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Case4 連続通り魔・殺刃事件 上

『三時になりました』

『ニュースをお伝えします』

『先日、昼頃。○○県××市△区の河川敷で見つかった女子高生の遺体は、三日前から行方が分からなくなっていた古野(ふるや)好穂(よしほ)さんと確認されました』

『遺体の左肩から右胸には刃物で刺されたような傷が幾つもあり、警察は先月から××市にて続いている通り魔事件と同一犯の可能性も含めて調査を進めています』



 テレビのワイドショーを賑わす、連続通り魔殺人事件。この町では既に、三ヶ月間で斬殺死体が四つも見つかっている。そりゃ、常に話題の種を求めるマスコミにとって、恰好のネタだろう。

「……」

 ボクはフードを深く被って顔を隠し、家電量販店の最新式テレビから流れる醜悪な殺人事件の話題から遠ざかる。

 聞いているだけで、思い出しそうになるのだ。

 生血の温かさを。飛び散った肉片の感触を。

 悲鳴を。

 悲鳴を。

「……ッ、ぐぅ」

 嫌な動悸が始まる。ボクは咄嗟に走り出して、路地裏に逃げ込む。誰もいない暗がり……警察も警戒中とは言え、こんなところにまで目を光らせている筈もない。大丈夫だと言い聞かせて、ボクは背中に掛けていた剣道用の竹刀袋を降ろす。中に入っていたのは、当然ながら竹刀などではなかった。

 一本の、抜き身の日本刀。

 模造刀などではない――人を殺す為の武器。

 その日本刀は生きているかのようにカタカタと震え、そら恐ろしいほど美しい刀身は鈍く輝く。

 妖刀と呼ばれても仕方ないなぁ、とボクは嘆息した。

「やめろ……落ち着け」

 ボクは日本刀の柄を握り締め必死に抑え込む。一瞬でも気を抜けば、持ってかれてしまいそうだ。

「……夜になったら与えてやる。だから今はやめろ」

 今にも暴発しそうな力を留め、ボクは歯を食い縛って耐え続ける。

 ボク自身に内在する殺意を。

 あぁ、そうだ。この日本刀は、持ち主の願いを叶えようとしている。

 殺さなきゃ。

 殺さなきゃ。

 殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ。

 ボクは殺して、殺して、殺さなきゃいけないんだ。

 だから今は一滴も零しちゃいけないんだ。

「はは……全く、お前は本当に融通が利かない(ヤツ)だ」

 ようやく落ち着いた日本刀を竹刀袋に戻して、ボクは汗を拭いながら壁にもたれかかる。見上げた空は、どんよりと曇っていた。

 一雨きそうだ。どこかで雨合羽を調達しないといけない。予定の延長は……まぁ、ないだろう。ボクが良くても、この日本刀(こいつ)が持たない。

 さぁ、今宵が最後だ。

 連続通り魔殺人事件、その幕引きとしようじゃないか。





 やばい傘忘れた、と私はスクールカバンに教科書を入れながら気付いた。教室の窓から見上げた空は淀んで、今にも雨が降ってきそうだ。急いでバスに乗って、事務所へ走れば何とか雨が降ってくる前に間に合うだろうか。

 最近この町では嫌な事件が続いている。それを理由に仕事を休もうと思ったけど、如何なる場所よりも龍ヶ崎探偵事務所の中の方が安全なのは残念ながら認めているので、あまり休暇をとる理由にはならなさそうだ。

 だったら早急に学校を出なければいけないと、私はカバンを抱えて教室を出た瞬間、「あ、羽衣さん!」という見知った人物に呼び止められてしまった。

「な、なに? 彩芽」

 下駄箱へと今にも全力疾走しようとしていた私に話しかけたのは、別のクラスの友人である宮ヶ瀬彩芽であった。ウェーブのかかった栗色の長い髪が、相変わらず上品なお嬢様オーラを放っている。

