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盲目の鬼  作者: toosweet
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死ぬとか


私は翼をなくした、天使としての力も少しばかりしか残っていない。だが、寿命はなく、殺される度またどこかで蘇っていた。


ある時は、自らを神の子と自称し、民に生きることを問い続けた。そして、少し残っていた天使の力を使い、病気の者、怪我した者、生まれ落ちた時からの劣等者たちに救いの手を差し伸べた。そして、死にゆく者を救ってしまった。それが、神の禁忌に触れたのだ。私は神の意志から背いた事で、神に殺された。私は間違っているのだろうか。


ある時は飛将と呼ばれ、生きる意味を求め、蛮勇を振るい、その為だけに生きた。だが、よりわからなくなってしまった。


それから、世界の全てに牙を剥いた。食べ物を奪って、命を奪い、取れる物は全て奪って進み続けた。止まったら死ぬかのように、少しでも求めるものに近づけるように。世界の全てを掌握さえすれば、何か意味が見つかるかもしれない。だが、道半ばで食事に毒を入れられ、死んだ。これでは、意味を見つけられないではないか。


またある時は、悪人だけを殺し、串刺しにして、晒し者にした。しかし、私は処刑された。

私如きでは、善悪の区別などつかなかったからだ。ただ気に入らぬ者を悪と呼び、悪を滅する自分は正義だと信じ込み、ただ、いたずらに虐殺を続けたからだ。


そして、船に乗り、他の船から物を奪い、孤児院に金を入れる生活をしていた、だが殺された。正義を執行する名目で、悪事を働いてたからだ。


ある時は、それが人のためになると信じ、世界を一周しようとした、だが、降りた場所で食料を分けてもらおうとしたところ、侵略しに来たと思われたのだろうか、殺された。


行商人として、各地を練り歩き、薬草などを売って暮らした。何千年振りか、心地よさを覚えた。馬を走らせ、風邪を感じ、ただ風景と同化し、山の幸を売って、買う者は笑顔になり、この仕事が好きになった。だが、盗賊に襲われ、物を取られるなかで、盗賊をする理由があるのではないかと考えた。しかし、ナイフで首を切られた。死に行く中で、盗賊が、悪態を吐くのが聞こえた。これだけしかないのかと、もう、悪などたくさんだ。


だが、生きるとはままならない。悪を行わず、正義のみを行い、誰かのためにのみ生きようとしたが、餓死した。


幾度目の転生か、ただ意味もなく、目的もなく、歩きつづけた。そしてある雨の日に私は力尽き、膝から崩れ落ちた。

神に向けて、あるいは自分に向けて叫ぶ。

「私の命とは、なんなのだ、生きるとはどうすれば良いのだ。善とは?!悪とは?!世の中をよりよくする?良いとは一体なんだ!?どの状態を良いといえば良いのだ?神よ!」


わからないのだ、天使であったが故に。なにも食べずに、誰も殺さずに、ただそこに在る。それだけで生きられた天使には、それがわからないのだ。だが、それを今の私は生きるとは言わない。在ったと言う、結果のみの存在でしかなかった。

だからこそ、考えてしまうのだ。

「ここは地獄だ。生きるためには他を犠牲にしなければならない。歩く度になにかを殺す。殺されないために走る、そのためにはもっと多く殺さなければならない。」


だが、わかっているのだ。それはただの現実でしかないと。私が目指している世界とは、ただの夢物語なのだと。だが、そうであるからこそ、より一層、儚く、美しく、私を誘う。これこそが正義なのだと。


そのために、私は王になった。理想を掲げ、民にそれを説いた。だが、私は今から処刑されるのだ。

武器をすべて捨てさせ、肉食を禁じ、我が国のみでも、あの楽園と同じになる様に願って。

民は生きるのに必死なのだ。武器を捨てては戦えない。肉を食わねば生きていけないと。それでは、死んでしまうと。

結果として、私は民の反乱を招き、絞首台に乗せられている。抵抗せず投降した、私への慈悲らしい。

新たな王が、声高々に、民へと呼びかける。

「悪政を敷いた王は今殺される。だが諸君。安心するが良い。根源は絶たれる。」

その口で私に囁く。

「あなたは、立派な王だった。」

この次の王は分かっているのだ、私が平和を願っていたことを、ただそれが、夢であったことも。

それが私の心を蝕む、もう、終わりでいいのではないか?もう転生など望んでいないのだ。この世界への悲しみ、そして、楽園への嫉妬。

それから私は殺された。だが、それだけでは終わらなかった。誰かが私に石を投げた。多くの民から大量の石が投げつけられた。そのことが私に深い悲しみを与えた。

私の背中から羽が生えた。人から天を奪い去るほど巨大で、どす黒い翼。禍々しく、赤黒く、鈍い光を放つ皮膚。大地を噛み砕くような大きな牙。太陽さえ握りつぶしてしまえる様な悪意に満ちた手、そこには空を切り裂くほど鋭利な爪が生えていた。そして、目は虚で、悲しげだった。


私は叫んだ。自らの姿に、泣きながら。人への愛情を持って。

だが、化け物の慟哭は、ただの人からすれば殺意の奔流でしかなかった。

民は一目散に逃げ出し、次の王は私に立ち向かった。

「ば、化け物め!た、民を、こ、殺されるわけにはいかないのだ。」

この王が、間違いなく王であることはわかった。私は誰も殺すつもりはない。もう、誰も殺せないのだ、盗賊だって、殺そうと思えば、抹殺する事は容易かった。だが、私の心はそれを許さなかったのだ。

