美少女だらけのお茶会に呼ばないでください、王妃様。
「あれ?、何でここにいるの、アリア。」
仕事に使う資料を王宮図書館に取りに来ていたファヴィオは、こんなところにいるはずじゃない妹分を見つけて声をかけた。
「うん……、私も王宮なんていたくないんだけど……、王妃様からお茶会に誘われてて、時間まで暇つぶししてるのよ…。」
図書館の閲覧スペースで本を読んでいたアリアは、ベールの下でげっそりとした顔をしていた。
「ああ……、アレ以来王族からお誘いが何度もきてたんだって?」
アリアが王太子にアッパーをかました日から、アリアは半年の間、王太子の王妃候補の一人(一人しかいないが、そのことをアリアは知らない。)という位置づけになり、期限まで王太子にチャンスを与えることとなったのだ。
婚約破棄した令嬢に王太子が直々に求婚して、王妃候補に戻すなど前代未聞である。
そんな身内のゴシップに興味を示した王族が一度アリアに会ってみたいとお茶会や舞踏会の招待状を送ってきていたのだ。
「もう散々よ、異国に嫁いでたり、婿に行ってる国王の兄弟方からも招待状来たのよ!?、まぁ……全部めんどくさかったから断ったんだけどさ。」
「あ、断ったんだ。」
「うん。国王陛下からもウザいから無視していいよってお許しもらってたし、ノウン家の権力も使ったりして忙しいので無理です、って。
でも王妃様のお茶会は飛んででも馳せ参じるって約束しちゃったから………。」
また王妃候補に戻っちゃうなら約束しなかったのにいいいいぃっ、という声が漏れてきそうな溜息をアリアはついた。
「まだ二週間しか経ってないのに王宮に来なきゃいけないなんて………」
ここが図書館でなく、公爵邸であったらジタバタと暴れていそうな顔つきでアリアはぶつくさ呟いている。
「仕方ないよねぇ、自分で約束したんだろ?。」
アリアの困った顔をファヴィオは面白そうにヘラヘラと笑って見ていた。
「あのときは婚約破棄するために必死だったのよ………。
あ!、てかファヴィオがここにいるってことは王太子も……」
まさかここに来る!?、といった慌てた面持ちでアリアはファヴィオに問いかけた。
「来ない来ない、殿下は今溜まりに溜まった書類の片付けで忙しいから。……お前を王妃候補にするために色々そのままにしてたみたいでさぁ……、私も死にそうなんだよねぇ。」
書類の山が全然整理できていないことを思い出したファヴィオの顔は、サーッと蒼白くなっていった。
「え、こんなとこで油売ってて平気なの?」
「…………、平気じゃない。」
「帰りな…、早く仕事終わらせてお家に帰りな……。なんならやれるとこまでやって王太子に丸投げしちゃえ。」
尋常じゃないファヴィオの顔色を心配したアリアは憐れむように促した。
「丸投げかぁ…、いいねぇ、そうしようかな……、私も流石に今日は八時間睡眠したい……。」
「いけ!頑張れ!ファヴィオならやれる!!丸投げファイトだ!!!」
気力がなくなっていくファヴィオを勇気づけながら、アリアは押し出すように見送った。
「さてと、私もそろそろお茶会に行きますか………。」
トボトボと歩くファヴィオの背を眺めながら、行きたくないけど、とは言わずにアリアは呟いた。
「今日は来てくれてありがとうね、アリアちゃん。」
「敬愛する王妃殿下からのご招待ですもの、来ないわけがありません。こちらこそ、お誘いいただきありがとうございます。」
顔が見えずとも微笑んでいるように魅せるため、アリアは少し首を傾げてみせた。
「まぁ!、嬉しいわ。今日はね、娘たちとアルバ伯爵令嬢のヴィオラさんもご招待したの。」
王妃は娘たち二人に挨拶をしなさいと促すように手を向けた。
「アリア様、お久しぶりですわ。お怪我の具合はもう大丈夫ですの?」
「私達もアリアお姉様のお見舞いに行きたかったのですが……、叶わなかったので今日ご回復祝として何点か贈り物を持って帰ってくださるかしら?」
