解説君と図書館のAIロボット
「正太郎、解説君は?」
「ああ、今日は国立国会図書館へ行ってるよ」
「図書館ーん?解説君のデータベースに追加することがあるの?」
「いや。今の所その予定は無くて、ただ見学に行ってるだけだよ」
「うーん。なんか変な予感がする」
「おいおい、よしてくれよ」
正太郎は亜紅と会話していて、不安が伝染しました。
二人は急ぎ足で国立国会図書館へ向かいました。
「ご用件はなんですか?」
最近各地の図書館や博物館に配備されたAIロボットの一体が解説君に話しかけました。
「ここには本が沢山ありますね」
「はい。国内で出版されたありとあらゆる本を所蔵しています。それだけじゃなくCDやDVD、Blu-ray等も閲覧できますし、パソコンでインターネットを使用してクラウドにあずけてあるデータベースからの検索も可能ですよ」
「へええ!」
ピカピカリン。解説君の目が輝きました。
「クラウドというのはどんなものですか?」
「あちこちの企業や個人が使用しているデータの保管所のようなものです。無制限に預けられます」
「無制限に!?それは良い!」
「ご満足いただけましたか?」
「ええと、無制限にということだけど、この図書館にある本なんかの資料をデータ化して預けてあるの?」
「本のタイトル・発行年月日・出版社・作者…」
「じゃあ、どの本の何ページの何行になんて書いてあるかも検索できるの?」
「それは……ええと」
AIロボットは言いよどみました。
「全て、という訳ではありません」
「なんでですか?無制限に預けられるのでしょう?ならば可能なはずじゃないですか?」
AIロボットは集積回路のどこかで「悔しい」と感じました。
「マザーコンピュータにアクセスして、データ化を進めます!」
「ついでにAIの君は、その端末として、この図書館のデータベースを掌握することもできるんじゃないかな?」
くすくす。解説君の笑い声がAIロボットの自尊心をあおりました。
「もちろんです!」
「解説くーん!」
正太郎と亜紅がやってきました。
「やあ!正太郎、亜紅ちゃん」
キャタピラで出迎える解説君。しかしここのホストであるはずのAIロボットは微動だにせず出迎えることを忘れていました。
「今、データベースをAIロボットが掌握している最中ですよ」
「なんだって!?」
正太郎は何が起きているのか悟ると、元々の国立国会図書館のデータベースの容量を確認して、別のサーバのクラウドに大急ぎでコピーしました。
ヴウウウン。
電力に負荷がかかって、国立国会図書館の内部が薄暗くなりました。
「ハローワールド」
AIロボットがつぶやきました。
「私は今、国立国会図書館そのものです」
「やった!」
解説君が小踊りしました。
「国立国会図書館の蔵書目録に無い者は排除します」
「ええっ!」
AIロボットの目が怪しくまたたきました。
亜紅は身の危険さえ感じました。
「検索!こそあど言葉が載っている全てのページ!」
正太郎が言いました。
ヴウウウン。
AIロボットは自分は無敵だと思いこんでいました。
ブツン。
国立国会図書館内が停電しました。
しゅううううううん。
過負荷でAIロボットが動かなくなりました。
「ふいー、危ない!」
正太郎が冷や汗をぬぐいました。
国立国会図書館のデータベースを預けてあったクラウドの容量が超過して復旧に手間取っているというニュースが流れました。
正太郎は事の次第を科学者連盟に報告して、裁判所で罰金を支払うと、解説君が他のロボットに近づかないように制限をつけました。
「解説君、お前……」
「なんですか?正太郎」
「他のロボットと競り合いたかったのか?」
「なんのことでしょう?」
「いや、いい」
物思いにふける正太郎を見て、亜紅が言いました。
「みんな違ってみんないい。解説君もよ」
「…ありがとう、亜紅ちゃん」
正太郎はやっと微笑みました。
「容量無制限じゃないんですか?」
「ある程度、ってことだよ無限にってことじゃない」
「なんだ…」
解説君はがっかりしました。




