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苛立ちはしっかり隠しましょう、お嬢様。





「なんか、どっと疲れた…………。」




王太子と従者を乗せた馬車を見送りながら、アリアはげっそりとした顔でつぶやいた。



「朝から王太子の劇的な変化に驚いたり、決闘したりしてたもんね。私も、まだ日も暮れてないのに寝たい気分だよ。」


隣で同じく見送っているファヴィオも心底疲れた顔をしている。


「しかも情報漏洩とか……。まぁ、私の情報じゃないから気にしなくていいんだけど、何か、ひっかかるんだよね……。」


「ひっかかる?」


「うん、ソリーニ子爵の関係者が犯人になるのは妥当だと思うよ?、だけど……、なんて言ったらいいのか……」


手を捏ねくり回しながら、アリアは頭の中で言葉を探し、まだ近いであろうモノを絞り出すように言った。





「………そこまで頭が回らないと思うのよね、」





「つまり、小説を作ってから王太子暗殺まで練れるほど知恵がない馬鹿だ、と。」




「……せっかく遠回しに言おうと頑張ったのに、端的な言葉で言い直さないでよ。」



私の頭をフル回転した時間を返せと言わんばかりにアリアはファヴィオにつっこんだ。


「捕まってる人に気を回す必要なくない?。

馬鹿だとしても物的証拠が揃ってて、男爵令嬢を操ってたのは事実っぽいから、案外小説も裏で手を回してたのかもよ?」


「確かに……、あれだけ洗脳させて狂わせられるなら……」



王妃殿下の生誕祭という人が大勢いる場所で、王太子に向かって毒を仕込んだ短剣を突き刺せる程の意志を男爵令嬢に植え込んでいたのだ。

その事実から推察すれば、小説を仕込むことなど容易いかもしれないとアリアは考え直した。



「ソリーニ子爵の事なんか舞踏会で出会うまで見たことなかったんでしょ?、人は見かけによらないって言うし、私達が知らないこともあるでしょうよ。」


ファヴィオが悩むアリアの肩をポンと叩く。


「王太子が直々に調べてみるって言ってたし、気にしなくていいんじゃない?」


「それもそうね!、私の情報は漏れてないし、何なら婚約破棄させてくれるキッカケを作ってくれたし!、王太子の情報漏洩なんか気にすることないか!」


ここまで潔く切り捨てるとは思ってなかったファヴィオは、少しだけ王太子に対して罪悪感を抱いた。




「さて、夕ご飯前にちょっと仕事しよ。あ、ファヴィオは今日は皆と夕飯食べてから帰る?」


「いや、今日は野暮用があるので。」


ファヴィオはそう言いながら、自分の乗ってきた馬車を公爵邸玄関まで来させるように指示している。


「あ、そう。……今日は()()()()()、いる?」


「そうしてくれるとありがたい。」


「わかった、お義姉様にも言っておくね。じゃ、見送るの面倒だから部屋に戻るわ。気を付けてねー、」


アリアはファヴィオに背を向けて玄関口へと向かい、手をひらひらとかざしながら振り返ることなくその場を去っていく。


彼もそれを気に留めることなどせず、アリアの背に対して、


「じゃ、また!」


と軽く挨拶をして馬車に乗り込んだ。

















「あーーーーーー、うん。やる気が起きない。」


自分の執務室で品種改良の成果報告や、孤児院等の資産運用表を照らし合わせていたアリアだったが、読む気が起きず、机に顔を埋めた。



「……………、まさかあんな身体になって帰ってくるとは思わなかったな………。」



アリアは王太子の肉体を思い出していた。



なんて素晴らしいバランスの良い筋肉。

しっかりと鍛えられていながらも、ゴツく見えないように整えられているあの肉体美は、それこそ名高い彫刻家が掘ったような美しさだった。


私が王太子のポテンシャルを舐めていた……。

筋肉を舐めるな!と散々怒鳴りつけたのに、

あの王太子、たった一ヶ月で筋肉付けてきたのよね。


しかも、かなり私の理想ドンピシャ………。


本当、あの筋肉は触りたくな………いやいやいや!!!!

なんてはしたない事を考えてるのよアリア(わたし)!!!!


身体(見た目)だけで人間を判断しちゃ駄目だって私が一番良くわかってるじゃない……。

中身は王太子!!!、私のことを醜いと貶すぐらい心底嫌いな王太子殿下(クソ野郎)!!、あんな筋肉に騙されちゃいけない!!」


アリアは大声を上げて気を引き締めるために、頬を両手でバシバシと叩いている。


「そもそも、嫌いなくせに求婚してみたり、私の理想の体型(タイプ)に近づこうとしたり意味がわからないわ………。

何?、新手の嫌がらせなの??、馬鹿なのかしら……、その嫌がらせが成功したら嫌いな私が妻になるんだぞ??、アイツ本当に馬鹿なの???」


だが、アリア自身はかなり苛ついたり焦ったりテンパっているので、嫌がらせとしては成功しているという事実が、アリアを更に苛立たせる。



「……あ~~~~!!!!むしゃくしゃしてきた!!、

こんなことならあと十回ぐらいぶっ倒しておけばよかった!!」


思い切り立ち上がって、頭をかきむしることでストレスをなんとか発散しようとしているアリアの所に、

いかにも慌てた足音が近づき、彼女がその音を認識したのと同時に執務室の扉が開き、焦る衛兵が大声を上げた。




「たっ、大変です!!!!」



「どうした?」



「そっ、それが……王都へと繋がる街道の一つである、アルバ伯爵領を経由して王都に向かう道近くの森で魔物が大量発生していたので、指示通り魔導師に頼んで結界を張っていたのですが……」


「それは知ってるわ。先日、後箇所ほど何重にもかけて結界を張り、街道は封鎖されないように指示したつもりだけど?」


王都へと繋がる街道の二つのうちの一つで、距離は長いが比較的安全である道が、アルバ伯爵領を経由していくものである。

以前王太子殿下が襲われた最短距離の街道は森の中を通るため、度々魔物の出没により封鎖されてしまう。

そのため、伯爵領を経由する街道は森に魔物を封じ込め、警備や討伐を頻繁に行うことで封鎖しないように心がけているのだ。

ノウン公爵や、アリアの兄のジルベルトは国境の警備等で忙しいため、領内の警備や魔物討伐の管轄はアリアの仕事となっている。


この前、王太子が公爵邸に来るため厳重な警備体制と、強い結界で魔物を閉じ込めたばかりだ。

だというのに、衛兵が焦った口ぶりで報告をしてくる。

これは只事ではないと悟ったアリアは、真剣な面持ちで衛兵の言葉を待った。



「何者かに外部から破壊された模様で、現在衛兵と憲兵が結界付近へ急行しております。」


「破壊された結界の場所は?、まずは即刻王太子殿下の馬車の保護に………」





「それが、破壊されたのがアルバ伯爵領との境目でして、現在王太子殿下の馬車もその付近に到達するかと………!!!」





アリアの声に被さるように発せられた報告に、彼女は苦い顔をした。












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