第383部分
「ああ、そう言えばそうでした……って、事はフィーさんもすっごい年――を取ってるって事ですか?」
その忠告に、外見上は人間で言えば精々二十代にしか見えないシラユキと、そもそも未だその姿を直接目にしてはいないものの「妖精」に対するイメージから可愛らしい少女の姿を勝手に想像していたフィーが、何れもその外見通りの年齢という訳ではない事を思い出したアイシスは一先ず納得の言葉を呟くが、そう口にした直後に思えば別にフィーの年齢については特に聞いた覚えが無い事に気付くと、その途中で妙な言葉の詰まらせ方を見せながらもその事実を確認する為にそうシラユキに訊き返す。
いや、その割にはフィーの事をずっと敬称を付けて呼んでいたではないか、という話ではあるのだが、それはこれまでに主にその話を聞いた先であるタチバナもそうしていた事と、仮にも師であるシラユキの友人らしき相手に対して呼び捨てにする事には抵抗があるという事、そして何よりも本来の少女の性格からして初対面の他者を当人の許しも無く呼び捨てにする事には更に甚だの抵抗があった、という三種の理由により特に意識をする事も無く自然とそう呼んでいたのであった。
なお、それとは全く無関係……という訳でもなく、意識せずに言葉にしがちという意味では関連している話として、その発言でアイシスが「フィーさんも」の後に続く言葉を若干詰まらせたのは、例によって無意識に近く言葉を紡いだ結果、思わず「すっごい年寄り」という言葉を選んでしまいそうになった為であり、いくら何でも自らの師をそう表現する事が良い事ではない事には自身でも既の所で気付いた結果、どうにかして既に口にした部分から繋がる言葉を新たに選ぶまでに一定の時間を掛ける必要があった為であった。
「うむ。まあ、あ奴も一応は女性じゃからな。歳を勝手に教えるのもどうかと思う故、具体的な話は後で本人から聞けば良いと思うが、少なくともお主らよりはずっと……お姉さんだという事は確かじゃな」
一方、その際の詳細な内心までは兎も角、その言葉の詰まらせ方からしてアイシスが何かしらの失言をし掛けた事位は恐らく理解していると思われるにもかかわらず、それを聞いたシラユキは誤魔化そうとした弟子の努力を認めたのかその事には触れずに頷くと、礼儀を理由に具体的な年齢を教える事は避けながら、かつ此方も若干言葉を選びながらもフィーにも自身と同様に外見と年齢には乖離がある旨を明言する。
しかし、普通に考えればそれはフィーへの配慮による言動であると考えられ、事実それを聞いたアイシスも特に考えるまでもなくその言葉の通りに受け取っていたが、別にその裏を疑っていたという訳ではないものの、既にフィーの年齢について当人から聞いていたタチバナには別の可能性も考えられていた。
則ち、フィーから聞いた話が事実であれば、いや当人にはその様な嘘を吐く理由も無い為に恐らくはそうであるのだが、フィーが自身よりも遥かに年上である事を明かすとなれば、確率は低いもののアイシスが自分達を同列視して「それじゃあ、フィーさんの前では私達は姉妹みたいなものですね」とか言い出しかねない上に、そうでなくとも「自身がフィーから見れば子供の様なものである」という視点で見られるという事自体が、誇り高いシラユキとしてはあまり歓迎出来るものではなかったのだろう、とタチバナには思えたのであった。
いや、どの道フィー本人から聞く事になるのであれば変わらんだろう、という話ではあるし、そもそもこれまでの言動にはこれといってシラユキの誇り高さを示す様なものは無かったというか、寧ろあまりそういう点を、つまり自身がどう見られるかを気にしていない風にも思えたが、タチバナが内心でとはいえそう考えたからには、少なくとも当人にとっては何れにもそれなりの根拠があっての事だった。
というのも、先ず前者に関してだが、アイシスの性格を考えればその事実を聞かされた直後には色々と、つまり失礼な事を考えたりする可能性は否定出来ず、更にそれをつい言葉や態度に出してしまう事も容易に想像してしまえるものの、何処かでフィーからその話を聞いた上でシラユキの前に戻った後であれば、それを表には出さぬ様にと努める程度の配慮は欠かさぬだろうという事は、恐らくは自身とシラユキに共通する認識であるとタチバナは判断したのであった。
そして、後者に関してはそもそもシラユキの本心を真の意味で知る術が無いという事を措いても、その手掛かりとなる様な明確な言動があった訳ではない以上、完全に当人の勝手な推測にはなってしまうのだが、自身を含め「一定以上の能力を持つ者は必ず一定以上の誇りを持つ」という自らの経験から来る法則に基づき、シラユキ程の能力の持ち主であれば、最早タチバナの中ではその誇りの高さは疑う余地すらも無いものとなっていたのであった。




