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あなたをいつも夢に見ているの、私。



「お花……、ですか?、でしたら庭師にでも頼んで……」


王女様からの唐突なお願いに驚きながらも、花であれば王宮の庭に咲いているものを摘めばいいのではと考えたアリアの応えを聞く前にアウローラが口を挟んだ。


「王宮には咲いてない珍しい花なの!、それが城下町近くの森に生えてるって聞いたから取りに行きたいの。」


「でしたら私が一人で……」


「ダメ!、叶えたい本人が一人で摘まないと……、あっ!!」


思わず口走ってしまったと気付いたアウローラは慌てて口を手で覆ったが、遅かった。


「……、どうゆうことでしょうか。」


アリアがベールの下から疑惑の目を向けているように感じたアウローラは、観念して詳細を話し始めた。









「つまり、恋が成就するという花を内緒で取りに行くために、私に協力してほしい、と。」


「フィリップ殿下に嫁ぐことが決まってるから、お母様やお父様に迷惑はかけられないでしょう…?、それに、お相手だって……、よく、わからないから……。」


「……たしかに、夢に見る人、では曖昧ですね。」


何とも摩訶不思議な話を聞いたアリアは、顔をしかめながらため息をついた。


アウローラの話をまとめると、小さい頃から夢に自分の理想の王子様のような人物が現れるのだそうだ。

たまに夢で会えるだけの人であり、彼に会うたびに心が踊るため、アウローラは存在しない自分で作り上げた王子様だと思っていたのだが、この一週間、毎日その王子様が現れて喋りかけてくるのだとか。

その様子を見て、何故だかこの人は実在する人物に違いない!、と胸がざわめいた王女様は、彼に会うために摘めば恋が叶うトゥイーディアという花を探しに行きたいらしい。



「勿論、恋を成就させてその方と結婚したい、というわけじゃないの。……ただ、存在しているのなら、ひと目だけでも会いたくて。」


アウローラは少しずつ、自分の思いを述べていく、


「……いつも、私を励ますような、私を喜ばせてくれる言葉を言ってくださっている気がするの。夢の中だから、正確には覚えていないのだけど。」


切なげな、それでいて焦がれるような顔をしながら。


「だからね、その人にお礼を言えるように、その花を摘みたいの。」


アウローラは隣国との同盟を強固にするため、必ず嫁ぎにいかなければいけないことを理解している。

王女様の言う()()()()は、淡い初恋を夢ではなくて現実にする、というものだった。


夢であった人物に逢うために、藁にもすがる思いで花を探すのだろう。

たとえ会えなくとも、トゥイーディアを摘み恋を叶えるという努力をした。その事実さえあればなんの悔いもなく嫁げる。

そう王女様は考えているのではないかと思索したアリアは、手にしたティーカップをゆっくりと降ろし、言葉を紡ぎ始めた。



「………わかりました。この私で良ければ、お供させていただきます。」


「本当っ!?、嬉しいわ……!、ありがとう……。」


アウローラは自分の無茶な願いを聞き届けてくれた事に喜びを感じ、アリアの側まで近寄って手を握って感謝した。


「今日の夕方には隣国の使節団の方と、フィリップ王太子殿下がご到着されますので、摘みに行くなら今がいいかと。」


「私は誕生祭まで使節団の方々とお会いできないから、明日でも良いと思っていたのだけど……、そうよね、誕生祭の準備とか、接待とかで忙しくなるものね。じゃあ、行きましょう!」


「では、まずは着替えましょう。」


流石にローブ・ア・ラ・フランセーズのドレスを着た金の髪の可憐な少女をそのまま連れて行く訳にはいかないため、アリアは今すぐにでも王宮を飛び出しそうなアウローラに変装を促した。










「お城の外って、とっても素敵なのね……!!」


城下町近くの森で、アリアの愛馬からゆっくりと降ろしてもらったアウローラは声を弾ませて喜びを表現している。


「城下町のお店を眺めたりとか、お菓子を食べたりしたことがなかったからとっても新鮮だったわ!」


「道中も楽しんでいただけたようで何よりです。」


花が舞うように体を踊らせるアウローラにむけて、アリアは見えない笑みを浮かべた。


花が生息しているという森までの道すがら、アウローラを自分で包み込むように馬に乗せて城下町を速歩で走らせていたのだが、あまり王宮の外に出る機会のないアウローラの瞳が輝きながら様々なものを映していたので、アリアは何度か寄り道をして王女様に城下街を見せて回っていた。



「次は王太子殿下やイアーリア様とお出掛けなさってみてはいかがでしょう。今日は目的が他にあったので、あまり長居できませんでしたし。」


「そうね!、今度お兄様にお願いしてみようかしら……。あ、勿論アリアお姉様も一緒よ?」


「……それは了承しかねます。」


アリアが承諾しなかったせいか、アウローラが見えていない顔を責めるように覗き込んでくる。

王女様には呪いで顔が見えないとはいえ、目線が合うのが気まずいアリアは背けても背けても追いかけてくるアウローラの視線に耐えきれず、咳払いをして話をそらした。


「んんっ!…、それより、早く花を摘んだほうが良いのでは?、王宮に戻る前に日が暮れてはいけませんから。」


「あ!、そうだったわ……、たしかここの洞穴を通った先にあるのよね。」


「城下町の方々の話からすると、おそらく。周りに魔物や獣の気配もありませんし、お一人で行くのなら今がいいかと。」


木の根で作られた先が見えるほど短い洞穴を眺めるアウローラの側で、アリアは辺りを見渡している。


「わかったわ、じゃあ行ってきます。」


「何かあったら直ぐに駆けつけますので、声を上げてくださいね。」


「ええ。でも、獣もいないのなら大丈夫よ。そこまで心配しないで、すぐに帰ってくるわ。」


アウローラはアリアに小さく手を振りながら、籠を片手に明るい洞穴へと入っていく。



「……何事なく、帰ってきてくださるといいのだけど。」



アリアは一人、誰もいなくなった洞穴を眺めながら呟いた。


















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