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負けないと意気込んだはいいものの、どうすればよいのか悩んでいる間に、ギル様とクラリスの距離は縮まっていった。
羨ましそうに二人を見ることしか出来ない自分がもどかしい。
「あの女を殺したらいい」
物騒な言葉が後ろから聞こえた。
誰が言ったかなんて分かっていたけれど、振り向くとアレンが立っている。
「……そういう問題じゃないわ」
「俺は王太子に対して、常々思っている。あいつさえいなければ、お前は俺のものになるんだから」
「やめてよ!!」
「竜族の、番に対する執着をなめない方がいい」
「……っ」
最低。信じられない。
たとえ、クラリスがギル様と結ばれたとしても誰がこいつの番などなるものか。
と、その時見ていた先の2人がこちらに気付いた。
ギル様は笑顔で私に手を振っている。
クラリスはぺこりと頭を下げた。
それを見た瞬間、何故だかとても泣きそうになった。
……あなたが、好きなんです。とても。
そこのクラリスなんかより、ずっと前から。
クラリスは頭をあげると、私をじっと見てきた。
なんだか探るような視線で、いい気はしない。
私は居た堪れなくなって、軽く会釈するとその場をあとにした。
その日から、学院にいる時だけいつも誰かに見られているような視線を感じた。
アレンではない。不本意ながら、彼はいつも私の側にいるから。
もっと遠くからの視線。
「……あの、少し、よろしいですか?」
帰り支度をしていたとき、控えめにおずおずと話しかけてきたのは、なんとクラリスだった。
着いてこようとするアレンをどうにか振り切って、二人で歩き出す。
空いている部屋に入ると、彼女は大きく一度深呼吸し、こう切り出した。
「ラブドリってご存知ですか」
!!!!!
ご存知も何も、知りすぎているくらい知っている。
ラブドリは私がやっていた乙女ゲームでこの世界そのものである。
しかし、何故それを彼女が知っているのか。
導き出した答えは一つしかなかった。
「もしかして、あなたも転生者なの?」
クラリスの目を見ながら、おそるおそる言った。
彼女は私の言葉を聞くとその大きな瞳を一度瞬かせ、小さな声ではい、と確かに返事をした。
「ということは、リディア様もなんですよね」
「そうよ。でも、どうして気が付いたの?」
私は別に、不審な行動をしたつもりはない。
「ここに来て、リディア様の行動を観察していました。そうしたら、ゲームの時のように私に嫌がらせをするでもなく、高飛車な態度もとらなかったものですから、まさかと思いまして」
どうやら、ここ最近感じていた視線は彼女のものだったらしい。
いい気はしないけれど、誰のものか分かって少しホッとした。
「それで、提案があるのですが」
「なに?」
「リディア様は、ギル様のことがお好きですよね。私は、アレン王子を攻略したいのです。よかったら、協力しあいませんか」
私はさぞマヌケな顔をしていただろう。
クラリスはギル様のことを好きではないらしい。
「ゲーマーの血が騒ぐんです。私、彼を攻略するために999回プレイしたのに、ハッピーエンドも迎えられなくて、この世界ならばリベンジ出来るのではないかと思いまして!」
……そして、なかなかの猛者であることが発覚した。
999回プレイとか、明らかにガセっぽいのにやった人いるんだ……
彼女はどうやら、生まれた時からここがゲームの世界だと分かっていたらしく、ゲームで攻略対象だった彼らを恋愛対象としては見られないらしい。
だから、婚約者のいる高位の貴族に擦り寄って取り巻きにすることもないし、ギル様のことも友人としか思っていないと。
天然でそんなことをする人なんて、実際にはいない、そう言って彼女は笑った。
……まあ、たしかに。
この案に乗らない手はない。
私はアレンを追い払えるし、ギル様と結婚できる。
「のったわ。やるわよ、クラリス」
「はい!リディア様!」
私とクラリスは固く握手した。
ヒロインと悪役令嬢、ゲームでは相容れない間柄のはずの私たち二人の間で同盟が締結した。