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着るものの趣味が令嬢じゃないんですよ、お嬢様。



「君はいつも、そんな服装なのか?」



「……はい?」



向かい合って朝食を取る王太子から思いがけない質問が飛んできたアリアは思わず手を止めた。


「装飾が少なく、暗い色が多いだろう?、……何と言うか他のご令嬢方とは全然違うドレスを着ているな、と。」


「つまり、地味で質素すぎる流行遅れだと。」


「いや、そんな事を言いたいんじゃなくて……、何故か、と。」


「何故?」


「ああ、公爵家の令嬢であれば装飾や宝石を散らした衣装を揃えるのは簡単だろう?、生地や作りが上等なのはわかっているんだが、君は一見貴族でなくても誂えられるような服装をしているじゃないか。どうしてなんだ?」


「どうして………。うーん、私があまり服に興味がない、からですかね。」


アリアは頬に手を添えて悩みながらも王太子の問いに答えていく。



「別に誰かに会うこともなく、顔を見せることもないし、醜女なので着飾る必要がないかな……と昔から思っていたので、あまり華美なものを着たいという欲求がないんです。私は何を着たって似合わないし。」


そもそも似合っているのかどうかも、他人に顔を見せることがないので解らない。


「……あとは、育った環境が武術第一だったのと、私がお洒落よりも武芸に惹かれてしまってた。ってのもありますね。」


「……ノウン家だからか。」


「ええ。赤子の頃から訓練場が遊び場ですから。顔を隠す前から汚しても洗いやすくて、機動性の優れた服を好んでましたね。」


今のこの服も可動域が広いし、どんな無茶にも多少は耐えてくれるんですよ、

と答えながらナイフとフォークを動かし始めたアリアを王太子は少し戸惑った表情で眺めた。


深い藍色で、上半身をぴったりと体型に添わせたコタルディ型のドレス。刺繍や装飾は一切ない生地で手の甲から首元まで全て覆い尽くし、艶やかなさりげない刺繍を施した白いサッシュベルトで胸下を止め、帯の下は藍色のドレスの間から真っ白なスカートが見えている。


アリアの装いはあまりにも質素だ。

その服装とブーゲルフードを被り髪を黒色のベールで隠している姿はまるで修道女のようである。


何を着たって似合わない。


アリアから告げられたその言葉に、王太子は心を悩ませていた。




「………じゃあ、君は、宝石や刺繍を綺麗だとは思わないのか?、憧れとかは……。」


「綺麗だとは思いますよ。キラキラと輝いていて、見る方向や光の角度によって煌めきや色が変わる……、見ていて飽きない素敵なものだと思います。刺繍も、縫った方の情熱や想いが伝わってきますし、好きですよ。」


「身につけることに関してはどう思う?。母上からヘッドドレスを貰っていただろう?、あれを身に着けていた時に嬉しそうというよりは、げんなりとした態度だったが………」


「あっ、あれは!!、とても素敵だし素晴らしいモノを頂いたとは思ってるんですよ?。………ただ、」


この国の王妃から賜ったモノをぞんざいに扱っていると思われていたことに焦ったアリアは王太子の問いが終わる前に口を開いたものの、理由を述べるに戸惑ってしまった。



「ただ?」




「…………頭の上に物凄く貴重で高額なものを載せていると考えたら、緊張してしまって………。」


「高額……。」



「だっ、だってダイヤモンドですよ!?ダイヤ!!、しかもダイヤの中でも貴重なブルーダイヤモンドまで入ったヘッドドレスだなんてっ……!!、」


アリアが王妃の誕生祭に着て欲しいとドレスと共に贈られたヘッドドレスは、様々な木の葉の造形をプラチナで作った上から、小さなダイヤモンドを贅沢に散りばめてあり、その木の葉の中に潜む小さな花々がブルーダイヤモンドの粒で作られていたものだった。


「あんなっ、公爵家の収益の五年分……いや、下手したら十年分あるかもしれないものを頭の上に載せて緊張しないなんて無理ですよ!?、というか、落として壊したりでもしたらどうしようっていう恐怖の方が……」


「そんなことを言ってるが、アリア刺されて倒れてったよね?」


「アレは非常事態だったから仕方ないでしょ!?、いや、本当……今思うと壊れてなくてよかったわ……。」


「まぁ、あのヘッドドレスは使わなくなった宝飾品をリメイクしたものだと言っていたし、小粒のダイヤしかないのだからそこまで気を使わなくてもいいんじゃないか?」


「は?、アレが気を使わないもの……?、リメイク??、

恐ろしい……、恐ろしいわ………、王家の財宝ってどうなってるの???、金銭感覚おかしいんじゃないですか!?」


わなわなと高額なものに震え慌てふためくアリアを見ているうちに、悩んでいたことが馬鹿らしくなってきた王太子は呑気に朝食後の紅茶を嗜み始めた。




「……じゃあ、別に嫌だったわけではなくて気に入ってもらえたんだ。」


「ええ、前回の勲章授与式で使用させていただいたので今回は持ってきておりませんが、家宝として厳重に仕舞わせていただいております。」


「なるほど。……なら、私から幾つかドレスや装飾品を贈っても着てもらえるってことだよね。」


「そうですね、王太子殿下から直々に戴いたら着ない訳には…………、って、え????」



心を落ち着かせようとしながら王太子の問いに何となく答えていたため、アリアは大きな回答ミスをしてしまった。



「承諾してくれて良かった!、じゃあ私からも普段着と舞踏会用のドレスを贈らせてもらうから、部屋に帰ったら是非着替えてみてくれ。」



アリアが聞き返したことをなかったことにして、王太子は爽やかな笑みを固まってしまった彼女に向けた。










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