第384部分
「……だとすると、言葉遣いには気を付けないといけませんね。見た目が可愛らしいからって、いや未だ実際に見た訳ではないんですけど、兎に角子供扱いなんてしたら怒られちゃいそうです」
ともあれ、そのタチバナの一連の思考は例によってそこまで長い時間を掛けて行われた訳ではなかったものの、それでもシラユキの返答から暫しの間は何かを考える様な沈黙を挟んでいたアイシスは漸く口を開くと、その思考によって到った結論を口にする。
「いや、子供扱いなんぞしたらそれは怒るかもしれぬが、別に敬語を使えなどと煩く言う方ではないから安心せい。尤も、当人がその方が楽なのであれば無理に使うなとも言わぬじゃろうが、まあお主にとって自然な口調で話せば問題にはならぬじゃろう」
だが、アイシスとは対照的に直ぐに口を開いたシラユキは開口一番に否定の意思を示すと、その結論の一部というか、子供扱いなんてすれば流石に怒るだろうという事は認めつつも、別に無理して敬語を使う様な必要は無く、自然な口調で話せば良いという旨の助言を送る。
「なるほど。覚えておきます」
尤も、それは一見するとどの様な口調でも構わないとは言っているものの、過去には既にアイシスの敬語について苦言を呈した事がある以上、実際には「下手な敬語は使うな」と指示しているに近いものだったが、別にその隠された意図を察するまでもなく、師の助言に逆らう理由など毛頭無いアイシスは素直に納得の意を示す。
とはいえ、少女自身の性格を考えれば、自身よりも「すっごく年上」であり、かつ初対面の相手である事を考えれば敬語を使う……とまでは言わずとも、少なくとも現在シラユキに対してそうしている様に丁寧語位は使いたいというのが本音ではあったのだが、シラユキにもそこは否定されていない以上恐らくは少女の様な、かつそれを更に小さくした様な姿をしているであろう事と、自身が既にアイシスとして生きる事を決意した事を考えれば、より「自然な口調」となるのがどちらなのかは明白だった。
一方、何だかんだ言っても、つまり頻繁にその意識をアイシス達の会話の方へと割いていても、その誰もが羨む程の優秀な業務遂行能力によって再度時間的な余裕を得た、則ちまた炊飯が済むまでにすべき事を概ね済ませた事で再度一連の話に聞き耳を立てていたタチバナであったが、そのシラユキの言葉には思わず小さく頷いてアイシス以上に納得の意を示していた。
いや、小さく頷いた位では直接言葉でそれを示したアイシス以上とは言えぬだろうという話ではあるのだが、彼の、つまり誰かと直接的に会話をしていても滅多にその思考や感情を表には出さないタチバナが、誰が見ている訳でもないにもかかわらずその納得を動作に示したという事は、それだけそのシラユキの言葉がタチバナにとって深い納得に値するものであった事を意味していたのである。
尤も、厳密に言えば誰が見ている訳でもないからこそそうしたという面もあるのだが、それはさておきタチバナがそれだけの納得を示したのは、当然ながらそのシラユキの説明がまさに過去にフィーが実際に口にしていた通りのものであった為であり、それだけシラユキが「お友達」であるフィーの事を良く理解している事に対する一種の感動による行動でもあった。
いや、少なくとも「お友達」を自称する位であれば、その程度の事は理解していて当然であると言えばそうなのだが、その「お友達」が居た経験がつい最近まで無かった上、それ故に現状存在する友人の事もそう良く理解出来ているとは言えない自らの現状もあり、そのシラユキの友人への理解がタチバナには妙に感動的なものに思えたのであった。
「うむ。しかし、少々余計な助言をし過ぎてしもうたかもしれぬな。折角の初対面、互いを知らぬ故のちょっとしたぶつかり合い位は醍醐味というものであるというに」
ともあれ、文字にすると長くはなるもののそのタチバナの思考も時間にすれば殆ど一瞬に過ぎなかった為、そのアイシスの素直な返答に直ぐに満足げに頷いたシラユキであったが、これまでの自身の言動に思う所があったらしく、決して深刻さを伴っている訳ではないもののそれらへの後悔を口にする。
「いえ。それが偶然の出会いならそういう考えもあるかもしれませんが、今回みたいに既に一応は知っている相手と初めて顔を合わせるだけなら、いや向こうからすればそもそも初対面ですらないんですけど、そういう余計なトラブルは避けるに越した事は無いと思います。というより、避けられた方が嬉しいです私的には」
しかし、何処まで本気であるかは兎も角、それは仮にも師の発言であるにもかかわらず、それを聞いたアイシスは別に先の意趣返しという訳ではないものの開口一番に否定の意を示すと、一応はそのシラユキの考え方への理解を示しつつも、避けられるトラブルは可能な限り避けたいという自身の考えを、最後にはなりつつもそうと明言した上で語るのであった。




