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何度魔物に襲われるんだ、アンタ。




速く、速く、速く――――――!!!!





「お願い、もう少しだけ頑張って!!」


アリアは愛馬の首を優しく叩きながら、更に疾く駆けるように急がせる。



街道付近の五箇所の結界のうち、破られたのはアルバ伯爵領近くの森のモノであり、一番魔物を多く閉じ込めていた場所であった。

結界が壊れたことで魔力反応がなくなった為、大急ぎで公爵領に報せが届き、それと同時に憲兵や衛兵が結界崩壊場所へ赴きはじめたのだ。



つまり、まだ王太子殿下を乗せた馬車は魔物と遭遇する可能性があることを知らない。



前回魔物に襲撃されたこともあり、アリアは衛兵を十人程付けて王太子を見送るように頼んだが、

それであっても魔物の群れから王太子殿下を守り通せるとは限らない。


アリアは報告を受けてすぐに、髪色を灰色にする結紐で髪をまとめて愛馬に跨って駆け出した。



お兄様にも報告したし、後の処理はお兄様に任せておけばいい。

あとは、王太子殿下とティグレ様の無事さえ確認できれば………!!



街道を風よりも速く駆け抜けるように走りながら、アリアは不安と焦りにかられていた。



















「くっ……!!!、数が多すぎる……!!」




馬車を囲むようにして護る衛兵の一人が苦虫を噛むように呟く。


日が暮れ始めた街道は魔物の群れで覆われており、死体が馬車の周りに佇んでいる。

その魔物の死体の数からして、十体は倒したであろう。

百戦錬磨の将軍に仕える衛兵達とはいえ、自分の体よりも三倍はある、巨大な蛇のような魔物を十体も倒した後に使える体力など微々たるもの。息を切らしながら王太子に攻撃が当たらないように受け止めることで精一杯だった。



「危ないっ!!!」



疲れ果てた衛兵が魔物の攻撃を避けきれなくなっていたのを、咄嗟にティグレが剣で防いだ。



「ティグレ!!」


「大丈夫!、レオナルドはちゃんと俺の後ろにいてね。」


「そんなっ…、私だって戦え……」


「決闘十回もしてるんだから無理しない!、それに俺は王太子殿下の従者だよ?、護るためにいるようなもんだから、レオナルドは黙って護られる!!」


王太子が言い終わる前に、従者が話しながら剣を振る。


情けない。


レオナルドは、自分を守っているティグレや衛兵達を見ながら、魔剣を握りしめて唇を噛んだ。


王家に伝わる魔力の籠った剣を所持していながらも、魔物を前にして振ることさえできず、ただただ守られているだけ。

これでは何のために訓練をして、何のために鍛えてきたかもわからない。だけど、ここで自分が飛び出せば彼らの努力が水の泡になる恐れだってある。


それだけ自分は()()のだ。


そんな事実を目の前にして、王太子は悔しさを滲ませることしかできなかった。










十五体目の魔物がティグレの斬撃によって、魔物の血で濡れた街道に倒れていく。


「あと、何体だっ………?」


ティグレは肩で息をしながら、呼吸の合間に状況を確認するように声を放った。


「見えている限りでも、二十体はいるかと……!!」


「なっ……、援軍は……」


「それがっ、ここはアルバ伯爵領との境目付近ですので、来るまでにはあと半時はかかると……!!!」


「クソっ……!!!」


ティグレは大きな声で悪態をつきながら、魔物の攻撃を受け止めた。

衛兵達の息も絶え絶えであり、中には魔物の牙を食らって負傷したものもいる。

今はかろうじて立って王太子を守ることができているが、もしも、毒が含まれた牙であった場合、半時の間に死人が出るだろう。


現に、王太子を負かした副団長と互角だと謂われたティグレも、足元がふらつき始めていた。


王太子殿下(レオナルド)を護らねば。


ティグレはその一心で自分を奮い立たせている。


父親が治める伯爵領から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

公爵家から援軍が来る半時、半時だけでも自分が何とかしてレオナルドを守らなければならない。


自分を初めて必要としてくれた、大事な主であり、兄弟だ。

命を賭してでも、守りきらなきゃならない。



ああ……、アリアちゃんは、こんな状況で守り抜いたのか。



ティグレは頭の片隅で思いを巡らせながら、王太子に迫りくる敵を蹴散らしていく。

疲れ果てている衛兵を庇いながら、レオナルドを守っているティグレの身体は悲鳴を上げている。



魔物の尾がティグレの足に絡みついた。



「しまった……!!」



「ティグレっ!!!!」



尾を切り離しているティグレの上に、魔物が口を開けて迫る。

王太子が声を上げて叫ぶも、足を捕まれたままのティグレにはどうすることもできない。


このまま噛まれて呑み込まれる、


従者と王太子は永遠の別れが来たのだと考えた。







「まにあええええええええええええええええっっ!!!!」








口を開けた魔物に咆哮のような雄叫びと共に、影すら目で追うことが出来ないような速さで何かが迫っていく。


ティグレの顔に唾液が滴ったその時、

魔物の首に剣が入り込み、ティグレを呑み込むことなく地面に落ちていった。



「え……、」



死ぬと思っていたティグレは、自分を喰うはずだった魔物が息絶えた事に驚きを感じながら上を見上げると、そこには、灰色の髪の少女が地面に降りてこようとする姿があった。



「間に合った!!!、良かった!!!」


「アリスちゃん!?!?、えっ、なんでここに!?」



()()()()()()()()()()()()が自分に向けて安堵した笑顔を向けている。

その状況にティグレは驚きを隠せなかった。



「お嬢様にね、早急に行くように頼まれたのよ。もうすぐ憲兵団と衛兵団も到着するはずだから、それまで私が凌ぐね。」


「凌ぐって、いやいやいやいや、君にそんな………」


ティグレの足に巻き付いた尾をザクザクと切り離しながら、快活に語るアリスに、ティグレは心配するかのように言葉を紡ごうとしたが、アリスが笑って放った言葉にかき消されてしまった。


「大丈夫。私、アリアお嬢様より強いの。」


「な……」


「ティグレ様は王太子殿下をお願いね。衛兵も無理せず下がっていて。」



アリスに扮装したアリアは、ティグレと王太子に背を向けて魔物へと向かっていく。



魔物たちの威嚇に対して、アリアは笑みをこぼしながら、剣を構える。





「……さて、半時の間に殲滅してやる。」





その不敵な笑みと、魔物さえ狼狽える威圧感は

当に悪役に相応しいと言えるような物恐ろしさがあった。













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