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好きなものを身に着けてもいいのよ、アリアお姉様。



「まぁ…!!、とっても素敵だわ……、白銀の煌めく髪に良く似合うお召し物ね。」


「お褒めいただきアリガトウゴザイマス……。」


礼儀作法や外交に関して助言しに赴いたアリアはアウローラ王女から服装を褒められ、ベールの下で戸惑った表情をしていた。



ドレスを贈ることについて、はぐらかされたまま朝食を終えたアリアが王太子の送り付きで自室に戻ると、ティグレが大きな荷物を部屋に運んでいる最中だった。

アリアが荷物の中を確認すると七着のドレスとヘッドドレス等の装飾品が入っており、無言で王太子の方を振り返って訴えたが、王太子が

「今日から毎日着てくれると嬉しい。……十年間君に贈り物をしてこなかった私から渡されるなど、気味が悪いかもしれないが……、気に入らなければ捨ててもらっても構わない。」

と少し哀しげに言い残して執務へと向かっていったため、王太子が可哀想になってきたアリアはつい、その中の一着に着替えて王女の元に赴いてしまったのだ。




なんだかんだ私って、王太子に甘いんじゃない…???




落ち込む王太子の姿がしょんぼりとして震える子犬のように見えてしまったアリアは同情するのも大概にしなければ、と流されてしまう自分を反省した。



「いつもの濃い色合いで簡素な装いも似合ってらっしゃるけど、この繊細で、薄く光る刺繍の柄がアリアお姉様の上品さを更に引き立てているわ……!、とってもお似合いよ。」


「……そう、ですか?」


アウローラが目を輝かせて心から褒めてくれている状況に少し尻込みをしつつ、アリアはぽつぽつと言葉を口にした。




「……確かに、とても素敵で動きやすくて、……私好みではあるのですが……、こんな上等なお召し物、私が着ていいものではない、かと、思ってまして………。」




淡いブルーグレーのビロード生地で仕立てられたソプラヴェステ型のドレスに、少し濃い色で生地全体にスターチスとカスミソウの間にラナンキュラスが咲き誇るような刺繍が施されており、台形に空いたデコルテ部分は絹地のブラウスで覆われ、首元はアリアが良く着る控えめなラフの襟飾りになっていた。

基礎的な形はアリアが刺される前まで良く着ていたものと同じでありながら、今着ているものはコルセットをたとえ着用していなくとも綺麗な形を保てるように作られている。

裾部分を金糸の刺繍で覆い、帯の代わりに真珠で作られた腰紐が垂れるこのドレスは、華美ではないが典雅な趣を秘めている。


アリアはこの服を手に取った時、王太子への同情もあったが、純粋に着てみたいと思い身に着けてしまった。

だが、着てみたはいいものの、こんな素晴らしいモノを醜女(わたし)が着ていいのかと負の感情に苛まれたのだ。



十年前に王太子から醜いと罵られた後、自分に向けられた貴族たちの嘲笑う眼が、彼女は今でも忘れられない。




王太子の婚約者になって数ヶ月の間は招待があれば同年代のご令嬢達のお茶会に赴くような令嬢だったが、赴いた先々のお茶会で格好の的となったアリアは公爵領の外へ出ることはなくなった。


『まぁ、とても素敵なお召し物ですわね!、()()()()()()美しいわ。』


『とても華美な装飾なんて、アリア様のお顔に似合うのかしら?』


『お似合いなのは沼の底のようなドブ色ではなくて?』


王太子と婚約したかったご令嬢方や、娘を婚約させたかった伯爵や侯爵夫人達から執拗に婉曲な罵詈雑言を浴びせられたのが原因だった。



自分が醜女であることを認め、平穏を装おうとしても、綺麗なモノを身に纏う自分はまた何か言われてしまうのではないか。

褒められたとしても、本当に褒めているわけではないんじゃないか。

そんな邪な思考がアリアの中に染み付いている。


アウローラから褒められている今でさえ、どうせ本心では無いのだと嘆く自分がいることが情けなく、アリアは交差した両手をキツく握りしめた。



「アリアお姉様………、」


「……私に似合うものなんて、この世に存在していないことぐらい、理解しているつもりです。……でも、」


それでも、


アリアは噛みしめるようにゆっくりと言葉を口にしていく。



「………着てみたい、と思った服を、嘘でも似合うと仰っていただけて、とっても嬉しいです。」



「………!、」



アリアの口から初めて聞いた、嬉しいという言葉にアウローラは少し目を潤ませた。


憧れるような素敵なドレスを着た自分を、例え嘘であったとしても貶すことなく褒めて貰えた事が、アリアの心をほんの少しだけ軽くした。


王女様の言葉を疑う自分が憎いけれど、褒めてくれた事を喜ぶ自分を認めたい。


アウローラの言葉は、アリアをそんな風に考えさせる糧となったのだ。




「そう……!、そう!!。お姉様に事実を述べただけなのに、喜んでもらえるなんて私もとっても嬉しいわ……!!、本当に……、本当に似合っているのよ。」


アウローラはアリアの手を取って、見えない顔に喜びを向けるように微笑んだ。


「お顔が見えなくたって、アリアお姉様の雰囲気や体格……、髪色にとっても合っているのよ。それにね、」


力強く、そして励ますように、自信のない大切な人へ向けて言葉を続けていく。



「誰かからの贈り物を嬉しそうに着ている貴女は、誰がなんと言おうと素敵なの。……似合っていなくたって、好きなものを好きなように身に着けていいのよ。」


「アウローラ様……。」


「私だって誰に何を言われようと、好きなものを身に着けてるわ。他人の声なんて気にしなくていいの。……それに、お姉様を大事に思う方やご家族はアリアお姉様を貶したりなんてしないでしょう?」


「そう、ですね……。本当に似合ってなかったら、似合わないと素直に笑ってくる奴はいますけど。」


アリアは『うっわ、めちゃくちゃ似合ってなくない?、違う色の方がいいと思うよー』と言うファヴィオを想像して少し笑ってしまった。


「でしょ!?、だったら好きなものを身に着けて、好きな人にだけ褒めてもらえればいいのよ。アリアお姉様は前の格好も、今の格好もとっても素敵で綺麗!!。これは私にとって事実だから、自信を持って下さいね?」


アウローラから向けられた人差し指の前で、アリアは明るい笑みを浮かべて、「はい」と元気よく頷いた。













「終わらない…おわらない……、書類がまだ、こんなにっ……」



部屋の窓から入る日が少なくなり、明かりを灯さなければいけなくなっても減ることの無い事務処理作業に王太子は辟易していた。


「ファヴィオも帰ってしまったし、ティグレも今日は野暮用があっていないというのに………、隣国からの来賓者への対応も相まって仕事が減らない………。」


いつもの公務と共に、妹のデビュタントでもある誕生祭準備に国賓の接待に関するモノなど、次期国王となるレオナルドには多大な数の仕事が託されていた。

王太子の側近は次期宰相候補(ほぼ確定)のファヴィオと、従者のティグレのみという少数精鋭のため、元々一人あたりの仕事量が多いのだ。



たまたま二人が早帰りや休みの時に、予想外の仕事が舞い込んできたため、王太子は自室に仕事を持ち帰ってペンを動かしている。


嘆きながら明日の業務を減らそうと粛々と仕事を進めているレオナルドの耳に、コツコツという音が扉から響いてきた。





「………王太子殿下、今、よろしいでしょうか。」



「え……、アリア!?!?」





思いがけない人の声を聞いた王太子は、椅子から飛び上がったせいで膝をぶつけてしまった。














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