表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

 




 そう誓ったものの、そのためには……




「リディア」




「……」




「無視するな」




「……」




 そのためには、この男が邪魔なのである。

 休憩になるなり私の目の前に立った彼を、渾身の力を込めて睨み付けるが、彼は特に気にする様子もない、そういうところも腹が立つ。




「……。リディアのためにルノワールのクッキーを買ってきたんだが、いらないんだったらいい」




「誰もいらないとは言ってないわ!」




 彼が私の顔の前にパステルカラーのクッキー缶をぶら下げた。

 ルノワールとは王都に店を構える私の大好きなお菓子屋さんだ。

 だけど、このお店のお菓子って今とても人気があって、並ばないと買えないはず。




「従者に並ばせたの?」




「まさか。(つがい)のためだからな、俺自ら並んだ」




 口を開く度にこれである。

 どうやら私は彼の番らしい。





 アレン・ブランシェーラ。

 竜族の王子。

 竜族といえど、人型は人間に比べて耳がほんの少し尖っているくらいで、見た目はほぼ人間だ。

 だが、視覚、嗅覚、聴覚、運動能力などは人間のそれとは比べものにならないほど優れている。

 そんな彼は、名目上他の国を知るための留学ということになっているが、本人曰く本当は番探しに来たらしい。




 けれど、おかしい。

 彼はこのゲームの攻略対象であった。

 まず彼を攻略対象として登場させるには、全てのキャラの全てのエンディングをクリアし、スチルを全開放しなければならない。

 だが、攻略対象として彼のルートに入るも、どの選択肢をどう選んでも攻略出来ない。

 何をしても、よくて友情エンドだ。

 ゲームの中の彼いわく、「お前は俺の番ではない」らしい。

 攻略サイトでも彼の攻略方法は書かれていなくて、ネットでは制作側の個人的な趣味とか999回挑戦してやっとハッピーエンドとか、嘘か本当か分からないことが書かれていた。

 もう正直、ゲームでは彼の存在自体が謎だった。




 そもそも、ゲームの中でもリディア・フィールズと彼は会っているはずだが、番だとは言っていなかった。

 ここからは私の憶測だが、今のリディアは、体、名前はゲームの中のリディアだが、中身は違う。

 日本に住んでて、ゲーマーで、えーと……もう前世の名前が思い出せない。

 とにかく、中身は私なのだ。




 彼は、リディアではない。

 ‘ 私’を番にしたがっている。




 けど、私はギル様が好きなのだ。

 だから正直彼に構っている暇はない。




「……私は貴方の番じゃない。ギル様の婚約者なの。他国の王太子の婚約者に言いよって、国際問題になったらどうするの」




 アレンの行動を否定しながらも、彼が買ってきたクッキー缶をむしり取って両手で持って眺めた。

 期間限定缶だ。初めて見た。

 彼は自分で並んだと言ったけど、どのくらい並んだんだろう。

 まあ、興味はないけれど。

 ぱかっと缶を開けると、クッキーの甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

 様々な形や味のクッキーが敷き詰められていて、胸が踊る。




「人間が竜に勝てると思ってるのか、対等じゃないんだ。国際問題になどならない。この国の王族を見ろ、俺に媚びへつらってくる」





 彼は金色の瞳を細めながら、馬鹿にしたように鼻で笑った。




 ……クズ。

 私はこぼれ落ちそうになった舌打ちを押し殺して、クッキーに手を伸ばした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