第一王女であるアウローラがアリアに向けて挨拶をしたあと、間髪入れずに第二王女のイアーリアが喋り始めた。
王家の黄金の髪に母と同じルビーのように真っ赤な瞳を持つアウローラと、母親譲りの楓色髪に王家の銀の瞳をもつイアーリアは二人とも王太子に負けない美貌の持ち主であり、幼さと可愛らしさが混じって天使のようである。
国王と王妃の間には王太子の他に四人の子供がおり、二番目が王太子の五つ下のアウローラ、次がアウローラと一つ違いのイアーリアである。四番目と五番目のお子は王子であるが、まだまだ幼い為、公の舞台に出てくることは少ない。
ご令嬢方から恨まれることが多いアリアにとって、純粋に好意を向けてくれる王女達は可愛くて仕方がなかった。
「アウローラ王女殿下、イアーリア王女殿下、お二方ともご心配ありがとうございます。お陰様でつつがなく日常を送れるまで回復できております。王女様方から贈り物を戴けるなんて光栄ですわ、謹んで感謝申し上げます。」
今日も可愛らしいなぁ、とほのぼのした気持ちでアリアは二人に返答していき、もう一人のお茶会参加者に声をかけた。
「アルバ伯爵令嬢様、勲章授与式以来ですわね。お兄様はお元気にしていらっしゃいますか?」
「はい、兄も元気にしていると思います。勲章授与式の舞踏会ではお気遣いいただき、ありがとうございました。」
ヴィオラは花が咲くようにふわりと微笑んだ。
圧倒的、美。
アリアは溢れんばかりの美の暴力で眩しすぎて目がくらみそうだった。
お伽噺のお姫様がお姫様を産んだような王妃を含めた母子三人に、恋愛小説の主人公にいそうな可憐な少女が目の前にいるのだ。
醜女の私がいるのはものすごく場違いでしかないと思いながらも、アリアはギリギリ公爵令嬢としての威厳を保っている。
アリアは話を振って美しさから気を逸らそうとした。
「いえ、お構いなく。それにしても、アルバ伯爵令嬢様は踊りがとても上手なのですね。私、美しくて見惚れてしまいましたわ。」
「私も見ましたわ!、ファヴィオ様と踊っていらっしゃったわよね?。蝶が舞うような優雅なダンスでしたわ、ぜひ今度ダンスの仕方を教えて下さいませ。」
アリアの褒めたことに同調して、アウローラもヴィオラの踊りを褒め称えた。
「いっ、いえ……、そんな……っ、ディチア小公爵様のリードがとてもお上手だっただけです。
あとは、この前の王妃教育でみっちり教えていただきましたので……。」
王妃教育!?
照れているヴィオラの可愛さよりも、とても馴染みがあって不穏な言葉にアリアは反応していた。
「そういえば、ヴィオラ様は最後まで王妃教育を受けてらしたわね!。私、このまま修得するのかと思ってましたの。」
なんだと!?
王妃教育修得したの!?えっ、王太子皆三ヶ月でやめたって言ったじゃん!!こんな可愛い子が残ってたなら婚約者にすればよかったのに……!!!
イアーリアが発した情報によって、アリアは内心物凄く動転していた。
「まさか!、偶々私が最後に残っただけです…。それに、東方の大国の語学修得に躓いてしまって、三ヶ月で断念してしまいました。
なので十年間も続けてらっしゃったノウン公爵令嬢様は本当に凄いですわ……。」
「それでも日常会話位は話せるようになっていたでしょう?、よく努力したと思うわ。」
「王妃様からお褒めいただけるなんて…!、とても光栄ですわ、ありがとうございます。」
そうだよね〜、東方の言語そもそも文字が違うし、一文字ずつ別の意味があるし、読み方同じでも文字違うと意味変わるとかわかんないよねぇ。
でも読めるようになると、群雄割拠のロマン溢れる戦乱についての歴史書沢山あるからめちゃくちゃ面白いんだよな……、あと東の大国の方が兵法の発達が凄いから色んな策略が……、ああっ!読みたい…!!血と汗と涙が交じる漢の浪漫っ……!!
