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第3話 <彩の民>の羅山

 ゆるやかな坂道を下っているとき、「ソレ」は訪れた。


 自分が草地を踏むざくざくという音に耳を傾けながら歩いていると、背後、遠くから、ぱかり、ぱかり…と軽い蹄の音が交じり始めた。


(蹄…馬か何か、放牧されているのかな?)


 ふと振り向くと、背後に「馬」がいた。とはいえ、その「馬」は僕が知っている「馬」の姿とはかけ離れていた。


 まず、体格が大きい。サラブレッドの倍はありそうだ。小さい象と同じくらいの大きさだった。

 体毛は真っ黒だが、馬の顔があるべき場所に、鶏の頭…嘴、鶏冠、ぎょろりと光る眼…がついている。さらに鹿のような角。後ろ半身にはびっしりとうろこが生え、しっぽの代わりに二匹の蛇がうねっている。

 異形。

 中国の絵画にいそうな化け物が、背後200メートルくらいのところに、いた。


 呆然とした僕の目と、その化け物の眼が、合った。立ち止まっていた馬がぱかり、ともう一歩を前に踏み出すのと、僕が我に返るのが、ほぼ同時だった。


 どくり、と心臓が鳴る。


「これは…やばいんじゃ…」


 馬が速力を上げてこちらに突進してくる。

 僕は慌てて駆け出した。説明は街の者がする、なんて言っていたけど、こんな化け物がいるなんて聞いてなかった。僕は内心巫女さんを恨みながら、全速力で逃げる。

 だが相手は「馬」だ。獣の気配、蹄の音が徐々に近づき、化け物の鼻息が聞こえるくらいまで距離が縮まった…そのときだった。


「少年、伏せろ!」


 野太い声が丘に響く。僕がとっさに伏せると、視界の上端…僕の頭上で、白いすぐ閃光がきらめいた。追って、ばりばりばり、と空気を裂くような音。


 どおん


(雷…稲妻、か…?)


 爆発音とともに地面が少し揺れる。息を殺すようにして伏せていると、思ったより近くから、さっきの野太い声がした。


「…もういいぞ、少年」


 恐る恐る顔を上げ、背後を確認すると、化け物の姿はなかった。さっきの閃光に焼かれ、消し炭になったらしい。

 前に向き直ると、そこに男が立っていた。あごひげと日焼けした肌、がっしりとした体躯。それでいて人の良さそうな目。なんとなく、優しくて人情のある山男のような風貌だった。それが、ポンチョのような旅装を身に纏い、ゲームで見るような幅広の白い大きな剣を肩に担いでいる。


「今の雷…おじさんが?」

「ははっ、びっくりさせたかな。このあたりにあれ程の“邪”(ヨコシマ)が出ることは稀なんだが…」

「よ、“邪”(ヨコシマ)…?」


 きょとんとする僕に、おじさんはああ、と納得したように呟いた。


「もしかして君は、こっちに来たばかり、かな。」

「はい。もしかして、おじさんも…」

「そう、現代日本から転移してきた者だ。俺の名は羅山(ラザン)という。次からおじさんはやめてくれよ。君は?」

文月(フヅキ)といいます…」


 羅山は笑いながら、地面に座り込んだままの僕に手を差し伸べた。その手を握ると、羅山は力強く引っ張り、立ち上がらせてくれた。


「ここをもう少し下ると、紫菀(シオン)都だ。そこでいろいろ説明を聞くといい。俺は先を急ぐから、ついていってやれないが…」


 羅山は坂道の続く下、街明かりを指してそう言い、そのあと少し真顔になった。


「文月、この瑞の国で、何か困難に直面したり、誰かの力が必要になった時には…この羅山のことを思い出してくれよ。」

「はい…そういえば、さっきも…ありがとうございました。」


 分からないながらも頭を下げると、羅山はうん、とうなずいた。


「きっとお前の助けになれると思う。俺たちは<(サイ)の民>…<彩の民>の羅山だ。」

(<(サイ)の民>…?)


 頭を上げると、すでに羅山の姿はなかった。


(それにしても、あの馬といい、羅山さんの雷といい…どうなっているんだろう。)


 分からないことだらけだ。だが、誰も説明してくれない。

 巫女さんも羅山も、とにかく街に行って説明を聞けと言うばかりだ。僕は考えるのを止め、とにかく街へ向かって歩きだした。

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