私が君を好きだと覚えてほしいな、アリア。
「……何から何まで、申し訳なかった。すまない。」
睡眠をしっかりと取った後、アリアお手製の栄養満点トマトリゾットを食ベ、食後のお茶としてリラックス効果のあるカモミールティーまで御馳走になった王太子は流石に罪悪感が湧いたのか、向かい側に座るアリアに向かって頭を下げた。
「私に謝るなら、ちゃんと睡眠を取って、ご飯をしっかり食べるようにしてください。来週から収穫祭で忙しくなるでしょう?、倒れられては困ります。」
アリアはため息を消すようにハーブティーに口をつける。
この王国では秋の初めに豊作を祝って神に感謝する収穫祭が開かれる。一週間程続くイベントであり、庶民にとっては新年のお祭りと同じぐらい国中で盛り上がる行事である。
「そうだな……、王都でも民に喜んでもらうため、様々な催しを開こうと準備中だからここで倒れては元も子もないな。これからは休みをちゃんと取るよ。」
「そうしてくださいな。」
「でも君のところに遊びに来てもいいだろう?」
「はぁっ!?」
王宮で休め、こっちに来るなと遠回し言ったにもかかわらず、休むしアリアにも会いに来ると告げられたため、アリアは思わず声を上げた。
「ここまで来て帰るのに最低一日は必要でしょう!?、そんなことに時間を使ってないで丸一日寝て英気を養ったほうがいいのではありませんか?。というか、来週は収穫祭でお互い忙しい身ですから、無理でしょう。」
収穫祭は領地ごとに領主が領民のために催しを行う事になっている。ノウン公爵家も、一家総出で公爵領の民の為にお祭りを良いものとするためせっせと準備をしている最中だ。
そのためアリアも来週から一週間は休む暇もなく、お祭りへの出席等で忙しい。
「そうなんだが………、」
「王太子殿下だってお祭り内の各種行事の参加予定でスケジュールが埋まっていらっしゃるでしょう?、そこを空けて無理矢理来るのは流石に………。」
「だとしても……、」
アリアが言うことが正しいと理解はしているものの、納得は出来ていない王太子は悩ましい顔つきでアリアを見つめた。
「好きな人に会えないのは辛いじゃないか。」
「なっ!!、」
「出来れば君に毎日会って愛を告げたいと考えてるので、一週間以上会えないのは寂しい。」
「はいっ!?、こ、こここの前まで、好きだなんて言ってなかったのに何を言ってるんですか!?、」
「最初は好きだと言うのが恥ずかしかったというか……、私の気持ちが解っているだろうと勝手に解釈してたから言わなかったのだが……。ジルベルトの言う通り、言葉にしなきゃ伝わってなかったし。」
「……その節は大変失礼いたしました!!!、……というか、私にわかるわけないでしょうが!!」
悲しそうな瞳で見つめてくる王太子の顔が子犬のように見えるせいで、アリアは罪悪感が胸に刺さった。
「だから君が嫌というほど、私がアリアを愛してることを覚えてほしいから、毎日告白したいと思ってる。」
「………、」
ものすごくやめてほしい。
「そしたら君に誤解されることもないだろう?、」
柔らかく微笑みながらハーブティーに口をつける王太子に対して、それはそうなんだが…!!、とアリアは言い返せず悶えていた。
「……それに、最近は好きだといった時の君の反応が可愛らしくて、見てるのが楽しいんだ。」
「かわっ!?、どこが!?」
可愛いなどと言われたことが殆ど無いアリアは王太子の発言に驚いて思わず立ち上がっていた。
「そうやって狼狽えるところ。」
「!!っ、」
しまった……、確かに狼狽えている。
「社交場とかでは凛とした公爵令嬢で、顔も見えないから冷徹で慈悲もないような女性だと噂されてるが……、」
え、そんな噂されてたの?、とアリアは驚いていた。
顔が見えずどんな表情をしているかも解らない上に、口調の変化が乏しく、貴族としての姿勢の完璧さからノウン公爵令嬢は『氷の貴公子』同様冷たい人だと社交場では伝わっているのだが、アリアはそのことを知らなかったのだ。
「君、本来はかなり表情豊かなお転婆娘だよね。」
「ーーーっ!!!、」
ば、バレてるーっ!!!!
アリアは思わず叫びそうになったため、落ち着くために飲んでいたカモミールティーが喉の変なところに入ってしまった。
「げほっゲホッ……、ゴホン。………ちなみにいつから気が付いてました?」
「婚約破棄した位から化けの皮剥がしてただろう?、それで。」
「あーー……、確かに。破棄したから貴方様のご機嫌取りとか気を使う必要無いなと思って普通に喋ってましたね。」
アリアはバレるうんぬんの前に、そういえば偽ってすらいなかったと思い出した。
「そっちの君のほうが生き生きしてて、とっても好きだよ。」
「………チッ、是が非でも結婚したくなかったから本性出してたようなもんなのに……。」
「ははは、舌打ちも可愛らしいね。……それに、したくなかったって事は、今の私なら結婚してもいいってことかな?」
アリアは小声で聞こえないように文句を言ったつもりだったが、王太子に丸聞こえだった上に、重箱の隅をつつくように攻撃された為、開いた口が塞がらない。
「なっ、なっ…!!、揚げ足を取るな!!揚げ足を!!。今もしたくありませんよーだ!!、大体こんなに照れもせず告白してくる人が私のこと好きな訳………」
「好きだし、愛してるよ。心の底からアリアを生涯の伴侶にしたいと願ってる。」
好きな訳がない、その言葉を絶対に言わせないと云わんばかりに王太子は真剣な面持ちでアリアに愛を告げる。
「……私が照れてない?、そんなことないんだけどな。好きな人の前では格好つけたいだけで……、君に告白するだけで鼓動の音が聞こえそうになるぐらいには煩いし、顔を赤くしないので精一杯なんだか。」
「えぇ?、今だって涼しい顔を……」
アリアが喋り終わる前に王太子に右手を奪われ、王太子の胸に手を置かれた。
「………これでも、涼しい顔してるって思う?」
アリアの右手からどくどくと速くて強い鼓動が聴こえてくる。その音につられてアリアの心臓も動きを増し、王太子の耳が赤くなっていることに気が付いたアリアの顔も赤く染まった。
「………して、ないですね。耳も赤いし……。」
「でしょ?、……結構緊張してるし、恥ずかしいんだよ。」
胸に手が置かれていることが恥ずかしくなってきた王太子はゆっくりとアリアの手を離した。
「君の好みになりたいから鍛錬だって続けてるし、君に渡す花束とか選んでるときも喜んでくれるかどうか、とか、気にしてるんだ。……これでもまだ、私がアリアを好きじゃないと思う?」
「……そ、れは………、」
アリアはふと、執務机に飾った王太子から貰った花束を眺めた。




