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決闘だ!負けるな、王太子。



「それで、俺が王太子様と決闘するって訳ッスか。」



訓練場で、王太子の前に立ちながら副団長は呑気な顔でアリアに話しかけている。


「うん、まぁそんな感じ。手加減してあげてね。」


「ハーイ!、お嬢様の命だから傷はつけないっスよ!」


訓練や討伐で焼けた小麦色の肌を輝かせながら、副団長はアリアに微笑んでみせた。

和気藹々としている二人の雰囲気に、王太子は何だか胸がざわつき、剣を握り直した。




「うーん、殿下と同じ位の体格じゃん。いい勝負になるんじゃないの?」


決闘が観戦できる場所でファヴィオは王太子と副団長を眺めている。


「いや、どう見てもレオナルドが負けますよ、アレ。」


「ティグレくん……、もしかして武術も堪能だったり…」


「堪能も何も、手の形でどれだけ剣技をやり込んでるかが解るし、姿勢に足の運び方、持ち方とか全ての動作においてレオナルドが劣ってるでしょ。」


見てわからないんですか?、と言わんばかりの眼差しでティグレに見られたファヴィオは、わからないですとは言えなかった。


「ティグレ様、コイツ武術方面ポンコツだから見てもわからないのよ。全部政治方面に頭使ってるから……。」


「あぁ……、それでたまに重い荷物持てなかったりとかするんですね……。」


「憐れみの目を向けないでくれっ!!」



「きゃっ、きゃっ」


三人の掛け合いを見て父親に抱かれているエーリオが笑っている。 


「おじさんが慌ててるねぇ、楽しいね、エーリオ。」


「義兄上、おじさんはやめてっ!!、私まだ十九ですよ!?」


「十九だろうが何だろうが、おじさんはおじさんだよねーっ、エーリオ。」


「あぅあっ!、」


「アリアだって叔母さんだろうがっ!!」


エーリオが返事をするように喋ったことに傷付いたファヴィオは、少し声を荒げて反応した。



「まぁまぁ、それよりレオナルドと副団長さんが待ってますよ?」


このままだとアリアとファヴィオの言い争いが始まってしまいそうだと思ったティグレが、決闘を始めさせてあげようと促した。


「あ、そうだった。副団長ーーっ!!」


「ハーイっ!!、なんスかーっ!?」


()()()よろしく!!」


「了解っス!!」


アリアの呼び掛けに応じるように副団長は元気よく手を振っている。

王太子は副団長にだけ声掛けがあることに悶々としていた。


「それじゃ、始めよっか。ティグレ殿、ちょっとエーリオをお願いしてもいい?」


「はーい、エーリオ様、こっちに来てくださいな。」


ティグレはジルベルトからエーリオを手際よく預かり、抱きながらあやしている。




「それでは、これより一対一の決闘をはじめる。先に剣を落とした者、または意識がなくなった者を負けとする。

なお、あくまでも模擬戦の為、相手を死に至らしめるような行動を取った場合は失格とする。よろしいかな?」



ジルベルトは前に出て高らかに決闘の勝敗を説明し、それに応じるように王太子と副団長は頷いた。

二人が賛同の意を示していると確認した小公爵は手を上げ、



「両者、構え。開始っ!!」



という号令とともに上げた腕を振り下ろした。



開始の合図とともに、王太子と副団長は相手に向って走り出す。




「それじゃ、私はちょっと席を外します。」


「えっ、今殿下が戦い始めたのに!?」


アリアが椅子から離れて歩き出したのを止めようと、ファヴィオが声をかけた。


「戦い始めたから、ちょっと行ってくるのよ。どーせ、勝敗決まってるし。」


「好いてなくても頑張ってるのは見てあげなよぉ…。」


なんだか王太子が可哀想になってきたファヴィオである。


「ティグレ様、エーリオをよろしくね〜!」


「はーい、アリアちゃんいってらっしゃ~い!!」


「うーあっ!!」


ティグレはエーリオの手をアリアに向けて振っているように動かしながら、アリアが訓練所を去るのを見送っている。



「えぇ……、みんな辛辣じゃん。……頑張れ、殿下。」




絶対自分からの応援は要らないと言われそうだが、こうもアウェーなのは憐れだと感じたファヴィオは自分の主を応援し始めたのだった。


















「十分経ったけど、どう?、勝敗決まった?」


アリアが訓練場に戻りながら、ファヴィオ達に尋ねている。


「今ちょっと殿下厳しそうだけどまだわかんな………」



ガラーンッ!!!



