おかしな双子ヘンゼルとグレーテルとおかしな魔女のおかしなお話
昔々、大体どれくらい昔かというと、それこそ氷と火山の島が大噴火を起こして東方の島国で大飢饉が三連続起こるくらいの昔。
あるところにお菓子が大好きなヘンゼルとグレーテルという双子の兄妹がいました。
双子は幸せを求めて青い鳥を探しに行くわけでもなければ、船に乗ってギリシャの英雄達と旅をするわけでもなく、ましてや狼に育てられて大都市を作ったわけでもありませんでした。
この双子はとにかくお菓子に目が無く、父親の木こりはエンゲル係数が高くて困っていました。
砂糖は高級品なので、甘味料は取ってきたり育てた蜂蜜や大根や麦から煮出して作った飴を使っていましたが、それでもやはり火山の大爆破による世界規模の低温化、多雨等の異常気象により押し寄せた大不況と大凶作は双子の家族にも襲いかかりました。
双子の母親はこのままではダイエットどころか生きる事すら厳しいbpm10以下にまでなっており、胃痛が激しく慢性口内炎に悩まされていました。
その一番の胃痛の原因であった双子を口減らしの為に、自分は力が出ないので父親を顎で使い、父親は仕方なく母親に監視されながら、姥捨て山と呼ばれる山の森の奥に寝ている間に運んで捨ててきたのです。
ですが因果応報、母親は森の奥に子供を捨てた帰りに足を滑らせ、がけ下に転落して死んでしまいました。
一方、親に捨てられたヘンゼルとグレーテルはどうにか家に帰ろうと頑張りましたが、あまりのダンジョンのような迷いの森で、しかも磁気がおかしい樹海だったので、方位磁石も無ければ年輪で方向を知るすべも知らず、さまよい続けました。
そんな中、双子はお菓子で出来たおかしな家を見つけました。
お菓子の家の中にはお婆さんが住んでいました。
「ヒッヒッヒ。よく来たね。さあ、お腹すいたろう。たーんとお食べ」
優しいお婆さんは双子を迎え入れると、お菓子の家を怪力でもいで双子に出してあげました。
「クッキーの扉とチョコレートの柱だよ。少し硬いかもしれないが頑張って食べてくれ」
「コレ、めちゃくちゃ固い! 歯が折れそうだよ」
「お兄ちゃん、リスみたいに前歯でカリカリ削ったら食べれるよ」
双子はリスの様に前歯でカリカリと削って、どうにかセコイアで出来たようなチョコレートの柱とクッキーの扉を食べました。
「次はコレだよ、美味しいよ」
お婆さんが次に出してくれたのは、特別なキャンディでした。
その味は甘くてクリーミィで、こんな素晴らしいキャンディをもらえる双子はきっと特別な存在なのだと感じていました。
「美味しい! これ美味しいよ」
「そうかい、喜んでもらえてよかったよ、ヒッヒッヒ……」
そしてお婆さんは次にカラフルな石のようなものを持ってきました。
「これはチョコレート、少し硬いけどコレも美味しいよ」
双子は喜んでその石のようなチョコレートを食べたのです。
カラフルな楕円の石がパキッと割れた中には、チョコレートが入っていました。
「もうお腹いっぱい、お婆さんありがとう」
「なんだよ、もっと食べておくれよう……お願いだよ」
お婆さんが涙目になっていました。
双子は何故なのかお婆さんに理由を聞いてみました。
「実はワシはな、以前王宮のお菓子職人じゃったんじゃよ。そして王様に頼まれてお菓子の家を作ったのじゃよ。しかし大きさが小さいといわれてな……それを大きくする薬を作ったが……この不況でそんな物に金をかけれんとクビになってしまったんじゃ。そしてどうにか食い物を確保しようと作ったお菓子の家に薬をかけたら、巨大化したものの、一人では到底食べきれずに途方に暮れておったんじゃ」
双子はあまりの突拍子の無い話に唖然としていました。
しかし、これがいくら食べてもなくならないお菓子の家だと聞いて喜んでいたのです。
「お婆さん、アタシ達ここに一緒に住んでも良いですか?」
「ああ、大歓迎だよ。このお菓子の家をどうにかしてくれ」
そして双子はお菓子の家でお婆さんと一緒に住む事になりました。
そんな中、お婆さんは怪しげな物を鍋でグツグツと煮る日々が続きました。
「ヒッヒッヒッヒ……これはこうして、ヒッヒッヒ」
双子はお婆さんの不気味な姿を見てはドン引きしていました。
でもせっかくタダでお菓子を食べさせてくれているので双子は喜んで働きました。
お婆さんの研究は日々続いたのです。
「練れば練るほど……色が変わって……」
お婆さんは何を作っているんだろう。
グレーテルは気になって鍋の中を覗き込みました。
「みーたーなー!!」
「ヒイィー! 取って食べないでぇー!!」
お婆さんはきょとんとした顔をしています。
「誰が取って食うもんかい。ワシだって女なんじゃ。こんなもん作ってるってのは知られたくなくてのう……」
「お婆さん、何を作ってたんですか?」
「アンチエイジングの若返り薬じゃ」
どうやらお婆さんは若返りの薬を作ろうとしていたらしいです。
しかしその失敗作ばかりが出来てしまい、困っていたようでした。
「何か甘くていい匂いがするね」
「こりゃ、勝手に舐めるな」
「これ美味しい!」
お婆さんはヘンゼルが薬を美味しいと言っていたので、少し気になって舐めてみました。
「こうやって漬けて……美味い!!」
なんと、若返りの薬を作ったはずが、材料に砂糖や甘味料が入っていたので甘くておいしいお菓子が出来上がっていたのです。
魔女はこの練れば練るほど色の変わる不思議なお菓子を街で売ってみました。
世間では双子がお菓子の家で長い間過ごしていた間に飢饉は去り、街には活気が戻っていたのです。
練れば練るほど色が変わる不思議なお菓子は大ヒットし、それは瞬く間に大金で売れました。
そしてその金で若返り薬の材料を手に入れたお婆さんは、見事薬を完成させて美人な姿になりました。
そしてお婆さんだったお姉さんとヘンゼルとグレーテルは若返り薬の特許料と練れば練るほど色の変わる不思議なお菓子を売ったお金のおかげで三人で幸せに暮らしました。
でも、美人になったお姉さんにデレデレのヘンゼルに対して、グレーテルが焼きもちを焼いていました。
おしまい