生の3日間
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00-11.聴取(2)



 霊核(コア)は魔術師における心臓に等しい器官で、魔術師が必ず備えているものである。霊体(アストラル)として存立するためには霊核を中心に霊体としての身体となる霊躯(エーテル)が構成されていなければならず、霊核と霊躯が備わって初めて霊力(オド)の生成器官である霊炉(エンジン)が形成される。そしてそれらは魔力や霊力を感知できる魔術師同士でなければお互いに気付くことはない。

 ただ器官といっても形のあるものではなく、言わば概念的なものだ。紗矢(さや)のような存命中の魔術師に至っては、霊躯は実体で代用できるから事実上備わらないのが普通である。


 で、彼女。太刀洗柚月(ゆづき)である。霊核が備わっているということは彼女は魔術師、少なくとも魔術師の素養を持っていることになる。ただ霊炉が稼働している様子はない。魔術を用いて魔術師である事を秘匿しているのなら霊核さえも見えないのが普通なので、彼女はおそらくまだ(・・)魔術師ではない。

 ということは、彼女の両親のいずれかが魔術師なのだということになる。彼女はその素質を受け継いだだけなのだろう。

 ただ、紗矢は太刀洗絢人(けんと)から霊核を含めて霊力を感じたことは今までなかった。だとすればこの兄妹は実の兄妹ではなく、血が繋がっていないということになるだろうか。


「美郷、まずは紹介してもらえるかしら?」


 とりあえず、紹介してもらわないことには始まらないので、紗矢が美郷を小突く。


「あっ、そうだね。ごめんごめん。こっちの背の高い子が小石原緑。理の妹って言ってた子。で、隣にいるのが絢人の妹で柚月。ふたりとも小さい頃から音塚神社の境内で一緒に遊んでた幼馴染って事になるね。

で、こっちはアタシの中学時代からの親友で、黒森紗矢って子。ふたりとも仲良くしてやって♪」


 美郷が手で示しながら緑と柚月を順に紗矢に紹介し、翻って彼女たちにも紗矢を紹介する。


「はじめまして先輩。よろしくお願いします」

「はじめまして。えっと、黒森先輩って、もしかして黒森不動産の…?」


 緑と柚月がそれぞれ紗矢に向かってお辞儀する。新入生らしく初々しくて可愛らしい仕草だ。

 そして柚月は紗矢の素性に気付いたようだ。


「はじめまして。ふたりとも、これからよろしくお願いするわね。

ええ、そう。私は黒森不動産の社長の娘ということになるわ。でも構えなくて大丈夫よ、親の仕事なんて私に関係ないもの」


 事実上の社長代理を務めていることは、それこそこの子たちに関係ないことなので言う必要もない。


「やっぱりそうなんですね!うちの家を買ったときも黒森不動産でお世話になったんです!」

「あら、そうなの?お買い上げ頂きありがとう。

…まあ、買ったのは貴女の親御さんでしょうけれど」


「それで…あの、先輩が兄のことを知りたがってるって昨日みさとちゃんから聞いたんですけど…」


 やだ美郷ったら、昨日のうちにもう話を通していたの?

 まあ、幼馴染だと言うくらいだし、連絡先くらい交換していてもおかしくはないでしょうけど。


「美郷、まさか今朝ここでこの子たちと待ち合わせしてたの?」

「ん~?まあ半分は偶然かなあ~?」

「偶然なのは私が居合わせたことだけでしょう?」


 腕時計を確認すると7時45分を過ぎていて、今から話をしようにも少し時間が足らなそうだ。それに人目に付かない場所というのも校門周辺には見当たらない。周囲には登校してくる生徒も次第に増えてきていて、主に新入生たちが紗矢の存在に気付いて、その美貌に驚愕と羨望の眼差しを向けているのも感じ取れる。

 あまり目立つのは好ましくない。それに理ももういつ登校してきてもおかしくない。時と場所を変えた方が良さそうだ。


「とりあえず、こんなところで立ち話もなんですから、話はお昼休みにしましょうか。また屋上で会いましょう?」

「あっ、はい、分かりました!」

「太刀洗さんも、美郷もそれでいいかしら?」

「あっ、はい!」

「えっ、アタシも?」

「…なによ、嫌なの?あなたがいないとこの子たちが緊張しちゃうといけないでしょ?」


(自分と面と向かって相対するとみんな緊張する、って普通に解ってるんだよなあ、この子。それが分かってるんならもう一歩進んで、なんで緊張するのかまで解ってて欲しいんだけどなあ)


 と、美郷は心の中で少しだけ毒づく。彼女だって紗矢の美貌やプロポーションに嫉妬しないわけではない。本人がそれを一切鼻にかけていないから妬ましく思わずに済んでいるだけなのだった。


「まあいいけどさ。じゃ、お昼休みね」

「ええ。それじゃあ3人とも、また後でね」


 そう言って紗矢はひとりさっさと校舎に向かって歩いていってしまう。残った3人は、無言で顔を見合わせて、それから肩をすくめあうのだった。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「で、なぜ太刀洗くんまでここにいるのかしら?」


 昼休み。昼食を終えて紗矢が屋上へ上がってくると、そこには美郷と緑と柚月だけでなく、太刀洗絢人まで待っていた。


「だーから絢人が一番分かってるんだってば♪」


 例のニマニマ顔で美郷が言う。

 この子、絶対最初から仕組んでいたわね。


「ん、まあ、俺は美郷に言われて来ただけなんだけど。

なんか…その、悪い」


 バツが悪そうに絢人が言う。

 事情をよく知らずに呼び出されるまま来たのだろう。黒一点であることも含めて、彼は何となく居心地が悪そうだ。


「…まあいいわ。太刀洗くんにも話を聞きたいのは本当だもの。

それで、小石原くんのことなんだけど。最近何か変わった様子はなかったかしら?気付いたことがあれば、教えてもらえると助かるわ」







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