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第363部分

 しかし、そうして明かされた疑問もまた予想外のものだったのか、或いは何かその内容に思う所があったのか、そのアイシスの懸命な説明の後も直ぐにはシラユキが口を開く事は無かったが、もしその理由が前者に近いものであるならば、それはもう一人の聴衆についても概ね同様だった。


 いや、厳密に言えば恐らくはそれなりに異なるというか、タチバナとしてはその内容、つまり主がいきなり師であるシラユキの食生活に対して何やら物申し始めた事も十分に驚くには値していたのだが、それ以上に意外だったのはそれを構成する単語の方だった。


 というのも、奇跡的な確率に、或いは運命的な何かしらの理由により、この世界で使用されている言語と少女がかつて暮らしていた場所でのそれは概ね同様のものではあったものの、その全てが完全に一致している訳ではないというか、少なくともタチバナの語彙的には「玄米」だの「イメージ」だのという言葉には聞き覚えが無かった為に、それがアイシスの口から出て来た事には一定の驚きを覚えずにはいられなかったのである。


 とはいえ、タチバナも別に自らの知識が完璧であるなどと思っている訳ではなく、寧ろ特にこの場所に来てからというもの、その不足を実感する事が多かった為に今回もその一端だと考えただけであり、かつその文脈から何れも概ねの意味を推測する事はそう難しくはなかった為、別にその事をそこまで深く気にする事も無かった。


 そして何よりも、その内容からして既にアイシス達の会話が単なる雑談の範疇に入った事を理解したタチバナは、流石にそれを盗み聞きしている……という訳ではなくあくまで自然と耳に入って来る音に対し集中しているか否かの違いではあるのだが、兎に角それを自らが聞いているべきではないと判断すると、これ以上は無関係な自分がその内容を知る事が無い様にと意図的に意識を他の事に、つまり自身の業務やそれにより発生する音の方へと向ける事にするのであった。


「……成程。儂の様なババアは玄米でも食べているのがお似合いだと言いたいのじゃな?」


 ともあれ、そうして暫く口を開かずにいたシラユキであったが、程無くしてやはり失礼だったか、と考えたアイシスが口を開くよりは早くその口を開いて納得の意を示すと、表情の変化こそ無く真剣な顔のままであったものの、明らかに揶揄う様な口調でそう訊き返す。


「いえ、別にそういう訳じゃ! その、エルフという種族だとか、こういう場所に隠棲する様な『賢者』という立場から漠然とそう思っただけで……」


 しかし、それは落ち着いて聞けば自身を揶揄っているだけだという事は明白ではあったものの、仮にも師の口からその様な言葉が返って来た以上は弟子としては弁明の必要がある……などという事を考えるまでもなく、自身の言葉がやはり失礼なものだったのかと思ったアイシスは慌ててそれを否定すると、自身の発言の意図についてそう、指摘された部分とは別の角度からどうにか弁明を試みる。


 尤も、実際にその内容自体には嘘は無かったものの、そもそも前の発言にてはっきりと『年齢とか』とそれについて明言していた為、その弁明にはどう考えても無理がある事は明白だったのだが、現在の当人の精神状態ではそれに気付く事すらも無かった。


 とはいえ、何れにせよ当のアイシスには知る由も無い事ではあるのだが、もしそれを聞いていた場合には恐らくは笑いを堪える事になったであろう人物が直前でそれを控える事を選んでくれていた事により、その天然のボケによる被害は半分にまでは抑えられていた事は当人にとっては幸いだった。


「まあ良い。言いたい事は理解出来るというか、実際にはお主の申す通りでもある。自然の恵みに感謝して云々、などと申しておるエルフの者共は、まあそもそもあまり頻繁に米を食っている訳でも無いのじゃが、食材を無駄にしない様にと可食部は全て食す主義であるし、日常的に米を食す地域の人間達も、精米の手間もあり玄米のまま食す方が圧倒的に多数派であるしな」


 ともあれ、直前の自身の発言との矛盾にこそ気付いてはいなかったものの、その弁明が苦しいものである事にはアイシス当人も気付いてはいたのだが、今度は直ぐに口を開いたシラユキは意外にも穏やかな口調でそう言うと、アイシスの発言に対して具体例を挙げて一定の理解を示す。


「え? それならどうして――」


「愚問じゃな」


 しかし、それは当人にとっては喜ばしい事ではあるものの、それ以上に意外さの方が勝っていた為、それを聞いたアイシスはその驚きをそのままに一度そう聞き返すと、続けて改めてその理由、つまり語られた事実があるにもかかわらずシラユキが白米を食している理由について尋ねようとするが、それを遮ってまで口を開いたシラユキはその質問を一言で「愚問」だと断ずる。

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