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04

シスターと話をした帰り道、いつもそばに感じていた優しい気配は精霊だったのだということに、改めて気づいた。私たちの一族は、普通なら見えない、感じられない精霊を、見ることも感じることもできるし、力を借りることもできる。私たちが使う魔法が、魔術と違うのは、そこだと言う。


「お母さま」


「なあに、ソフィア」


優しいけれど、厳しい今世の母にシスターの提案から、王都の魔法治療師の学校へ行きたいと告げる。


「ソフィア……私は……反対だわ」


「なぜ、でしょうか」


「私たちは、過去に……王国に攻められて多くの犠牲を出した。精霊師として身を隠したはずの私たちの存在が、明るみになるのは、危険よ。また、狙われるかもしれない」


「ですがっ! このままでは、この国に私たちの村は捨てられてしまいます! 最近、ずっと不穏な気配を感じ取っているのは、私だけではないはずです!」


「この国は、忌々しいことに私たち精霊師の一族を、忘れ去ってしまった。多大なる犠牲を出したというのに、私たちはあの王国に奪われるだけ奪われて、何一つ、返せなかった。それなら、私は、この一族を預かる長として、あの国から忘れられた方がいいと思うのよ」


母は、滅びるほうが良い、と暗に言うけれど、私はもっと違う道があるはずだと考えてしまう。母の言っていることは間違っていない。結局、犠牲になった命の上に、生きている私たちは、王国から何のアクションもないまま。


何かを命じられることもない、ただ、水を喪った大地のように、干からびるのを待っているような状態だ。


「でもね、ソフィア。母としての私は、反対ではないの」


やはり、母を説得するのは無理か、と諦めかけた時だった。母の言葉が響いたのは。


「お母さま……?」


「あなたの治療師としての腕が、この一族随一というのは、シスターから聞いているわ。村の人からも、評判をたくさん聞かせてもらっているの。だから、母としての私は、あなたのその才能を伸ばしてほしい」


先ほどまで、厳しい表情を浮かべていた母は、今度は優しい笑みで。その表情を見て、母の心の広さを感じた。母の気持ちが大きな波のように押し寄せてくるのを感じる。


「あなたが、この村の、いいえ、一族の行く末を心配してくれているのを嬉しく思います。だからこそ、どうすればいいのか、わからない」


それは苦しいほどの葛藤だった。守るためなら外へ出すべきではない、でもどうにかするには外へ行かなければならない。どうすればいいのかわからない、という気持ち、よくわかる。


「お母さま、正体を隠して隣国へ行くのはどうでしょうか」


「隣国へ……? だけど、私たちにはそこまでのお金はないわ」


「お金は、自分で何とかします。絶対に一族が狙われるようなことはしません……お願いします、私を隣国へ行かせてください」


パッと思いついたのは隣国へ行くことだった。隣国は、私たち一族のことを知らないはず、そういう思惑があってのこと。知らないなら、好都合だから。


「わかったわ、私たちは何一つ、あなたの助けにはなれないけれど……それでも、あなたの無事を祈っているから。自らの願いのために、行きなさい」


「ありがとう、ございます……お母さま」


隣の国であれば、と許可を出してくれた母に、私は深く頭を下げる。もう帰らない覚悟で行かなければならないことはわかっていた。そう簡単に、いつでも帰ってこられる距離ではないし、ここから隣国へ行くというのは、相当な危険もある。


なぜなら、隣国は、この国と敵対関係だから。



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