貴女はとっても大事にされてますよ、王女様。
「恋って、政略結婚でも芽生えるものなのかしら?」
鯉が、芽生える???!?!?!?
アリアは宇宙へと旅立った思考で、別のコイが土から芽吹く様子を想像してしまい、いやいや!!コレではない!!それはわかる!!と霧を払うように考えていた事を追い払い、もう一度アウローラ王女が口にした言葉を考え始めた。
恋。
私にはまっっったく馴染みのないモノ。
うん、何が恋で何が恋じゃないのかも見当がつかない。
そもそも、お伽話とかの恋物語を、普通の女の子のように憧れて夢見ていたのは婚約されるまで、つまり七つの時まで。
そんな私がわかるはずがない。うん、わからん!!!
悩んだところで答えが出ないと諦めたアリアは、自分や周りの事を正直に話すことにした。
「そう、ですね……、我が兄ジルベルトは婚約当初から義姉の事が好きで、自分の事を好いてもらってから結婚していたので、恋が芽生えることもあるんじゃないでしょうか?。」
「!、そうですわね、ノウン小公爵様は本当にソフィア様を大事になさってるのがパーティとかで見ていてもわかりますもの。他の女性には顔を向けず、ずっとソフィア様を見てらっしゃるわ……、とっても素敵なご夫婦で、私もああなりたいと思っているの。」
アウローラはうっとりとした面持ちで、ジルベルト夫妻の情景を思い返している。
氷の貴公子と呼ばれていたジルベルトも、妻のソフィアと参加する舞踏会やパーティで見せる顔は、まるで雪解けの中から花が咲くように微笑んでいると言われるほど緩んだ顔だと噂されている。
いつも緩んでいる顔しか見ていない妹にとっては、甘ったるくて仕方がないモノだった。
「それに、両陛下も政略結婚でしょう?、それでもいつまでも仲睦まじいご夫婦ではありませんか。」
「そうね!、お父様とお母様もとっても仲良しだわ。何でしたっけ……?、お父様は国王としては珍しく、そばめがいないって、聞いたことがあるわ。そばめって何かしら?、お姉様。」
「ま!!、イアーリア、どこでそんな言葉を!?、えっと……、側女というのは……、その……!」
自分よりもひとつ下の妹から、知らなくても良い単語が出てきたことにアウローラは驚きが隠せず、上手く説明することが出来なかった。
アリアはこほん、と咳払いをして王女の代わりに説明していく。
「……王妃様の他に、別のお妃様がいらっしゃることです。」
「えっ、それは浮気じゃないのかしら??、」
「………悪く言うと、王妃に容認された浮気で、王宮に住む国王の別の妻です。」
「まぁっ!!、酷いわ。お父様がそんな人じゃなくて良かった。」
イアーリアは怒ったように頬を膨らませた後、自分の父が素敵な大人だと誇るように微笑んだ。
無邪気な王女に見えない微笑みを向けたあと、アリアは説明を続ける。
「でも、その王が一概に酷いとは言えないのですよ。お世継ぎが産まれなかったから側室を迎えることや、貴族同士の派閥争いで側室を持たなければいけない事もありますから。」
「そうなの?」
「ええ。それに、国王が王妃となる人を好いていなかったら、好きな人を側室に迎えることもあるでしょう?」
「…………私も、そうなってしまうのかしら。」
アウローラはティーカップを強く握りしめた。
婚約者であるフィリップ王太子の国と、強固な同盟関係を維持するためにアウローラは隣国に嫁ぐのだ。
兄の婚約と同時期に決まった事であり、王女は物心がつく前から"貴女は隣国に嫁ぐのよ"と言い聞かされていたのである。
だとしても、彼女は夢を見ていたのだ。
お父様とお母様のように、私もフィリップ様と仲良く暮らしたい、と。
でも、アウローラは自分の父親が珍しく側室を持っていないだけで、他の国では側室がいることが当たり前だとも彼女は聞いていた。ならば、せめて婚約者と恋をして、仲が良かった期間だけでも作りたいと王女は考えていた。
そのため、側室が一概に悪くないと言われたアウローラは、自分も覚悟をしなければいけないのかと狼狽えてしまったのだ。
婚約者とせめて、仲良く生活が送れるようにしたい。
いつかの自分が描いたことを、アウローラ王女も心の中で思っているのだろうと察したアリアは紅茶を口に含んだあと、優しく笑いかけながらアウローラに問いかけた。
「……アウローラ様は、フィリップ王太子殿下と文通をされていらっしゃるんでしたね?」
「ええ、そうよ?、」
何の脈絡もない問いに、アウローラは少し驚きながら答えた。
「どんなお手紙を?、どんな贈り物をいただくのですか?」
「……他愛も無いお話よ?。あちらのお国の料理の話や、海の上にそびえ立つ修道院みたいな素敵な景色の話とか……!、いつも、いつか一緒に見に行きましょうと言ってくださるの。何処かへ行ったときは毎回そこで摘んだ押し花を添えてくださって……、私の誕生日には勿論、毎回素敵な贈り物をくださるわ。それに、それだけじゃなくて………、」
花が咲き開くように、姫の顔が綻び、愛おしそうに手紙や贈り物の思い出を語っている。
その様子を見たアリアは、安堵した表情でアウローラに話しかけた。
「……フィリップ王太子は、アウローラ様をとても大事に想ってらっしゃるみたいですね。」
「え、」
「相手が喜ぶようなお手紙に、贈り物……。アウローラ様を気遣って文章を選んだり、花を摘んでいるのが見えるようにわかります。」
「……そう、かしら。」
「ええ。嫌いだったら、十年間一通も手紙を出してこないに決まってます。プレゼントだって、贈られてなんかきません。返ってくるのは罵詈雑言ぐらいじゃないですかね?、」
現に私がそうだったから。
という言葉までアリアは言おうとしたが、話がそれると考え直したので口には出さず、王女様の背中を押す言葉になるように優しく励まし始めた。
「だからきっと、仲の良いご夫婦になれると思います。私が保証します。」
「……本当?、」
「ええ。両陛下のような素敵なご夫婦になれますよ。もちろん、アウローラ様もフィリップ殿下を大事にしなくてはいけませんが。」
「大切にするわ!、私、夫となる人と仲良くなりたいもの。」
アリアの励ましが功を奏したのか、アウローラは太陽のように眩しい笑みをアリアに向けた。
「ところで、お兄様とアリアお姉様は、仲良し夫婦になるの?」
「へ?、」
アウローラの質問と相談に何とか乗り切った……!!、と安堵して紅茶と宮廷のお菓子を堪能していたアリアに、イアーリアという無邪気な第二の刺客が立ちはばかった。




