第362部分
「うむ、良い心がけじゃ。では、修行の話は此処までにしておくとしようかの。折角の休憩時間にこの様な詰まらぬ話をしていても仕方があるまい」
しかし、それはアイシスとしては敗北の結果というか、少なくとも積極的に選んだ態度という訳ではなかったのだが、当人にとっては意外にもそれが気に入られたのか、その返答を受けたシラユキは満足げに頷いてその殊勝な態度を褒めると、修行に関する話は此処までにしようと宣言する。
が、その意外な反応自体は兎も角というか、最早慣れっこという事で気にしない事にするとしても、急に修行の話が終わりと言われても直ぐに自ら話題を提供出来る程のコミュニケーション能力は持ち合わせず、かつ当人も結構盛り上がっていた様な気がするこれまでの話を「詰まらぬ」と言われた事への驚きもあり、いや無論言葉通りの意味という訳ではないのだが、それも直ぐには理解出来なかったアイシスにはとてもそれへの返答を直ぐに用意する事などは出来なかった。
「という訳で、恒例の質問を受け付ける時間といこうではないか。一晩泊って修行も始まったとはいえ、まだまだ気になる事は山程ある事じゃろう?」
尤も、そんな事は最初から織り込み済みだったのか、それを受け付けるにしては短い待機時間で直ぐに再度口を開いたシラユキは例によって質問を受け付ける時間を開催する旨を宣言すると、最早そうである事は前提という風にそう問い掛ける。
それは一見するとやや唐突な話であり、かつ例によってそんな事を急に言われても直ぐには訊きたい事など思い付かないアイシスにとっては強引とも言える言動ではあったが、だからこそというか、未だにコミュニケーションがやや苦手な、まあ少なくともシラユキやタチバナとのそれに関しては、以前とは異なり精神的にではなく能力的にそうであるアイシスの思考を自然に誘導し、次の言葉を引き出し易くしているとも言えなくはなかった。
「……あ」
とはいえ、これまでの会話により著しく変化した感情面が未だに平常と呼べる程までは落ち着いていなかった事もあり、それでもアイシスが次の言葉を発するまでには、つまりシラユキへの質問を、より厳密には実際に口に出しても良いそれを思い付くには時間が掛かっていたが、ふと或る事に関する疑問がその脳内に浮上すると、未だそれを口にすべきかを精査する前であったがついそう小さく声が漏れる。
「どうした? もし答え難い質問であればその旨を答えるだけである故、気になる事があるなら何でも訊いてみて構わぬぞ。自らそれを募っておいて、相手の質問が無礼だ何だと宣う様な儂ではないから安心せい」
が、そこから暫し経っても次の言葉が出て来る事は無かった為か、シラユキは先ずはその意図を素直に尋ねると、続けてその状況から考えられる可能性を挙げた上でそれを気にしないで良い旨とその理由を述べる。
「……それなら、思い切って訊かせて貰いますね。その、シラユキ先生って普段から白米を食べてるんですか?」
しかし、そう言われたとてやはり無礼な事を口にするには抵抗があるという事で、いや今までも散々そうして来たと言えばそうなのだがそれらも基本的には意識しての事ではないという事で、また暫しの間は沈黙を保っていたアイシスであったが、一度気になった疑問がある状態では次の質問など思い付く筈も無いという事もあり、結局はその言葉に従う旨を宣言すると、思い切ってその思い付いた質問を遂に口に出す。
尤も、厳密に言えばそれは思い付いた疑問そのままという訳ではなかったのだが、元々の疑問がそのまま口にするにはあまりに失礼に思えた事と、順序立てて訊いた方が相手にも分かり易いとも思えた事により、先ずはその前提となる状況を確かめる質問から始める事にしたのであった。
「……まあ、答えとしては概ねそうである、という所なのじゃが、どういう意味じゃ?」
しかし、その配慮が逆効果となったのか、或いは単純に流石にその様な質問が来るなどとは予想もしていなかったのか、それを受けたシラユキは珍しく即答もせずやや曖昧にそう答えるが、流石にそれが本題ではない事だけは察したのか直ぐにそう訊き返す。
「あ、ええと、ちょっと失礼な話になっちゃうかもしれないんですけど、その、立場とか年齢とかを考えると、どちらかと言うと玄米を食べる方がイメージに合ってるかな、と思いまして」
それはアイシスにとっては意外な姿ではあったが、自身が口にした質問がそれ程に意味不明なものだったのだと即座に納得すると、その事への申し訳無さもあり言葉を存分に詰まらせつつも、どうにか自らの発言の意図を、則ち先程の思考中に思い付いた疑問の正体を明かすのであった。




