誕生祭は彼のパートナーなんですね、お嬢様。
「いやぁ、本当あれは傑作だった!!!、あははははっ、ひぃ………、思い出しただけでも大爆笑ものだよ、フフッ、」
「笑いすぎじゃない!?、かなり困ってたんだから助けてくれればよかったのにっ!!」
涙を拭いながら笑うファヴィオに対して食ってかかるようにアリアが怒りつける。
「だって、二人のやり取りが面白かったから。」
「お前本当っ……!!!」
「いいじゃん、あの後助けてあげたんだからさ。」
「それは、そうなんだけどっ……、」
「あのままだったら反逆罪で、この前の小説みたく牢獄行きだったかもよ?」
ニヤニヤと笑いながら言うファヴィオに殴りかかりたくなったアリアだったが、言っていることが事実に近いため手も足も出せず、ぐぬぬと歯を食いしばっている。
先日、アリアが王太子を平手打ちして気絶させた。
その頬を叩く音は王宮中に響き渡ったと言っても過言ではないほど鳴り、その残響とともに王太子は床に倒れ落ちた。
その音に驚いた護衛騎士たちが執務室を開けると、公爵令嬢の前で王太子が横たわっている光景が広がり、慌てて侍医や宮廷魔術師を呼ぶ騒動となり、王太子は治癒魔法がなければ頬骨を骨折するという全治二ヶ月の重症だったそうだ。
平手打ちをした張本人であるアリアは倒れた王太子を見て、自分の罪の重さに青ざめ、その場で極東国での最大級の謝罪である自害をしようとし始めたのでファヴィオとティグレが大慌てで止めに入り、またその騒音で国王両陛下が駆けつけるまでの大騒動へと発展したのだ。
「私が陛下に、殿下が先にアリアに抱きついて無理矢理口づけしようとした、って言ったお陰でお咎めなしになったんだからさ、怒るよりも感謝されてもいいんじゃないの?」
「感謝って……!!、有り難いけどお礼はしたくない!!、気分的に無理!!」
「わぁ、素直。」
「それにお咎め"なし"といっても、アウローラ様の誕生祭で王太子殿下のパートナーにさせられたのよ!?、どんな悪夢よ………、」
わーっと泣き出すように机に突っ伏したアリアを、ファヴィオは憐れみの目で眺めていた。
王太子が治癒魔法の副反応で寝込む側で国王夫妻から謝罪を受けたアリアだったが、自分が王太子に平手打ちをしたというのに両陛下に謝罪させている事が心苦しく、こちらが謝罪するべきだと訴えたのだ。
国の宝に手を出したことは紛れもない事実なので、なにか罪を与えてほしいと懇願したところ王妃より、
『なら、誕生祭で息子のパートナーになってくださる?』
とお願いをされた。
刑罰ではなく、王太子とともに誕生祭に参加せよとの御達しがあったアリアは慌てて辞退しようとしたが、王太子からも私に少しでも罪悪感があるのならお願いしたいと言われ、国王陛下からも後押しをされたために受けざるおえなかったのだ。
そんなわけでアリアは今、執務をしながらファヴィオに愚痴を言っている。
王太子の執務室ではあるが、王太子は隣国の使節団を饗すという仕事があるため通常執務を側近のファヴィオと手伝いのアリアに任せてティグレと共に外交を行っているのだ。
「悪夢って言ってもねぇ……、どうせ平手打ちしてなくてもパートナーにさせられてたんじゃないの?」
「王女様のお付きの一人としてパートナーなしで行こうと思ってたのよ。」
「ダメだって言われたらどうするつもりだったの?、公爵令嬢を従者の一人にしたらこの国の品位が……とか言って断られそうじゃない?」
「うぐ、確かに。……そしたら、ファヴィオかティグレ様に……」
「残念。今回は必ずパートナーを用意するようにって一ヶ月前から命令されてました。」
「なっ、」
自分が言い終わる前にその答えが告げられたアリアは、目を見開いて驚いたあと、深く溜息をついた。
「嘘でしょ…………、どんだけ用意周到なのよ……。」
「それだけアリアと一緒に居たかったんじゃない?」
「はぁ??、嫌がらせでしょ。」
ファヴィオの言の葉の意味を考えることなく、アリアはバッサリと切り捨てた。
「私ばっかり王太子のパートナーになるってことは他のご令嬢方からの恨みつらみが私に向くってことじゃない?、それを期待してるのよ。」
「………、そうかなぁ。」
多分そこまで考えてないと思うけど。
と心の中で思いながらも、アリアが言う事もあながち間違いではないなとファヴィオは苦い顔をした。
「まぁ私が目立だなければいい話なのよね、主役はアウローラ様だし、持ってきたドレスは地味なやつで人混みに溶け込めるものだし!!、うん、大丈夫!!、王太子と入場したあとさっさと離れれば問題ない!」
アリアは自分を励ますように拳を握りしめている。
その様子をファヴィオはつけペンを動かしながら冷めた目で眺め、小声で聞こえないように呟いた。
「………絶対ムリだと思う。」
翌日。
「どうしてこんなことに…………、」
アリアは大広間で項垂れるように小声で溜息を吐いた。
「アリア大丈夫か?、……体調でも悪いのか?、」
「ご心配なく、何でもありません。」
アリアは公爵令嬢としての気品を崩さないよう、王太子ににこやかに接し、心の中で愚痴をこぼしていた。
何で私……、王族ご一家と一緒にいるのよ……。
しかも、このドレスは一体どうなってるんだ………。
アウローラ王女殿下のデビュタントも兼ねているということもあり、誕生祭には多くの貴族達がお祝いにと押し寄せてきていた。
