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やればできる男だったのか、アンタ。





王太子、襲来。







今すぐではなく、二週間後ではあるが。

そんな事実を知らされたアリアは、時が止まったかのように静まり返っている。



「アリアちゃーん?、もしもーし、……大丈夫?」



ティグレは急に動きの止まったアリアを心配して、ベールの前で動作確認のために手を振っている。


「あっ、ごめんなさい。余りにも予想外過ぎて意識が飛んでましたわ。」


アリアは慌ててティグレに返事をした。


「わぁ……、そんなにレオナルドが嫌かぁ。」


「うーん、興味がないって言えたら一番いいのだけれど、憎さとか恨みが無いわけではないので……。

さっさと恨みつらみを忘れられるようになってスパッと切りたいと思ってます。」


「まぁそうだよねぇ、アリアちゃんに対してのレオナルドってクズだし。」


仮にも従者がそんなことを言っていいのだろうか。

アリアがそう思ってしまうほど、ティグレはアッサリと王太子に対して毒を吐いた。




「俺に対してはいい人なんだよ?、乳兄弟だからってのもあるとは思うけどさ……、うーん、変なところで頑固だし口下手なんだよねぇ。」


「口下手!?、ご令嬢方とか貴族からとか、民衆からも好かれてるのに口下手!?」


どんなご令嬢であっても王太子の事を褒め称えない人は、(アリアを除いて)誰もいない。

そのくらい女性に対しての扱いが上手く、紳士的だと評されているのである。

アリアはこの十年間会ったことがなかったので、

そんなに紳士的で優しいのに私が婚約者だなんて憐れな人だな…、ぐらいにしか思っていなかったが。


そんな彼が乳兄弟から頑固で口下手だと言われているにらアリアは違和感を拭えなかった。


「レオナルド、王妃様から直々に淑女への対応とか民衆への対応とか一字一句徹底的に叩き込まれてるから、

ご令嬢方にはこう接するってのが、叩き込まれた(マニュアル)通りには出来るんですよ。

大体のお嬢様方って髪とか顔とか褒めたり、あの顔でにこやかーに笑っておけばなんとかなるじゃん?」


確かに何とかなる気がする。


アリアは悔しいが認めざる負えなかった。

なんせ、あの美貌である。

王妃様のお伽噺のような可憐さと麗しさに、国王陛下の端正な顔立ちを掛け合せた、中性的な美の塊のような顔なのだ。

まさしく王子様、王子になるべくして産まれた顔とでも言って過言ではない。


叩き込まれた(マニュアル)通りに喋ってたり行動するだけでレオナルドの好感度は爆上がりだったんで、アイツ自分の考えを自分の言葉で伝えるのが下手になっちゃってさぁ。

まぁ、あとは周りが言わなくても解る奴ばっかり揃っちゃったから、『皆言わなくても私のことわかるじゃん?』スタンスに………、」


「つまり、ティグレ様が甘やかしたんですね?」


「ええっ!?、俺だけじゃないと思うんだけどなぁ……。」


図星だが、自分ひとりの責任にはしてほしくないとティグレはあわあわしている。




「ま、口下手だろうが何だろうが嫌いなものは嫌いなので、公爵邸に来ても態度を変えるつもりはありませんから。

というか、週三で手紙送りつけてくるんだからそこに書けばいいのに!!

ティグレ様も仕事増やされないように怒って下さいよ?」


「あ、まだ週三で手紙出してたんですか!?、やめろって言ったから隠してたんだなぁ〜。」


知らんかったんかい!!

