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まるでおとぎ話のようですね、お姫様。



弦楽器による春の日差しのように柔らかなワルツが大広間中に響き渡り、その中央で今日の主役達が蝶のように舞っている。


魔法が付与された絹糸で仕立てられたドレスを身に纏うアウローラはくるくると踊る度、淡い桃色のドレスをまるで北極の夜に咲く色鮮やかなカーテンのように虹色に彩っていた。


恋い焦がれていたお姫様が、夢の中でも想い続けていた王子様と目を離すことなく優雅に踊る様は、人々を魅了してやまなかった。




「…………こんなことって、ある、のか………??」


「いや………?、はぁ………、」




まさかの事態に驚愕している王太子とアリアを除いて。




「……何度も夢に出てきた人と、たまたま森で出会って恋に落ちて、……次に会ったら実は昔から決まっていた婚約者だった。……って何なんだこれ。」


「おとぎ話ですかね??、私達は今おとぎ話が出来るところを見てるってことなんですかね……??」



自分達のここ二日間の努力が杞憂となってしまった事と、予想の斜め上をいく状況が続き過ぎた二人は揃ってげんなりとした顔で王女様の幸せそうな笑みを眺めていた。

























「まぁ、それはアウローラ様にとってはとても素敵な日々だったでしょうね。アリアちゃんにとっては慌ただしい日々だったと思うけど。」


「慌ただしいどころじゃないですよ!!!、本当に、もう、物凄く大変だったんですからね!?、」


公爵邸に帰ってきたアリアは、切実な声で義姉であるソフィアに訴えていた。



「王太子の相手が!!!」


「あら、そっち。」


「あの人私が移動すると大体ついてくるんですよ!?、フィリップ王太子殿下が一週間長く滞在するかはアウローラ様に付いてろって言われたのに……、詐欺にあった気分だわ!!」


「それは悲惨だわ……、」


ソフィアはハーブティーを飲んでいた手を止めてテーブルに突っ伏したアリアの頭を慰めるように撫でた。



アウローラ王女の誕生祭後、王女と相思相愛の仲であったことが発覚したフィリップ殿下は滞在期間を一週間延ばし、夢にまで見た愛しい人と過ごすことにしたのだ。

隣国の使節団の滞在期間が増えたということは、アリアもそれに伴って王宮での滞在を延長しなければいけなくなり、計二週間近く王太子の隣の部屋に居座ることになったのだ。


今までのように昼間はアウローラ様に付き、夕方から王太子の執務室で仕事をするのであれば何のことはない、と高を括っていたアリアだったが、

思い描いていたものとは全く別の日々が待っていた。



昼夜問わず、王太子が側にいるのだ。



一人で王宮図書館へ行こうとする時も、近衛騎士団の屯所に視察に行こうとした時も、アウローラ様についてエテェネル王国から来訪した客人に会う時もどこからともなく王太子がアリアの目の前に現れ、喋りかけてきた。

お陰でアリアは王宮図書館でロマン溢れる戦乱の世を描いた歴史書を読むこともできず、近衛騎士達と一戦手合わせすることもできず、使節団の方々に挨拶は辛うじて出来たものの会話をすることもできなかった。



「何かと理由を付けて私を呼び止めるのよ……。その理由が書類の訳について意見を聞きたいだとかなんか真っ当な理由だし、相手が王太子だから対応しない事もできないし……、」


王太子がストーカーのように付き纏ってきた日々を思い出してしまったアリアは鳥肌を立てて震えた。


「まぁでも、もう帰ってきたんだし、これから後処理で王太子殿下も忙しいだろうから、平穏な日常が戻ってくるんじゃないかしら。」


ソフィアは渋い顔をする妹を宥めるように優しく励ました。


「そう……、そうよね!!、来月は豊穣祭とかの準備で忙しいだろうし、再来月ぐらいまでは私に対する嫌がらせを考えてられる暇なんてないわよね!!」


「そうね、これから避暑地にお出掛けになったり、ご家族で休暇をとるだろうし、呑気に公爵邸(うち)に訪ねに来れないと思うわ。」


今は夏真っ盛り。王族にも夏休みは付与されているため、毎年必ず避暑地の別の宮殿へ赴いてバカンスを取っている。

となると、今年も例年に伴い、ここ一、二週間の何処かで北部のディチア公爵邸領に近い宮殿に滞在されることになるはずである。

ディチア公爵領と接してはいるものの、宮殿はノウン公爵領と正反対の位置であるため、こちらに赴くには数日はかかるだろうと判断し、そしたらもう夏は王太子と会わなくていいのでは?、と希望を見つけたアリアは目を輝かせた。



「じゃあ、もうこれから秋まで会わなくても済むかもしれない……!!、やった!、やったわ!!、この間に公爵領内の警備方法の改善とか、輸入品の見定めとか仕入れとか交渉とか………、ともかく色々好きなことができる!!」


さっきまで泣きべそをかいていたのは何処へいったのかと思いつつも、可愛らしくはしゃぐ妹をソフィアは微笑ましく眺めていた。


「公爵領内を出掛けたりするのも良いんじゃないかしら。みんな、()()()()()()()()()()が来るのを待ち望んでるみたいよ。」


「たしかに……、最近全然街に遊びに行けてなかったし、お腹刺されてからアリアの姿で出てないかもしれないから……、まずはアリスとして遊びに行ってから色んなところに訪問しよう!!、相談に乗ってくれてありがとう、お義姉様。」


アリアはソフィアの手を取ってお礼を述べた。


「いいのよ、いつもエーリオと遊んでくれてるし。私の育児の息抜きにもなるしね!、」


挨拶をしてソフィアの部屋から出たアリアは、気分に合わせて軽やかに廊下を歩き始めた。



「よし、そうと決まれば明後日ぐらいには街に出て遊び倒すぞーっ!!」





















「なんでここにアリアがいるんだ?、」




「…………、それはこっちの台詞です。」




公爵領にある宿屋の露天席でニョッキの新メニューを待ち望んでいたアリアは、見たくなかった銀眼の麗しい顔を前にして、顔を歪ませていた。



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