私は、切れたロープを見つめながらただそこに居た。剣で切りつけてくる王を無視して、やがて、王の剣は壊れた。しかし、彼は止まらなかった。疲れ切った自身の体で体当たりしてきた。

もう充分だと払いのけようとした。だが、彼は死んだ。柔すぎたのだ。まるで、氷の様に、手に当たった途端に死んでしまった。

ぐしゃりとやけに耳に残る気色の悪い音、砕け散る骨の感触。そして、自分の手に着く暖かい血。死してなお、私を見つめる目。

あの感触、あの時の目を思い出す。どんどん増えていく、殺した数だけ。奪い取った、踏みにじった数だけ、私を見つめる目が増えていく。

もう一度、大きく叫んだ。殺してくれと、もう殺したくないと、この世界への絶望と、自分の不甲斐なさに。

逃げ出して、森へと隠れ住んだ。何十年、何百年と、姿は変わらず、きのみを貰い、ただそこに在った。


誰かが、こちらに近づく足音が聞こえた。目の見えない女だ。優しく、近づかぬよう、触れぬ様に話しかける。

「ここは危ないから、どこかへお行き。」

女は、誰かがいたことに驚きつつ、答える。

「私は捨てられたのです。鬼が住むというここへ、誰も困らぬようにと。」

「では、私の話し相手になってはくれないか?」

これは、寂しくて、悲しくて、誰かにすがりたいという、天使としては唾棄すべき心だ。だが、人にとってはごく普通の、心だった。

「鬼とは、寂しがりやなのですね。」


それから、退屈しない日々が続いた。私はいつもより多くきのみを取り、ただ話した。生い立ちから何まで、自らは元々天使であったことも、そして自分がした事も。

いつのまにか、私の姿は人のそれになっていた。だが、あの感触とあの目は消えなかったが、それを背負うべき業と認めたのだ。

その日々も長くは続かなかった。天使にとっては一瞬でも、人からすれば一生なのだ。女は死んだ。

「私は、幸せだったわ。」

この一言だけ残して。

私は、生まれて初めて誰かのために悲しんだ。

女の手を取り、冷たくなる手を温めようと、必死に叫んだ。魂がここに繋ぎ止められるように、ずっとそばにいてほしいと。

しかし、それらと相反するように、死んでも幸せでいてほしいと。


天に届くように、叫んだ。


女が死んでも、私はそこを離れたくなかった。ずっとそこに、ずっとそばに女がいるような気がして、朽ちてなお、骨となっても、そこに。

やがて私は死んだ。



「学んだようだな。」

低く威厳のある声。

「神か。私はまた死ねなかったのか。」

「問おう。何を学んだ?」

「人は必死に生きていた、奪ってでも、殺してでも。」

「頼みがある。私が殺した人の魂は丁重に扱ってくれ。」

「安心しろ。次の人生は楽しいものになるように手配してある。」

「それは、よかった。本当に良かった。感謝する。」


少し、間が空く。それから、神が話し出す。

「少し私の昔話をしよう。」

「この世界を作った時に、善を作った。そしてその善の世界の支配者に人を置いた。だが、善を作ることは、悪を作ると同義だった。私は悪を認められず一度世界を壊した。」


「光とは、闇を生む。闇は光が無ければ生きられない。闇もまた光を生む。そして光も闇が無ければ生きられないのだ。強い闇は、強い光を生む、そしてまた、光は、闇を、これを繰り返す事で世界はいつか、光が闇を必要とせず凌駕する時がくるのだ。」

「正義をより強力にするために、闇が存在するというのか?」

「さよう。」

「ならば、生きるとはなんだ!?教えてくれ!」

「そんなものは、誰かに教えてもらうものではない。自分で見つけるものだ。私が貴様に問おう。生きるとはなんだ?」

私は考えた。天使としてならば、神のため、誰かのために生きるのが正解なのだろう。だが、世界をよりよくするなど、神が手を差し伸べなくても人がなんとかするのだ。だから、私は天使でなくていいのだ、ただ一個の人として、ちっぽけな存在として答えていいのだ。

「せめて、私の周りが笑って死ねるような、私が笑顔でいられるようなそんな生き方がしたい。」

「では、そうしろ。貴様に慈悲を与える。最後の余生だ。楽しんで死ぬといい。」



また、落ちる中で私は、小さく呟いた。

「感謝する。」

あの女の笑顔をもう一度見たくて、あの日々を思い出し、私は笑ったのだ。





某国の居酒屋にて、せっせと働く夫婦がいた。若くして建てたそこは、連日客が賑わっていた。


「生四つ!あとなんか適当につまみ持ってきて!」

「あいよ!ちゃんと金払えよ!」

「ばかやろ!こう見えて俺は社長だからな!」

「どうせ町工場だろ!」

「おぉ!よくわかったな!」

「いいとこの社長はこんなとここねぇよ!」

「そんなことねぇぜ!料理はそこそこだが、こんなに居心地がいいとこオラァ他にしらねぇ!」

「あんがとよ!そいつが俺の生き方だからよ。」

「そいつはいいや!ところで、居酒屋の名前変えたらどうだ?」

「ん?そいつは無理だな。俺と嫁の出会いだからな。」

「おーい、唐揚げそこの社長に運んでおいてー」

「はーい。あなた。」

その居酒屋には、客も、それを経営する夫婦からも、死ぬまで笑顔が絶えなかったという。

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