従者に秘密にしてまで手紙を出してくるなと、アリアは怒鳴りつけたくなったが、本人がここに居ないので気持ちを抑えるため、一息ついてからティグレに来訪承知の旨を伝えた。




「…公爵邸に来訪されること畏まりました、とお伝え下さい。」


「承知しました。ご承諾感謝いたします!、ノウン公爵令嬢様。」


ティグレはぱぁっと顔を明るくした後、従者らしくお辞儀をした。


「ティグレ様から依頼されたら断れないですからね。解ってて多分使いに出してるんだとは思うんですけど。」



「それだけアリアちゃんに信頼されてるって思うと嬉しいな!、ありがとう。」


ティグレはアリアの友としてにかっと笑ってみせた。

その雰囲気が先程会ったティグレの妹であるヴィオラに似ていた事を思い出したアリアは、ティグレに尋ねてみた。


「そういえば、先程妹さんのヴィオラ様にお会いしたんだけど、王妃教育に参加していたんですってね。

とても素敵な方だったのだけれど、ティグレ様とお茶してる時に妹がいると聞いていなかったので……」


十年の間、月に一度王妃教育の報告を含めてお茶飲みをしていた仲であるのに、アリアはティグレから妹の存在を聞いていなかったのである。

それが気になり、アリアはティグレに話を持ちかけたのだ。


「ああ!、ヴィオラのことですか。俺ぜんぜん妹のこと知らないんですよ。

王太子の乳兄弟だから、王宮で育ってて、今も王宮に住んでて伯爵邸になんか帰らないし。」


ティグレはからっとした笑みで話していく。


「そうだったの……、家族と離れ離れだなんて寂しいわよね。不躾なことを聞いてごめんなさい。」


ずっと王宮で一人で王太子に使えてきたティグレのことを考えずに尋ねたことをアリアは悔いた。




「大丈夫ですよ!、王妃様とか皆優しくしてくれて、全然寂しくなかったので!。

それに………、ヴィオラとは()()()()()んで、会わせてもらったこともないし、何も気にならないんですよ。」






ティグレの顔はさっきと変わらず笑みを浮かべていたが、瞳と声からは表情が消えていた。



















「あああああー、やってしまった…………。」


アリアは公爵邸の庭園のテーブルに突っ伏している。


「二週間もよく落ち込んでられるよねぇ……、ティグレくんが気にするなって言ってるんだからさ、ウジウジしたまま会うほうが駄目だと思うよ?」


机の向かい側に座るファヴィオが焼き菓子を食べながら語りかけた。


「そうなんだけどさぁ、ヴィオラ様の方にもお兄様元気?とか聞いちゃってたんだよね……、絶対嫌味だと思われてたかも……。」


「あー、アルバ伯爵令嬢の方はもうお友達になれないな……。」


「わー!!!、せっかく久しぶりに女の子の友達作れると思ったのにぃ……!!、でも元々王太子のお嫁さん目指してたっぽいから無理かぁ……。」


アリアはまた机に突っ伏して喚いている。

その様子をファヴィオは何でもないかのように受け流して紅茶を飲んだ後、にやけながらアリアに話しかけた。


「え、そもそもアリアって私以外に友達いんの?」


「失礼な!、ティグレ様も友達だし、衛兵さん達とか公爵領のみんなとも仲良しだけど??

あと女友達は従妹のマティルダがいるもん!!!」


「身内を含めるな、身内を。」


「煩いわ!!!、自分だってジルベルトお兄様と私ぐらいしか友達いないくせに!!!」


突っ込まれたことが悔しかったアリアはファヴィオの痛いところを突いた。


二人とも、友人は少ないのである。





「………てか、アルバ伯爵の身の上話ってそこそこ有名だったのに、アリア知らなかったんだね。」


何分か無言でお茶を飲んだり菓子を食べたりした後、ファヴィオが口を開いた。


「そうだったの?」


「ティグレくんのお母さん……、つまり王太子の乳母さんはお金もある由緒正しい子爵家のご令嬢で、お金に困った伯爵が爵位を子爵令嬢の子に継がせるからっていう理由で、ティグレくんの母親に持参金沢山持たせて政略結婚したんだって。」


「なんかもうその時点で嫌な予感がしてきた……。」


「伯爵は子供ができたら、母子とも王族との接点を持たせるために王太子の乳母として王宮に追いやって、自分は愛人を家に連れ込んで好き放題。

乳母として懸命に夫のために働いていたのに、夫は愛人との間に子供まで作っていた事が判明して、ティグレくんのお母さんはそこから気落ちしちゃって、病で亡くなっちゃったんだよねぇ。」


