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第364部分

「美味いじゃろうが。白米の方が圧倒的に。いや単体で見れば玄米の方が味が複雑で良い、とは言えなくもないかもしれぬが、おかずと共に食すのであれば寧ろその単純な味の方が遥かに向いている事は確定的に明らかじゃろう。とはいえ、無論味覚もその好みも各人によって異なるものである故、この意見を絶対的なものとして他者に押し付けるつもりなどは毛頭無いが、少なくとも儂の味覚からすればそこには歴然たる差がある事は確かじゃ。無論、先述の精米の手間も儂ならば問題にはならぬし、米自身の方からしてもどうせ食われるならば美味く食われた方が良い、という話じゃろう」


 そのシラユキの意外な言葉に驚きつつも、いや論理的に考えれば当然の疑問ではないかと思ったアイシスはその意図を尋ねようとするが、その刹那続けて口を開いたシラユキは結果的には先回りしてその質問への回答を一言で済ませると、続けて凄い、それこそこれまでにアイシスが見た中では明確に最高と言える勢いでその回答への補足となる情報を力説する。


 とはいえ、それでもその意見をあくまでも私見である旨を自ら述べる辺りは、流石に大賢者などと呼ばれる者として論理的に公正な態度を見せてはいたが、その立場や能力を考える……までもなくその発言の勢いのみでも、少なくともアイシスには反論どころか口を挟む事すら憚られるには十分過ぎる程の有無を言わせぬ迫力があった。


「とはいえ、儂は別にそんなものを気にしておるわけではないが、味の為だけに白米を食べる事も別に先述のエルフの教義にも反しておる訳ではない。昨晩にお主も食したあの漬物も、米を白米にしたからこそ生じた糠を利用した物じゃからの。尤も、頭の固いエルフの奴らであればそれでも『その糠自体を食している訳ではない』などと難癖を付けて来るかもしれぬが、その漬物に利用した糠も最終的には肥料として活用しておる故それも当たらぬ。というよりも、食料を無駄にしない事とそれを自分達が食す事を同一視するあ奴らの方が余程傲慢じゃろう。我等から見た食料もまた自然の産物である以上、仮に野に放ったとしてもその営みの中では必ず活かされるのじゃからな」


 そして、その迫力に圧倒されたアイシスがただ目を丸くしていると、再度口を開いたシラユキは直前までの勢いそのままに、どころか実際にはどうであるかは兎も角、少なくともそれを間近で聞かされているアイシスからは更にそれを増したと感じられる語調で更なる補足を口にすると、先述のエルフの教義にまで話を広げて最終的には自然の営みについての話へと着地する。


 しかし、そこに多少なり私見が含まれている事は否めないものの、そうして語られた内容自体には一定の妥当性がある事は確かではあったが、その発言の怒涛の勢い自体は勿論、シラユキがその様な態度を見せた事の意外性や、それぞれに十分な関連性自体はあるものの何度も話題が変化した事もあり、その話を向けられたアイシスにはその妥当性を判断するどころか、その話全体の内容自体への理解すらも追い付いていなかった。


 が、一方でその怒涛の勢いにも圧されずに一聴でその発言内容を理解し、かつその話からそこで語られた以上の情報をも入手していた者も居た。いや、当然ながらタチバナ以外には該当者は居ない事は兎も角、雑談に切り替わったのだからと話を聞くのは止めたのではなかったのか、という話ではあるのだが、シラユキがそれだけの勢いを見せたという事は自然にその声量も上がっていた為に、タチバナとしては寧ろ有無を言わさずその話を聞かされる事になっていたのである。


 とはいえ、それだけの、つまり精神状態が良好とは言えないものの知能の高さ自体はタチバナにも認められているアイシスでさえも、理解が追い付かない程の勢いで語られた話を一聴で理解した事からも分かる通り、彼のシラユキがそれだけの勢いで語る内容にはタチバナも大いに興味があった為に、それが聞こえて来た瞬間からその意識はしっかりとその内容へと集中させられていた。


 尤も、既に寝坊という特大の失態を犯している以上、流石に今回の調理には何か不手際を生じさせる訳にはいかない為、タチバナもその話のみに意識を集中させていた訳ではないのだが、現状の作業は忙しく手を動かす様なものではなかった事もあり、その状態でもシラユキの話を聞き逃さない事は当人からすればそう難しい事ではなかった。


 ともあれ、そういう訳で本来それが向けられたアイシスとは異なり、その一連のシラユキの話を正しく理解したタチバナであったが、その至極尤もな内容に内心で深く頷きながらも、先述の様にその話から理解した更なる情報には、誰にも見られていない事もあり思わずその口角を微かに上げてしまっていた。


 というのも、これまでは常に冷静だったシラユキがそれだけの勢いを見せたという事は、その語られた内容については、つまり食事の味に関してはそれだけの情熱を持っているという事もその要因の一つではあったのだが、それらの話から分かるもう一つの事実、則ち当人はあまり気にしていないとは言いつつも、どうやらシラユキはあまりエルフを、つまり同族の事を好んではいない様であるという事実には何となく共感を覚えると共に、過去を思えばそれも当然だろう、と同じく何となく微笑ましい思いを抱いたのであった。

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