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夢が現になるなんて想像もしていなかったのよ、本当。





「それで、()()()()()になってしまった、と………。」



「……………、返す言葉も御座いません……。」



執務室で額に手をあててため息をつく王太子の前で、アリアは頭を下に向けている。


「……いや、まさか……、夢で逢った人が現実にいるなんて………。」


「それは私も驚いている……、こんな事ってあるのか?、……というかアリアは何も悪くないんだから頭を上げてくれ。」


猛省するアリアの頭を上げさせながら、王太子は現実ではあり得ないような状況に困惑していた。





アウローラ姫が、夢に見ていた人に逢ったのだ。





一人で摘まねば恋が叶わぬという青い小さな花、トゥイーディアをアウローラが摘むため、アリアが別行動していた際に、何度も夢の中で逢った理想の方と再会したらしい。

偶然アリアが待機していた近くで、毒蛇に噛まれた主のために薬草を探す騎士がいたらしく、解毒薬を持っていたアリアがその場を少しの間離れ手当てをしていた十分にも満たない間に遭遇したのだそうだ。


アリアが急いで駆け付けたときにはアウローラの心は、既にここにあらず、といった状態だった。


夢の中で会っていた人に逢えたわ、とても素敵な方だったの……。


という王女様のいつにもなく麗しい声で歌うように呟く姿に大混乱したアリアは、取り敢えず兄でもあり今回の誕生祭を取り仕切る王太子に報告したほうが良いと判断し、帰宅してすぐに着替え、執務室に謝罪をしにきたのである。




「わぁ、アリアの呪いの解除の仕方といい、王女殿下といい、何だか御伽噺みたいな話ばっかりだなぁ!」


「今私の話は関係ないでしょうが。」


王太子が悩む側であり得ない状況にケラケラと笑っているファヴィオに対して、アリアは強い視線を向けた。ファヴィオはこわいこわいとアリアの睨みを茶化しながら、話を続けていく。


「にしても、婚約者であるフィリップ王太子殿下との初対面が迫っている今、アウローラ王女殿下が恋に落ちたってのは、何ともマズい事態ですよねぇ……。」


「ですね……、しかも誕生祭で会う約束をしたらしいじゃないですか。」


ファヴィオに槌を打つようにティグレが放った事実に、四人は大きく息を吐いた。




アリアがアウローラの待つ洞穴にお嬢様とアウローラに対して声をかけながら駆け寄った際、お姫様と離れがたくなった()はアウローラに"また会えないか?"と尋ねてきたのだそうだ。

()を何処かの貴族だと思った王女様は、

"この国のアウローラ王女殿下の誕生祭に出席するので、そのときに。"

と返してアリアの元に戻ったのだ。



「婚約者同士の仲に亀裂が入ってしまうと、同盟すらご破産になってしまう可能性があるというのに……、我が妹ながら何も考えずに約束をするとは……」


「いや、かなり似た者同士でしょ。」


何も考えていないのはお前も同じだろ、と言わんばかりの呆れ顔でティグレが放った言葉に、レオナルドは目を見開いた。


「え……、私って、そんなに無鉄砲か?」



「「「無鉄砲。」」」



従者に側近、更には求婚している元婚約者三人から声を揃えて肯定されてしまった王太子は、顔を不服そうにしかめ、自分が責められないように話をもとに戻した。


「そっ、そんなことより、アリアはアウローラから()の見た目とかについて聞いてはいないか?、会うことをやめさせるつもりはないが、せめてフィリップ殿とは鉢合わせないようにしなければ……。」


「………それがですね、主だった特徴は教えていただけていないんです。」


アリアはベールの下で茶葉を浸しすぎた紅茶を飲んだような渋い顔をしている。


「瞳すら懐かしい面立ちに、夢の時と全く変わらない優しさと凛々しさ……、とか、そのくらいしかアウローラ様から聞いていなくて……、というか、ずっと夢うつつなので………。」


何を尋ねようが何を言おうが、彼と逢った時間と、次に会える時を夢見て酔いしれるアウローラにアリアの声は届いていなかったのだ。

申し訳無さそうに項垂れるアリアの横で、ファヴィオが当惑しながら息を吐いた。


「恋い焦がれちゃってるのかぁ……、ずっと夢に見てた人が出てきたらそりゃぁそうなるわな、」


「確かにアウローラ様、ワルツを踊るようにステップ踏みながら小声で歌ってたわ……。」


「………、」


すれ違った情景を思い出しながら悩むティグレの隣で、王太子が複雑な面持ちで黙り込んでいる。



()の事は、あと二日間で何としてでも聞き出します。せめて髪色だけでもわかれば何とかなると思いますので……、」


「すまない、頼む。私の方からもそれとなく聞いてみたいが……、そもそもこの話を()()()()()()()()ので、なんとも……。フィリップ殿や使節団の対処は私が行うので、何としてでも鉢合わせだけはしないように努めよう。」


「宜しくお願い致します。」


アリアは王太子に向けてゆっくりと頭を下げてお辞儀をした。









「そういえばなんですけど、フィリップ王太子殿下ってどんな方なんですか?」



アウローラ王女の事はあと二日でなんとかすることにした四人が通常業務を片付け始めた頃、アリアがぽつんと疑問を口にした。


「そっか、アリア引きこもりだから会ったことないのか。」


「引きこもりとは失敬な!!、公爵領内の街にはよく行ってるわよ!!、仕事以外出不精なファヴィオに言われたくないわ!」


「私は仕事以外でも甥っ子を見に君の家に行ってたり、色々外に出てますけど〜??」


茶々をいれるファヴィオに食って掛かるアリアと、その二人を羨ましそうに睨みつける王太子を横目に、ティグレが考えながら口を開いた。


「うーん、端的に言うとかなり明るくて気さくな方、かな。レオナルドが月なら太陽って感じの人ですよ。」


「へぇ……、太陽ですか。」


その白い肌に端正な顔立ちといい、最近まで中性的な曲線美を描く体格をしていたレオナルド王太子が月と喩えられている事に言い得て妙だなと感心しながら、アリアはティグレのフィリップ像を聞いていた。


「それに武芸に秀でてるし、周りの側近の人も騎士の方が多いんだとか。」


「えっ、そうなの!?」


「細めの体格だけど、体幹しっかりしてるし、筋肉もバランスよくついてたな……。」


「まぁ、それはっ…………」


アリアは動かしていたペンを止めて、おもむろに立ち上がり、



「とっっっても素敵だわ!!!」



と、瞳を輝かせて言い放った。




















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