王太子、襲来。
「……………………。」
今日は公爵令嬢として街に視察に行こうとワクワクしながら部屋を飛び出して行ったアリアだったが、大広間に広がる現状に頭を抱え、大きく溜息をついた。
「………、なんでっ……!!、こんな朝早くから王太子殿下がいるんですかっ!!!!」
怒りを顕にしてアリアが叫ぶ先には、花束を抱えてにこやかに微笑んでいる王太子がいる。
「休みをもぎ取ってきたから、愛しい君に朝から会いに来ようと思って。」
「せめてアポを取れ!!!アポを!!!!」
「勿論、昨日の夜に"明日の朝伺います"と書いた手紙を送ったさ。」
「お嬢様ーっ!!!、王宮から王太子殿下が本日いらっしゃるとの手紙が………って、おおおお王太子殿下っ!?!?」
侍女長のミレーが今しがた手紙を受け取ったのか、大広間に手紙を片手にアリアに駆け寄り、王太子がいることに驚愕していた。
「おや、今届いたみたいだね。」
「…………、」
「はい、これ。君に似合うと思って。花屋のおじさんがお嬢様によろしくって言ってたよ。」
「あら、どうも。………じゃなくて!!!!、」
向日葵を中心に霞草や羽衣草を合わせた燦々と輝く太陽のような花束を渡され、アリアは一瞬だけ怒っていたことを忘れそうになってしまった。
「まず、訪問する知らせは一日前に届くよう送ってください。王太子殿下であろうと礼節は守っていただかないと。こちらも準備ができませんし。」
「急に君に会いたくなったから来てしまったのだが……、確かに、公爵家の事を考えていなかった。申し訳ない。」
非を認めて謝罪する姿勢が物凄く素直であるため、アリアは何回も怒っている気がするのだが、王太子を憎むに憎めなくなってきていた。
「今日はお父様とお兄様達が遠征やら何やらでいらっしゃらなかったから良かったものの………、いたら血の海ですよ、わかってますか?」
「血の海……。うん、そうだな……、意中の女性に朝早くや夜に会いに来ていたら……、こっちが悪いから何も文句が言えないな……。次はちゃんとしよう……。」
百戦錬磨の稀代の将軍とその息子の氷の貴公子から殺意を向けられた様子を想像してしまった王太子は寒気で背中に鳥肌が立った。
「あと!!、家に来すぎじゃないですか!?、今週二回目ですよ!?、避暑地にお出かけになったと思った三日後には来るし……!!!、それでご公務こなせてるんですか!?」
王太子はここ最近、最低週に一回はアリアを訪ねてきているのだ。
王太子のアリアに求愛をする宣言後、王太子がそのまま避暑地に向かったからとりあえず一週間は平穏だと呑気に過ごしていたアリアだったが、三日後には王太子が花束を抱えてやって来た。
その後も良い兵法書が手に入ったから、良い鍛冶師が作った剣をアリアに……、等と色々と理由をつけてアリアに愛を告げに来ているのだ。突如公爵邸に現れるファヴィオより回数が多い。
王太子が贈ってくれるモノが全てアリアの興味のあるモノやずっと求めていたモノであったため、嫌だと突っぱねる事もできず、まんまと王太子の策に嵌まるように一緒に過ごしてしまっていた。
アリアはモノに釣られる自分と小賢しい手を使って拒否できなくさせる王太子に悶々としていた。
「公務の方は死ぬ気でやれば週に二日は休みをもぎ取れる事がわかったから、死ぬギリギリで頑張ってるよ。」
「馬鹿なの!?!?、ちゃんと寝てます!?」
「ジルベルトの訓練が格段に厳しくなったからなのかな……、体力がね、昔に比べるとついたから……、無茶ができるっていうか………。」
過酷な鍛錬を思い出したからなのか、はたまた寝不足のせいなのか、王太子の目が座っている。
「こんなところに来てる場合じゃないでしょう!?、寝なさい!!、寝ろ!!!」
「いや……、寝たら君に会えないし……。」
「寝不足で倒れたらもっと会えないでしょうが!、ほら、客間をお貸ししますからお昼頃まで休憩なさって下さい。」
