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何を言っているんだ、お前は。







「ノウン公爵令嬢アリア殿、どうか私と結婚してくれないだろうか。」






自分に向かって膝をついて右手を握る王太子から放たれた言葉に対して、アリアは一つの感情を残して固まった。







何 を 言 っ て い る ん だ 、 お 前 は 。







本当に何を言っているのか、ちょっとよくわからなかったのである。 


四ヶ月前、アリアは王太子に対して婚約破棄を申し込み、婚約者ではなくなっているのだ。

そもそも、婚約披露も合わせた顔合わせの際に


『こんな顔が醜い女となんか、結婚したくない!!!』


と罵っており、その後も罵倒やら無視をアリアに対して続け、婚約者を相手にしない十年という婚約期間を過ごした仲であるアリアに、

王太子がかける言葉が果たして求婚(コレ)であっているのだろうか。




「……王太子殿下?、あの……」


今なんと、仰いました?。


思考が停止したままのアリアが、一応何か言っておこうと絞り出した言葉が終わる前に、王太子が話し始めた。



「婚約破棄されたこの四ヶ月間、君を想っていない日はなかったんだ。」


わぁ、罪悪感ってそんな持続するのね。


「君は他のご令嬢方とは違う、何かがあるんだ。」


他のご令嬢方とは違って、顔を出してないだけです。


「君をもっと知りたい。君の傍にいたいんだ。」


だったら婚約期間中に話しておけばよかったのでは?


「だからっ……、どうか私と……。」


断固拒否、無理。いや、そもそも私のこと嫌いでしょう?


「結婚してほしい。」



心の中で王太子の語りに対して反論をしていたアリアだったが、王太子の求婚の言葉(プロポーズ)で我に返り、これ早めに断らないと不味いのでは?と慌てて言葉を紡いだ。



「……王太子殿下、私は一度婚約を破棄した身であり、

醜女の上にキズモノでございますから……その、結婚は……」


「私を想っての婚約破棄だろう?、傷に関しても私は気にしない。

君も()()だと言っていたではないか。」


お前を想っての婚約破棄じゃなくて

オメェが私を嫌いなのに、そこに嫁ぐのが嫌すぎて婚約破棄したんだわ!!!!


「ですが、もう既に他の方々が王妃教育を受けてらっしゃるとお聞きしました。

そのご令嬢方が王太子殿下のお相手になるのでは?」


次期王妃争奪戦(バトルロワイアル)を咄嗟に思い出したアリアはこれで求婚破棄できるぞ!!と、理由を付け加えた。


「ああ、皆三ヶ月も経たずにやめてしまったよ。

仮にやりきった人を挙げるなら、ノウン公爵令嬢、君しかいないのだが。」



嘘 だ ろ 。


えっ!?、あんなに王太子狙ってたのにみんなやめたの!?


アリアは驚きながら王太子のこの言葉が真実であるのかを確かめるために、左右を見渡してご令嬢方の姿を確認するが、



全員アリアから目を背けていた。



お前らアアアアアア!!

あんなに私を罵ってたのに……、何で今目を背けるのよ!!

今ここでこの求婚何とかしようよ!!

じゃないと醜女(わたし)が王太子と結婚しなきゃいけないじゃない!!