アリアはヴィオラと王妃達の会話を左から右へと流しながら、東国の語学等について思いを馳せていた。
「そういえば、先ほどノウン公爵令嬢様とディチア小公爵様を図書館でお見かけしたのですが、何をしていらっしゃったのですか?」
「へ?、」
脳内で東国の戦乱を再現していたアリアは、話題が変わって矛先が自分に向いている事に驚き、慌てて言葉を取り繕った。
「ああ!、お時間よりも早く王宮に着きましたので、図書館の方で本を読んでいたところ、偶然お会いしたんです。」
「そうだったのですね!、とても仲が良さげでしたので逢引きでもしてらっしゃるのかと…………、あっ!、申し訳ありませんっ!!」
ヴィオラはつい口に出してしまったように慌てているが、アリアの目は誤魔化せなかった。
あー、この子、わざとだ。
王妃教育三ヶ月も頑張ってたんだもんねぇ、そりやぁ王太子がこんな醜女に取られたら嫌がらせぐらいしたくなるよねぇ……。
アリアは心の中で少し同情しながら、にっこりと笑みを浮かべているかのように答えた。
「甥っ子のエーリオと、義姉の様子を聞かれたのでお答えしていただけですわ。
ディチア小公爵様は義姉の弟君ですので、私にとっても第二の兄のようなお方なのです。
確かに、舞踏会でエスコートしていただいたり等、ディチア小公爵様のご厚意に甘えていたかもしれませんわ、これからは気を付けます。」
実際、アリアの兄ジルベルトと義姉ソフィアは幼い頃から婚約が決まっていたため、しょっちゅうお互いの家を行き来して遊んでいたりしたのだ。
そのため、アリアにとってはファヴィオは兄同然なのである。
「ソフィアちゃんの体調はどうかしら?、エーリオくんがとても元気だったとはレオンから聞いているのだけれど……、」
王妃はアリアを気遣って話を変えた。
「お陰様で産後の肥立ちも良く、今はゆっくりと過ごされています。ただ、エーリオが首が座ってからは抱っこをせがまれる回数が多くなったとか……」
「あら!もうそんなに大っきくなったのねぇ…、首が座ると色々口に入れちゃうようになったり大変なのよ~……」
王妃とアリア達が幼子の話で盛り上がる中、ヴィオラは机の下でドレスに皺が刻まれるぐらい、拳を強く握りしめていた。
「あーーーーーー、しんどっ。」
お茶会を終えたアリアは、人のいない回廊でため息とともに呟いた。
「あんなに顔面偏差値高すぎるところに私を放り込まないでほしいわ……、そもそも、王妃様も何で王太子殿下を狙ってた子と私を一緒にお茶会に誘うのよ……。あのあとも天然に見せかけてちょこちょこ嫌味を言ってきてたりとかさぁ……、」
王妃教育という次期王妃争奪戦で最後まで残っただけはあり、ヴィオラは嫌味を嫌味に聞こえないように言うのが上手だった。
別に王太子のことが好きではないアリアにとって、ソレは刺さるものではなかったのでスルリと躱されてしまっていたが。
仲良くなれるかも、と思っていたアリアは少しショックを受けたのである。
「うん、とっとと帰ろ。王宮にいたら会っちゃうかもしれないし。」
「アリアちゃーーーーん!!!」
王太子に会う前に帰ろうとアリアが歩く速さを上げた時、後ろから大声で呼び止められた。
「嘘でしょ……、この声は……っ!!」
自分が思い描く人であってほしくない…!、と思いつつアリアが振り返ると、
思い描いた通りの茶髪と藤色の瞳の青年が走ってきていた。
「ティグレ様、お久しぶりですね。何かご用ですか?」
あーーーーっ!!!!、折角帰ろうと思ったのに!!!何でこうタイミングが良いかなぁ!?
心の中で発狂しながら、アリアはにこやかに対応した。
「お茶会に居ると思ったのに王妃様に聞いたらもう帰っちゃったっていうから、見つかって良かった!!」
まるで子犬が笑うようにへにゃっとした笑みを浮かべるティグレを見ながら、見つかりたくなかった、とアリアは思っていた。
「レオナルドから、アリアちゃんに手紙を渡してこいって言われてて……、」
「手紙、ですか?」
懐から取り出された手紙をアリアはティグレから受け取った。
「そ、二週間後にノウン公爵邸にお邪魔します、って内容らしいよ。」
「え?」
ティグレから放たれた、二週間後に王太子が家に襲撃にくるという事実を、アリアは飲み込むことができなかった。