虚ろな目をしている王太子が心配になったアリアは寝かしつけようとミレーに花束を渡した後、王太子を客室に案内しようとした。
「待ってくれ、まだ君に好きだと……」
「この前聞きました!!、もう、これ以上駄々を捏ねるようなら私が担いで運びますよ!?」
あの宣言後、来る度に求愛されているアリアは声を遮ってさっさと動くようにと急かしている。
「今日はまだ君に愛してると告げてないじゃないか!!、だからせめて言わせてく、れえええっ!?」
言い終わる前にアリアによってお姫様抱っこをされた王太子は固まってしまった。
王太子殿下、人生二度目のお姫様抱っこである。
「黙ってないと舌噛みますからねっ!?、さっさと寝なさい!!!」
二人のやり取りを眺めていたミレーは、王太子を運ぶアリアの耳が真っ赤だった事に少し微笑んでいた。
「あんなに馬鹿な王太子で、大丈夫なのかしらこの国………。」
ぐずる王太子を何とか寝かしつけた(ベットに投げ飛ばした所、すぐに寝たのだが。)アリアは、執務室で王国の将来を憂いてため息をついている。
「安泰だと思いますけどねぇ……、ご聡明だし、ご公務もサボらないし……、何より、ちゃんと人の話を親身に聞く。……名君としての素質は備わっているのでは?」
王太子殿下がお嬢様に贈った花束を花瓶に活けて机に飾りながら、ミレーはアリアの呟きに応えていた。
「まぁね……。悪いところは認めて謝罪して改める、これが出来るのは本当に凄いと思うわ。家臣を良く見て褒めることもできるし……、うん、王になる者としてはとても素晴らしい人よね。」
アリアにとって臣下として忠誠を誓いたい方であることは間違いなかった。
「ただ………、"私に会う"なんていうチンケな事の為に自分の健康を疎かにしてるのは許せないのよ。」
「…………。」
「王として上に立つなら、自分の身が危うくなることで国すら傾くってことを自覚してもらわないと……。健康第一でいなきゃいけないのに……、私なんかに会うために害してちゃ駄目なのよ。」
「……王太子殿下にとっては、お嬢様は"なんか"と卑下される方ではないのでしょう。睡眠時間を削ってでも会いたいから会いに来るのでは?、」
アリアに自分を卑下しないでほしいと言いたい気持ちを抑え、ミレーは話を続けていく。
「貴女様は彼にとって、とても愛しい人なんですよ。……私にとってお嬢様が家族と同じぐらい大切なものであるように。」
「……そう、なのかしら?」
「そうでしょうとも。じゃなきゃこんな花束を贈りませんよ。」
ミレーはにこやかにアリアの前に花束を活けた花瓶を置いた。
「いいですか?、霞草の花言葉は『幸福』と『無垢の愛』、羽衣草は『輝き』『献身的な愛』『初恋』……、」
「なっ……、なっ!?」
ただ自分の好みにあった夏の花を詰め込んだ花束をくれたのだと思っていたアリアは、花束に意味を込めて贈ってきていた事に驚きを隠せなかった。
「そして、向日葵は『あなただけを見つめる』。かなり情熱的なアプローチですわねっ!!、素敵っ。」
「そん…、な……っ、……ええっ!?、」
「あら、しかも向日葵が十一本!!、まぁ、……まぁっ!!、やだーっ、私が照れてしまいそうですわっ。」
「えっ??、何?、どうゆうことなの??、十一本だと何なの?、ミレー。」
きゃっきゃっと黄色い声を出しながら頬に手を当てて乙女のようにはしゃぐミレーに、本数の意味が解らないアリアは困惑しながら尋ねた。
「向日葵は本数によっても意味が追加されるんですよ、十一本だと『最愛』。つまり、お嬢様は王太子殿下から"最も愛しい人だ"と告白されてる事になりますね!!」
ミレーから告げられた王太子の求愛に、アリアの脳味噌が耐えきれなくなった為ショートを起こし、顔が紅く染まったまま固まってしまった。