ファヴィオがアリアに答えようとした時、剣がぶつかり空を舞う音が訓練場に鳴り響き、空から剣が落ちてきた。



「勝者、ノウン家衛兵、副団長!!」



ジルベルトの声とともに、決闘を観戦していた衛兵たちの歓声が湧き上がった。



「お嬢さまーっ、きっかり十分で終わらせたっス!!」



忠犬がしっぽをふって褒めて褒めてと主張するかのように、副団長は満面の笑みでアリアに向けて手を揺らしている。


「ありがとーっ、流石副団長ね!!」


「あ、さっきの十分って、十分ピッタリで試合を終わらせろって意味だったのか。」


アリアが副団長に手を振り返してるのを横目に、ファヴィオが呟いた。


「うん、着替えたかったから。」


「なるほど。」


確かに訓練場に帰ってきたアリアは、地味なドレスとブーゲルフードを被った装いから、

ハイウエストなパンツに長袖の袖口にギャザーを寄せ、カフスを付けたビショップ・スリーブのブラウスを着用し、髪を高い位置でひとつ結びにして、顔に絹で作られた面布をしている。


アリアの腰に、剣がぶら下がっているのを見たファヴィオはまさかな…、と思考を巡らせたが、王太子が近づいてきたので言葉に出すのをやめた。





「くそっ……、あともう少しだったのに……。」


袖を捲りあげてある腕で顔の汗を拭いながら、王太子は悔しそうにつぶやいた。


「うんうん、レオナルド最初はいい感じだったもんね、そのまま打ち込めてたら勝ててたかもしれないね!」


相手が花を持たせてくれただけだけど、という事実を口にせず主の欲しい慰めだけを言う、よくできた従者である。


「最後の方も相手の打撃を受け流してたのに……、残念でしたね、殿下。」


「でも負けは負けですよ。ティグレ殿ありがとうございました。」


二人で王太子を慰めているのを、ジルベルトはティグレから息子を受け取りながらバッサリ切った。


「義兄上、そうハッキリ言わなくても……。」


「そもそも、従者のティグレ殿より弱い方がうちの副団長に敵うはずがないでしょう。」


追い撃ちをするかのようにジルベルトが放った(ことば)が、王太子の心臓に突き刺さった。

図星だったのだろう、王太子は歯を食いしばってはいるものの、言い返せない。


「へぇ…、ティグレくん強いんだ。」


「一応王太子の護衛も兼ねてますからね!、守れる位には鍛えてます。それでも副団長には劣りますけど。」


王太子も子供もあやして面倒が見れて、平凡な騎士よりは強い王太子を守れるだけのスキルはあるこの従者……、もしかしてめちゃくちゃ有能なのでは!?、

と今更ながらファヴィオはティグレの才能に驚いていた。


「私も一回手合わせさせてもらったことあるけど、中々の腕前よね。謙遜してるけど、副団長ぐらい強いんじゃない?」


「!?っ、」


アリアが明るい声色でティグレを褒め称えているのを見て、

アリアの婿候補の一人に自分の従者入ってしまうのではないか、という危機を感じた王太子は勢い良くティグレを睨みつけた。

王太子の不機嫌を察知したティグレは苦笑いをしながらアリアの言葉を受け流そうと言葉を紡いだ。






「だとしても、手合わせでアリアちゃんに負けちゃったし、私じゃ副団長は倒せないかなーっ。」





「「えっ、」」





副団長と同等と評されたティグレが、公爵令嬢に()()()()()()()()という事実をファヴィオと王太子は飲み込めなかった。













 



























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