アウローラ王女はお祝いに来る貴族一人ひとりに壇上にて挨拶を行い、その後ろの上座に国王夫妻が座って見守っている。
そんな中、公爵令嬢であるアリアはというと、貴族達の中に並んで挨拶待ちをしているわけではなく、王女の後ろの下座で王太子と揃いの衣装で並び立ち、三人でお祝いに来た貴族たちと挨拶をする役回りを押し付けられていた。
今朝、嫌な予感がしたアリアはいつもより早く起床し、さっさと持参したドレスとベールを身に着けてしまおうと軽く髪を梳かして手入れをし始めようとしたが、その瞬間、王妃様付きの侍女長に扉を叩かれ、有無を言わさず拉致され、あれよあれよと王太子の用意した服装に着替えさせられたのだ。
白地で細やかなレースの下に絹地艷やかな裾が広がり、上に銀糸で艶やかに刺繍された藍色のベルベットのガウンを着込んだオーバードレスには、ムスコヴィテ様式の長い開いた袖がついている。
開いた袖の下からはカフスのついた絹のビショップスリーブのブラウス状になったドレスが見え、胸元を洗練された刺繍の施されたベルトで止めた、コルセットをしなくとも厳かで舞踏会に相応しい装いになっている。
とても自分好みというか、古るめかしい様がまた新しい趣を産み出しているようなデザインにアリアは惹かれてはいたが、
可愛らしい王女様の雰囲気に合うよう、スカートの裾の装飾が美しいローブ・ア・ラ・ポロネーズスタイルのご令嬢が多く占めている中でこの格好をして、王族と並び立っている状況に胃がギリギリと音を立てていた。
ツライ。
ものすごくつらい。
令嬢たちの視線が痛い。
王太子とお揃いになってるのは王太子が用意したドレスを着せられたからなので王太子殿下に文句を言ってほしい……。
魔法のベールと呪いで顔が見えないことをいいことに、アリアは渋い表情で挨拶をかわしていた。
「……やはり気が重いよな、すまない。」
「はい?、」
まさか自分を思い遣る言葉が王太子の口から出てくると思わなかったアリアは思わず王太子の方に顔を向けてしまった。
「私とアウローラだけでこの挨拶を交わすのは少し耐え難くて……、特に私一人だと結婚話が多くて中々終わらなくてな、それだと誕生日のアウローラが可哀想で……。」
「ああ……。」
確かに、仮にも王太子から直々に求婚された公爵令嬢が隣に立っていればそういった話は出来ないだろうと、アリアは納得した。
「何か礼はするので、今日は側にいてくれると助かる。」
「では求婚を……」
「求婚取り下げ以外ならな。」
言い終わる前に釘を刺されたアリアは心の中で舌打ちをし、気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。
「………、仕方ないですね。王太子殿下にはドレス等沢山贈り物を戴きましたから、そのお礼、ということにしておきます。」
「何も、いらないのか?」
「もう沢山貰いましたから。今日だって素敵な装いにさせてもらいましたし?、…………それに、結局アウローラ様のお相手がわからなかったという、私の失態もあるので……。」
アウローラが夢に見た人に会った後の二日間、アリアは懸命に身体的特徴を聞き出そうとしたが、恋い焦がれたアウローラは会った時の情景や心情を語るばかりで、決定打となる証言を聞き出せなかったのだ。
「……あれは誰であっても無理だろう。今も心ここにあらずで隙があれば周りを見渡しているからな。」
王太子の言う通り、貴族達の礼に対して返せてはいるものの、アウローラ王女は頻りに彼の人を探しているようだった。
「……まあ、フィリップ殿が見える際には使節団も遠ざけて一人で挨拶していただくよう、手筈は整えたから……、」
「後は何とかなるのを祈るばかり、ですね……。」
気が重いと思った二人は意図せず同じタイミングで溜息をついた。
「隣国、エテェネル王国より、フィリップ王太子殿下の御成ーっ!」
隣国の王太子の到着を知らせるラッパの名とともに、コールマンの声が大広間に響き渡る。
「いよいよだな。……先頭に立つのがフィリップ殿だ。」
アリアは王太子に囁かれた言葉の方へと目を向けて、アウローラ様の婚約者を眺めた。
堂々と玉座へと向かうその姿は王族というよりも名のある騎士の足運びに近く、軍服をアレンジしたかのような正装がよく似合う凛々しく爽やかな青年だった。
「ヴィンツェッティ王国の麗しき花、アウローラ王女殿下にお目にかかります。エテェネル国王が第一子、フィリップ・ルイ・オーギュスタン・エテェネルモンにございます。この度は十五歳の誕生日、誠におめでとうございます。」
アウローラの側まで歩み寄ったフィリップは深々と頭を下げた後、お祝いの挨拶を丁寧に述べていく。
「フィリップ王太子殿下、どうぞ顔をお上げくださいませ。この度は、遠路遥々我がヴィンツェッティへようこそお越し…………」
アウローラの言葉に応じるように上体を起こしたフィリップの翡翠色の瞳を見た瞬間、王女様の動きが止まり、それに呼応するかのようにフィリップ殿下も固まってしまった。
「うそ………、まさか……、」
「いや………、そんな……、」
二人とも衝撃に震えながらも、見つめ合う視線を外さず声を合わせて言い放った。
「貴方は……、」
「きみは……、」
「「あの時の………!!!、」」




