次こそ頑張れ!負けるな、王太子。
「いやいやいやいや、魔物の首を刎ねれるだけの力があったのは知ってるけどさぁ……、ただの怪力ってだけじゃないの?」
ファヴィオは流石に自分の妹分が、副団長と互角と揶揄されたティグレより強いわけがないと手を顔の前で振った。
「魔物の首を刎ねるっ!?、どこからど見ても刎ねられるような身体じゃないだろう!!」
刎ねれるんだよ、これが。
王太子の驚愕した声に対して、男三人は同じ面持ちで王太子を眺めた。
「そうか……、ファヴィオもティグレも私を騙してるんだな?
大体、アリアの身体は今の私の二周り位小さいんだから剣を持つのだってやっとだろう!?
手脚だってスラッと…………って、な、ななななんて格好をしてるんだっ!?」
アリアの下半身のラインが顕になっていることに今更気が付いた王太子は、顔を真っ赤にして動揺しはじめた。
ドレスを足先から手先、更に首元までかっちりと着込むアリアを見てきた王太子にとっては、かなり刺激が強かったのである。
「え、何?、ただ動きやすい格好に着替えただけだけですけど。」
「脚っ!!、脚がっ……!!!」
「はぁ??」
「アリア。……殿下はね、脚のラインが顕著に見えるズボンを履くだなんてハレンチだって言いたいんだとさ。」
ファヴィオはテンパる王太子の気持ちを悟るかのように、アリアにかなり意訳して伝えた。
「えっ、そんな目で見てるんだ………、変態じゃん。」
「ファヴィオ!!!!」
アリアに蔑むような目で見られた王太子は、自分の言葉を悪い方向に変換したファヴィオを睨みつけたが、夕焼けよりも赤い顔をした主の睨みなど気にもせず、ファヴィオは王太子に対してべーっと舌を出している。
「とっ、とにかく!!、アリアがティグレより強い訳などないだろうっ!!」
王太子はアリアの脚部分を見ないように手で隠しつつ、アリアから顔を背けている。
「……ほーう?、王太子殿下は私が貴方様よりも弱いと考えてらっしゃるのですか?」
「こんな華奢な身体で何ができるというのだ!?」
確かに、アリアの身体は男性に比べると小さい。ひょろひょろだった王太子と比べても一周りは小さく、背丈で言えば顔半分ぐらいは王太子のほうが優っている。
だが、一般女性の平均身長よりは高い方であり、曲線美を重視しているご令嬢方と比べるとかなりガタイが良い方である。腹筋だって六つとまではいかないが、三本の筋が見える程度にはあるのだ。
そんなアリアの筋肉など見たことがない王太子は、アリアをご令嬢たちと同じか細い生き物だと考えていた。
なるほど、コイツ……、私を華奢で弱い女だと思ってるんだな???
お前の馬車を魔物から守った女は私だぞ??
あとこの前私のアッパーで空飛んだばっかだよね???
内心沸々と怒りが込み上がってきたアリアだったが、それをなんとか抑えてにっこりと、
「じゃあ私と決闘してみます?」
と王太子に提案した。
「決闘……?、君と私がか!?」
「ええ。あ、勿論さっきの闘いで疲れてらっしゃってたら受けなくて結構ですよ。」
「いや……、私は女性に手を上げる趣味はないのでな。お断りしよう。」
ご令嬢に対して優しくするという心構えがあることは良い事である。だが、武家に産まれ落ち、幼い頃から日々鍛錬し、武術の上達を自分が唯一誇れるモノとしていたアリアにとって、
その言葉は差別されているように感じてしまったのだ。
「なるほどなるほど……、王太子殿下は私みたいな華奢な女にも敵わないと思ってるから、戦う気すら起きないんですね?」
「……なに?、」
血管からビキビキと嫌な音をたてつつも、アリアは懸命に作り笑いをして、王太子を煽っている。
般若のような形相を必死で取り繕うアリアの顔が見えるジルベルトとファヴィオは、本当に馬鹿だな、アイツ……、と王太子を憐れんだ。
「そうですよねぇ……、貴方様は華奢でか弱い私に守られるほど、強くない御方でしたものねぇ。なのに見栄をはって副団長と闘って下さったんですもの、もう一回決闘などしたら倒れちゃいますわ……、」
まるでぷるぷる震える子犬を慈しむかのような声色で、アリアは王太子に刺さるような言葉を並べていく。
「強くない、だと……??」
「そうとも知らずに決闘を申し込んでしまって誠に申し訳ありませんわ。
鍛えてらしても、脆弱で繊細な王太子殿下には訓練場にくることすら酷だったでしょう?、ささ、早くお部屋で………」
「いいだろう、受けて立ってやる!!」
王太子の心に火が付いた。
求婚している相手に弱い弱いと言われ続けたままでは男が廃るとでも思ったのだろう、力強い眼差しをアリアに向けている。
「まぁ、本当ですか?、お体は休めなくて大丈夫でしょうか……?」
内心、よっしゃフルボッコにしてやる!!!!と意気込みながらも、アリアは小さい子を相手にするかのように王太子に語りかけた。
「このくらい何とでもない!!、言っておくが手加減は出来ないからな!?」
「望むところです!!」
アリアの煽りにまんまと引っ掛かり、自分の強さを誇示しようと意気込む王太子を見ながら、アリアは意気揚々と返答した。
「………ティグレくん、もしかしなくてもなんだけどさ。」
「なんですか?」
ファヴィオの声掛けに、ティグレは王太子とアリアが決闘場所へと移るのを見ながら応えた。
「殿下、チョロすぎじゃない?」
「ああ……」
流石に主人想いの従者であっても、コレばっかりは否定できなかった。




