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第390部分

「……ええと、それってそんなにいう程の問題なんですか?」


 とはいえ、それが乙女からすれば結構な問題にもなり得る、という事は先の旅路に於いてひたすら風呂に入る事を求めていた当人でもあるアイシスには良く理解出来る事ではあったのだが、それも冒険の最中なら仕方が無いと我慢していた事もあり、暫し考えても此度の件に於いても解釈は変わらなかった事でそう訊き返すに到る。


「無論じゃろう……いやお主まさか、冒険者たる者はそういった、冒険と無関係なものは我慢して然るべき、とでも考えておるのか?」


 しかし、その質問にもシラユキは呆れた様子を隠さずにそう即答するが、そこでアイシスの考えに気付いたのか、或いは疾うに気付いていてそう振舞ったのかは定かではないが、それを確かめる様に更にそう問い返す。


「え? 違うんですか? だって、冒険の最中にそんな事を気にしてたら……危なくないですか?」


 その師の甚だに意外な言葉に、いや直近の言動からすれば寧ろ当然の言動ではあるのだが、冒険という、言ってしまえば異常な状況に於いても、髪や皮膚の保湿等を……つまり美容についても考えるべき、という旨の言葉を千歳を超えて大賢者とまで呼ばれる者の口から聞くとは思わなかったアイシスは思わずそう聞き返すと、途中にまた少考を挟みつつも更に質問を返す。


「うむ。故に、自身や他者の生命が掛かっている時は勿論、何らかの事情により時間の余裕が無い時にまでそうしろとは言わぬが、冒険者であろうと、いやどの様な職業や立場にあろうとも、常に優先すべきは自らの生を楽しむ事……であるべきじゃろう?」


 とはいえ、それはつまり「冒険とは危険なものではないか」という旨の質問である為、当然ながらシラユキもそんな事は理解した上での言葉であろう、と考えていた当人も別にそれが反論になるなどとは思っていなかったのだが、それを受けたシラユキは意外にも頷いてそれに肯定の意を示す。


 しかし、それがその口から語られたという事が意外だったというだけであり、その内容自体は当人が心の底ではそうあるべきではないか、と考えており、意識して行った訳ではないものの割と実践もしていた事と概ね一致していた為、それに偉い人から太鼓判を押して貰った形となったアイシスは深い納得と喜びから無意識に何度か小さく頷いていた。


「……という事は、冒険者だってお洒落とかもして良いって事ですよね?」


 とはいえ、無論シラユキの言葉自体を疑おうなどと思っている訳ではないものの、まさかシラユキ程の人物の考えと自らが密かに抱えていたそれが一致するなどとは露とも思ってはいなかった事もあり、未だ現実を信じ切れないアイシスは暫しの沈黙の後に口を開くとそう、その言葉への自らの解釈が本当に正しいのかを確認する為の質問を返す。


「無論じゃ……というよりも、お主はそれを分かっておるからその様な服装をしておるのではなかったのか? まさか、その外見の全てが冒険を有利に進める為の機能に基づいておる、などと思うておった訳でもあるまい」


 しかし、未だ半信半疑といったアイシスの態度とは裏腹に、その問いを聞いたシラユキは今度も即答で肯定の意を示すが、今更その様な事を訊かれるとは思っていなかったのか、アイシスの服装を指してそう当人の意思を問う。


 が、当人も既にそれに愛着を持っているとはいえ、少女からすればそれは最初から用意されていた服装であり、そのデザインの意図などに関しても知る由も無い為、言われてみれば……もとい言われるまでもなく良く考えればその通りであるとは思いながらも、本当の所は分からないという事でいい加減に答える訳にもいかず、かと言ってタチバナにも聞こえかねない現状では正直に答える事も出来ない、と困った顔を浮かべて首を振る。


「まあ、冒険者であれ年頃の乙女であればお洒落を楽しむというか、外見に気を配る位は許されて然るべき、という訳じゃな。尤も、無論じゃが本来の目的に反しない範囲での話であり、たとえばやたらと裾の長いドレスなんぞを着て『冒険者だ』などと申しても、頭の出来を疑われる事になるだけじゃろうがの」


 すると、それだけでもアイシスの言わんとする事を理解したのか、続けて口を開いたシラユキは先の質問への答えを強いて求める事も無く改めて結論を述べるが、その様子から自身の主張が正しく受け取られているのかと疑ったのか、或いは単純にそれで話を終えるのではつまらないという事なのか、それはあくまでも冒険者としての活動の邪魔にならない範囲の話である旨をやや毒舌とも言える表現で付け足す。


 とはいえ、それが冗談であるという事位はアイシスも直ぐに理解出来ていたはいたのだが、無論あくまでも創作での話であるとはいえ、自身の記憶にはそれに反している、つまり「頭の出来を疑われ」かねない例が結構な数存在する事に気が付くと、つい小さく笑い声を漏らしてしまうのであった。

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