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第382部分

「……まあ、互いに同好の士であるからこそ、技術的には厳しい事を言われる可能性も無くはないがの」


 そして、その素直な反応を見たシラユキも概ね満足げな表情を浮かべていたが、弟子をただ喜ばせるだけでは面白くないと思ったのか、それとも単にその期待の大きさの過剰さへの心からの忠告なのか、暫しその様子を眺めていたシラユキはアイシスに期待し過ぎるのも良くないとやんわりと釘を刺す。


 というのも、無論同好の士と語り合うというだけでも、アイシスにとってその未来は十分過ぎる程に期待に値するものであったのだが、その相手が「妖精」などというファンタジーの代表格みたいな存在ともなれば、かつて数多のその様な場面に憧れた少女からすれば一つの夢が叶う様なものであった為に、その溢れる期待は胸に仕舞っておくにはあまりに大き過ぎ、他者の視点からは目に余る程のものとなっていたのである。


 尤も、別にその期待が、或いは感情がそこまで大きなものではなかろうと、何れにせよ基本的にはそれを胸に仕舞っておく様なアイシスではないと言えばその通りなのだが、既にそれを十分に理解しているであろうシラユキから見ても、理由はどうあれそう声を掛ける程度にはその期待の大きさは透けて見えていた様だった。


「うっ、そこはお手柔らかにお願いしたいですね……」


 ともあれ、そうして実際にその忠告を受けたアイシスであったが、そうされる程度には未来への期待に胸を躍らせている最中であったにもかかわらず、意外にも……というと当人には失礼かもしれないが、その言葉に即座に反応して苦い表情を浮かべながら呻き声の様な声を漏らすと、未だ自身では言葉を交わすには至っていない同好の士に対し、別に当人に届くと思っている訳ではないものの自らの願いを口にする。


 しかし、千年分もの経験の蓄積を持つシラユキからしても、その期待への浸りっ振りからすればその反応の速さは意外だったのか、その言葉に対しても即座には答えを返す事は無かったが、その期待に溢れた様子を目で見ていた訳ではないにもかかわらず直前の声のみからでもそれを概ね察していたのか、傍で聞いていたタチバナも人知れず驚きの表情を、いや例によって傍目ではそうとは分かり辛いものの浮かべていた。


 なお、現時点ではその性格やらを最もよく知るであろう両者でさえもそこに一定の意外さを感じたにもかかわらず、大きな期待に浸っていたアイシスがその様な比較的高速の反応を示したのは何故かという話だが、その理由は極めて単純ではあるものの、アイシスの事を良く知り、かつ経験や思考力に長けた両者でも予想が出来なかった事も無理はないものだった。


 というのも、その期待に胸を膨らませていたアイシスは少なからず実際にその未来を想像もしていたのだが、この世界に来て以降は自身の歌がそれなりに評価されている事は理解してはいるものの、やはり技術的には未だ至らないところがある事は重々承知していた為に、丁度実際にフィーからの苦言を受ける可能性を想像していた直後にそのシラユキの言葉が聞こえて来た為に、偶然にも苦も無くその言葉への対応に意識を移行させる事が出来たのであった。


「……まあ、その願いが届くかは分からぬが、先に引用した歌に関する有難い蘊蓄もそ奴の言葉であるし、もし実際に散々に言われたとしてもそう気にせず、期待の裏返しだとでも思っておけば良いじゃろう」


 とはいえ、流石にその様な脳内での偶然の出来事までは見通す事は勿論、推測する事すら出来ない筈である為、単にその現象を成長の結果なり自身の話への集中の結果なりと解釈したであろうシラユキはやや遅れて口を開くと、仮にその願いが届かずとも気にしないで良いだろうと助言を送る。


「ええと、もし真剣に技術面での助言をしてくれたのに気にしない、っていうのも何か申し訳ないのであれですけど、気に病まない様にはしたいと思います」


 しかし、そのシラユキの恐らくは善意による助言を受けた訳だがアイシスはそれを鵜呑みにはせず、他者の善意は基本的に受け入れる性質である為、一部とはいえそれを否定する事は慣れない事である為に言葉遣いが拙くなりつつも、フィーとシラユキ双方の助言を無駄にはしない方針を答える。


「うむ。それで良い……のじゃが、くれぐれも儂やあ奴と自身の技術を比べる様な事はせぬ様にな。才能がどうのこうの以前に、生きて来た時の長さが違うのじゃからの」


 とはいえ、仮にも自らの助言を一部ではあれ否定された事は確かではあったのだが、その返答を受けたシラユキはやはりというかそんな事は気にしない、どころか寧ろ満足げに頷くと、以前にも述べたものと同様の次なる忠告を丁寧に理由付きで口にするのであった。

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