アリアは脳内で発狂した。



ラスト・ワルツの時から注目されていた二人の周りには、

王太子が求婚したことにより、観客しかいない状況が生み出されてしまった。


王太子の元婚約者であり、命の恩人で王妃教育をやり遂げた洗練された動作が美しい公爵令嬢。

その令嬢に対して、王太子が熱烈に求婚している。


そんな場面を見ている貴族達はアリアが王太子妃に相応しいのではないかと思い描きはじめていた。



アリアにとって、大ピンチである。



いくら周りを見渡しても、この求婚に異を唱えるものがいない。

王太子に外堀を埋められてしまったのだ。


何故、私のことが嫌いな人から求婚されなければならないのだろう。


アリアは唇を噛み締めることしかできなかった。



「アリア、どうか……。」


王太子は手を更に強く握りしめる。


何とか断る返答をしなければいけないのに、声が出ない。

いっそ舌を噛み切ってここで死んでやろうかと考える位、

アリアは追い込まれていた。






「王太子殿下、どうやら娘はあまりにも急すぎて困惑しているようです。」




ノウン公爵が自分の娘の両肩に優しく手を添え、アリアに微笑みかけた。


「傷は癒えたといっても、療養後初めての式典でしたから疲れもあり、回答できないのかと。何卒、ご容赦いただきたい。」


「!、そうだな…すまなかった。だが、私は…」


「勿論、話したいこともおありかと思いますので、

……どうでしょう、閉式後に両陛下と私とローザ、あと証人としてディチア小公爵を入れた七人で話し合いませんか?」


王太子は立ち上がり、ノウン公爵に訴えようとしたが、公爵の提案に遮られてしまった。


「えっ、私!?」


ノウン公爵がアリアのもとに駆け寄ったのを見届けたあと、アリアの方に歩いていたファヴィオは何故か自分も同席することに驚いていた。


「……なるほど、その方がノウン公爵令嬢も返答しやすいだろう。わかった、そうしよう。」


アリアは王太子の言葉を聞いて気が抜け、父の体に少し体重を預けた。


「では、アリアが随分と疲れているようなので、私どもは話し合いまで休ませていただきます。

ディチア小公爵殿もついてきてくださりますかな?」


「勿論です。」


ノウン公爵は王太子に丁寧にお辞儀をして、アリアのエスコートをファヴィオに任せた後、背を向けて去っていった。






「………お父様、ありがとう。ファヴィオも。」


アリアは大広間を出た廊下で、二人に礼を述べた。


「なに、もう少し早く助けを出せばよかった。一人で戦わせて悪かったな。」


「ううん、私が戦えなかったのが悪いわ……。というか、観客まで味方につけるとか……。」


「アリアはよく戦えてたと思うよ。殿下がかなり考えて色々してたみたいだから……ってか、顔色悪いから部屋借りて休もう?」


蒼白いアリアの顔色を心配したファヴィオは王宮の空いている部屋へと向おうとしたが、アリアが動かない。



「ねぇファヴィオ、殿下がなんか企んでたの知ってたのに私に教えなかったの……?」


「……え?」


やばい、さっき殿下が考えてるとか言ってしまった。

ファヴィオがそう思った時には既に遅かった。


「痛い痛いイタイイタイ!!!」


腕を物凄い力で握られていたのである。


「何で前もって言っとかないのよ!!!地獄を回避できたかもしれないのに……!!」


「いだっ!!、無理でしょ、私一応(あるじ)が王太子殿下だからね!?」


アリアは更に力を込めてファヴィオの腕を捻るように握った。


「こうなったら、話し合いで何かあったら全部ファヴィオのせいにしてやる………!!!」


「お、元々ディチア小公爵の監督不行き届きにするつもりだったから、多めに暴れて痛い目見せてやれ!ははは!!」


「やーーめーーてえええええええ」


豪快な笑い声と、悲痛な叫び声が廊下に響き渡った。



















窮地。



窮地というか、確実に地獄絵図のような乱闘が繰り広げられるであろう場所に立たされたファヴィオは冷や汗をかいた。


右側には偉大なる我が国の国王陛下に王妃殿下、そして自分の主である王太子殿下が並ぶ。

対して、左側には百戦錬磨の軍神とも呼ばれる将軍であるノウン公爵に公爵夫人、そして自分の妹分でもある公爵令嬢アリアが並んでいる。


王宮の応接室にて、王太子の結婚の話だというのにここまで冷えきった空気が流れるのは異常でしかない。


関わりたくない…、この場から去りたい。


ファヴィオの後ろで控えている王太子の従者であるティグレもきっと同じ気持ちであっただろう。

さっさと終わらせて逃げようと考えたファヴィオは喋り始めた。




「えっと……、王太子殿下がノウン公爵令嬢に対して求婚をした件についてですが……」


「私は本気だ。」


最後まで喋らせてくれ。

王太子の横槍を咳払いして、ファヴィオは続けた。


「……と、殿下が仰ってるのですけど両陛下はご存知だったのですか?」


「いや全く。そもそも知っていたら、あの場所で求婚させるなどという、アリア嬢にとって迷惑な事はさせないだろう。」


ごもっとも。


王太子以外の全員が心の中で国王の言葉に頷いた。


「迷惑?」


「あんな大勢の場で、『はい喜んで』以外の回答が出来ない状況の何処が迷惑じゃないんだ?

ほんとう…、お前という奴は……。」


淑女(レディ)への接し方を教え込んだはずなのに……。ごめんなさいね、私の教育不足だわ…。」


自分の両親が二人とも頭を抱えて溜息をついている姿を見て、王太子はようやく自分がなにかしでかしたのではないか?、と考え始めた。


「いえ、私も急なことで驚いただけですし……。

そもそも、婚約破棄しているのに求婚されるなど予想もしてなかったので…。」


「言い方が悪いですが、私共もたった四ヶ月で()()()()()()()()混乱しているのです。

そもそも、王太子殿下はうちの娘が嫌いで婚約に乗り気ではなかったでしょう?