「………まさかだとは思うけど、その子供って……」


「そ、アルバ伯爵令嬢ヴィオラ様。産まれる前にティグレくんの母が亡くなったのをいいことに、愛人を後妻にして正式に自分の子供として認めたんだってさ。

書類上では前妻が亡くなった後、できた子供って事になってるけどね。」


「うわぁ……、アルバ伯爵、想像以上のクズだったわ……。王太子がまだマシに見える。」


妻のことを野に咲く花のように優しく慈しんで愛す父と、幼い頃から一途にソフィアを想い続ける兄という男性の中で育ったアリアにとって、

たとえ貴族の中ではよくある話であっても理解できる内容ではなかった。


「浮気してないんだから同じ土俵に殿下あげるのやめてあげなよ……。」


というかお金のために結婚するわけでもないから流石に可哀想だ……、と考えたファヴィオは王太子に同情した瞳でアリアに訴えた。


「クズはクズじゃない。手のひら返して求婚してくる奴なんてクズ。」


「わぁ、これから公爵邸に来る人に対して凄い言い草。」


「あ!!そうじゃん、これから王太子の相手しなきゃいけないんだった!、ティグレ様にどんな態度とろうかで悩んでる場合じゃなかったあああ!!!」


今頃になってやっと思い出すんかい。

ファヴィオはこれまで王太子が来ることをすっかり忘れていたアリアに対して心の中でツッコんだ。


「そういえば何で今日アンタ遊びに来てんの!?

また鉢合わせとか絶対嫌なんだけど!!、ファヴィオと会ってるとその後何故か王太子めちゃくちゃ機嫌悪くなって面倒くさいんだから!」


アリアは三回もあの問答を繰り返したくないのである。


「え、面白そうだから。」


「は?」


面白いだけで王太子の機嫌損ねないでほしいんだけど、とアリアはファヴィオに対して睨みかかった。


「大丈夫だって、今日は王太子に許可とってから遊びに来てるし、衛兵さんに王太子が到着しそうになったら叫んでね〜って言っといた。」


私ってやればできる男でしょ?、と言わんばかりに親指を突き出してウインクをしてくるファヴィオに、アリアは無性に腹が立った。



「レオナルド王太子殿下、ご到着されました!!!」



門番の声が庭園まで響き渡った。


「ほらね?、さぁ殿下をお迎えしに行こっか。」


椅子から立ち上がったファヴィオの脛に、アリアは苛立ちを足でぶつけてから王太子を迎えるために玄関へと赴いた。
















「……物凄くジンジンするんだけど。」


ファヴィオは苦しそうな面持ちでアリアに訴えかけた。


「ちょっと蹴られたぐらいでナヨナヨしないでくれる?。てかもう王太子出てくるんだから黙って。」


アリアは姿勢を崩さず言葉だけファヴィオに向けて発した。

目の前に王太子殿下を載せた馬車が止まっている今、アリアにとってファヴィオの脛の痛みなど、どうでもいいことなのである。


「唯一の親友に向って辛辣すぎない?、私泣いちゃうよ?」


「あら、そのくらいで傷がつくような関係じゃなかったと思ってるんだけど、私の幼馴染みさん?」


コイツ……!!!

アリアが自分を友としてとても信頼していると遠回しに言われたファヴィオは何も言い返せなくなっていた。




「アリア!!!」




馬車から恰幅の良い男性がアリアに向かって走ってきた。

ひょろひょろな王太子を迎え入れるはずだったのに、細マッチョな青年が出てきたせいで、アリアは目をパチクリさせている。




「とても会いたかったよ、アリア。」


「え、誰。」




ここまで筋肉質で体つきの良い美青年は自分の兄以外見たことがないアリアは、知り合いにこんな人いたっけ……??と脳内で必死に考えている。






「私だよ、私。ヴィンツェッティ王国の王太子、レオナルド・ニコロ・サルヴァトーレ・ヴィンツェッチオだ。」









「え…………、えええええええええええっ!?!?!?」








アリアの驚愕した叫び声は、公爵領の端まで響き渡った。












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