どういった心変わりですかね?」


公爵はうちの娘を苦しませておいて更に追い撃ちをかける気ならば殺す、と言わんばかりの視線で王太子を睨みつけた。



王太子は公爵の威圧の凄さに生唾を飲み込みながら、必死で対抗しようと言葉を紡いだ。


「確かに、十年間公爵令嬢を避けてきた。

でも……それはアリア殿が嫌だったからではなくて、

親に決められた相手と結婚をするのが嫌だったからなんだ。」


「あら、私と国王陛下だって政略結婚よ?」


「え。」


王太子は自分の母親からの思いがけない言葉に固まってしまった。


「言ってなかったかしら?、私はディチア公爵家の傍系にあたる侯爵家の出だから、一応王妃候補だったのよ。

一番有力候補だったローザ様が急に公爵様と結婚しちゃったから私にまわってきて、結婚したの。」


「で、でも……父上は母上のことが好きだったから結婚したと……。」


え!?


衝撃の事実に国王父子以外が、国王を凝視した。



「ゴホン……、私がセレナを好いていたので、その……、先代国王に頼んで政略結婚にしてもらったんだ……。」



いつも荘厳な雰囲気を漂わせている凛々しい姿とは一転して、国王は耳まで赤くしてもごもごと喋っていた。



「あら、やっぱり?。国王陛下、王太子の時から好きな方(王妃殿下)に対しての態度()()()別物でしたものね。」


「えっ、そうだったの!?、普通に皆に対して優しくて気さくな方だと思ってたわ。」


「貴女だけによ。そんなところに私が嫁ぐなんて考えるだけでもゾッとしたし、好きな方が出来たからさっさと結婚したの。」


ローザは王妃の驚きを流すようにサラリと述べた。







へぇ、国王陛下は昔から王妃様のことが好きだったんだ…。

というか、王太子の頑固さってか、我侭さって父親譲りでは!?


親同士が昔話に花を咲かせ始めたので、アリアは聞き流しながらこのまま求婚話が有耶無耶に終わらないかな…と願っていた。



「ともかく!!、父上だって好きな人を選んで結婚したんです。私だって好きな人と結婚したいと思ってもいいでしょう!?」


痺れを切らした王太子が、立ち上がって話を戻し始めた。


演説せんでいい、このまま昔話を聞いていたかった。

そんな苦い顔でアリアは王太子を睨んでいる。


「あの時は九つで、ただ決められるのが嫌だった。

でも、十年経ってからアリア殿に会って…、もっと知りたいと思った。

いままで会った令嬢達とは違って、私に対して下心がなかったし……。」


「あの時は婚約者でしたから、これ以上関係を深める必要もなかったのです。」


王太子につらつらと求婚されると舞踏会での二の舞になる、と思ったアリアは反論していくことにしたのである。


「宝石とかドレスにも興味がないのが新鮮で……、」


「醜女だから着飾る必要がないだけです。」


「女らしさの欠片もない。」


「それ、貶してません?求婚相手(わたし)を貶してますよね?」


しまった、と思ったが王太子は無視して続けることにした。


「そっ、それにっ…、私を命懸けで救ってくれたじゃないか!!

私に尽くしてくれるし、私を諌めてくれる。

そんなご令嬢、君しかいないんだ!!」


だから結婚しよう!!と叫びそうな勢いで、王太子は立ったまま拳を握りしめて言い切った。



自分に興味がない女が面白いだけじゃないの!?



腹が立ってきたアリアは、何度も言わせるなと王太子に反駁(はんばく)した。


「臣下だから王太子殿下を助けるのは当然のこと。

というか、自分よりも弱い方がいたら命を懸けて救うのがノウン家の家訓です!!

武家に生まれた以上、女であっても命ぐらい張ります。

貴方様が悪いことをしても諌めてもらえないのは、皆貴方に気に入られたいからでしょう!?、私は嫌われてるので取り入る必要が無いから言えるんです!!」


アリアの意見にノウン公爵夫妻は勿論、ディチア家の嫡男であるファヴィオでさえ、()()()は筋肉が全てだからな……と頷いていた。


「そもそも、貴方様は初対面の私に、

『こんな顔が醜い女となんか、結婚したくない』

と申していたではありませんか!?、なのにこの期に及んで結婚したい?…おかしくありません?

私の顔は変わっておらず、醜いままですよ!?」


「あの発言は言葉の綾で……っ、」


()()()()……?」


王太子のその一言に、アリアは顕著に反応した。





「そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ!!」








アリアは拳を握りしめ、大きく息を吐いて呟いた。



「国王陛下並びに王妃殿下、先に謝らせていただきます。

死刑でも何でも処罰は受けますので、お止めにならないで下さいませ。」



そう言ってアリアは立ち上がり、王太子の目の前まで近づき、







「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ、このクソやろオオオオオオッ!!!!!!」








叫びながら握りしめた拳を王太子の腹めがけて突き上げたのだった。





































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