「ご、ごめんなさい……お急ぎの用事ですか?」

「いや、そういう訳じゃないけど」

 急ぎと言えば急ぎだが、友人の言葉を無視して走り出す程ではない。廊下の窓から見える雲が不穏過ぎるけど、気にするのは止めて彩芽に話を促す。

「それで、どうしたの?」

「……是非、羽衣さんのバイト先を紹介したい方がいるのですが……よろしいですか?」

 おずおずと申し訳なさそうに話を切り出す彩芽の様子に、私の脳内で「warning! warning!」というアラームが軽快に鳴り響く。

 現在、この町では連続通り魔殺人が起きており、下校時刻も午後の二時半と、普段と比べれば随分と早い時間になっている。町全体が警戒状態にあると言って良いだろう。

 そんな中で、相談。

 龍ヶ崎探偵事務所に、相談。

 嫌な予感以外の何を受け取れば良いのだろうか。

「…………ま、まぁ、依頼の話なら、受けるよ」

 幾許か躊躇したが、彩芽の頼みには断われない。渋々頷くと、彩芽は「良かった~」と胸を撫で下ろした。

「その紹介したい方と言うのは、半年前にウチのクラスに転校してきた方なのですが……」

「あぁ、そういえばいたね、転校生」

 別のクラスの話な上、交友関係も狭い私には関係のないことと割り切っていたので、どんな人物なのかは知らない。確か女子だった気がする程度の認識だ。

「えっと……名前を天国(あまくに)多々(たた)さんと言いまして……龍ヶ崎探偵事務所の話をしたところ、何としても霊能探偵さんに相談を受けてほしいと仰ったんです……」

「はぁ……それは、どんな相談?」

 もう物騒レベルMAXな雰囲気に頭痛がしてきた私の耳に、彩芽はそっと口を近づけ、周囲には聞こえないような小声で言った。

「……連続通り魔殺人事件の犯人を捕まえてほしい、とのことでした」





「いや、だからね……そういう相談は警察にしてくれないかなぁ」

 ソファーに座った先生は、開口一番そんなことを言った。困ったように、口元には苦笑が浮かんでいる。

 私が釘を刺したからか身嗜みは整えており、手元には書類が挟まったバインダーとペンがあるので、一応『仕事を受ける気はありますよ』というポーズは取っていた。

 彩芽に話しかけられた後、すぐにその天国多々さんと合流して事務所にやってきた。何とか天気が崩れる前に到着したが、既に窓の外は土砂降りになっている。

「霊能力って言うのは……こう、幽霊とか妖怪に対する特攻というか特殊バフというか……うーん、説明し辛いなぁ……ともかく餅は餅屋だよ。期待外れかもしれないど、不思議な魔法で難事件を解決! って訳じゃあないんだ」

 あはは、とだらしない笑みを浮かべ、頭を掻く先生。それに対して依頼者、多々さんは俯いて、たどたどしい言葉で返答する。

「い、いいえ……違います……違うんです……警察さんじゃ無理なんです……」

 天国多々さんは可愛らしい女の子だった。腰まである長くて艶やかな黒髪、お淑やかで大人しい雰囲気を放つ小柄な体躯。彩芽が西洋風なお嬢様なのに対し、多々さんは和風のお姫様って感じだ。

「警察じゃ無理って……どういうことなの?」

 私が訊くと、多々さんはスカートの布地をぎゅっと握って、恐怖からか目を泳がせる。額には汗が滲んでいた。

「だって……連続殺人事件を行っているのは、ワタシのお兄ちゃんの持つ〝妖刀〟なんですから」

「〝妖刀〟……?」

「お兄ちゃん……?」

 私と先生は、多々さんの言葉の別の部分に反応した。〝妖刀〟が私で、お兄ちゃんが先生だ。

「はい……ワタシのお兄ちゃん……名前は天国朏句人(ひくと)って言うんですけど……知っていますか……?」

「……天国、朏句人……。羽衣ちゃん、ちょっとスマホで調べてくれる?」

 怪訝そうな先生の指示に従ってケータイを取り出し、すぐに「あまくに ひくと」で検索すると、その名前は結果の一番上に登場した。


◆天国朏句人。

警察庁指定重要指名手配被疑者。

天国家夫婦殺人事件。

事件概要/この事件は、平成26年1月14日夜中、

〇〇県市内において天国研磨(けんま)椿(つばき)夫婦が殺害された

殺人事件です。

捜査特別報奨金/二百万円。


「――ッ!? せ、先生ッ!」

 顔写真付きで公表されていた罪状に戦慄し、私がすぐさまケータイの画面を見せると、先生は「あー、やっぱりなぁ」と顎に親指を当てて肩を落とす。

「天国多々さん……この指名手配されているのは、君のお兄ちゃんなのかい?」

「はい」

「じゃあ、ここに書かれた夫婦……君達の両親を殺したのは――」

「違いますッ!!」

 先生の軽率な言葉に、今まで弱々しい雰囲気からは考えられないように叫び、多々さんは立ち上がった。

「お、お兄ちゃんは、そんなことしません……ッ! そんなこと、出来るような人じゃ、ない……ないのに……」

 だけどその剣幕は長く続かず、両手で自分の顔を隠して多々さんは崩れ落ちた。

「あの日から、お兄ちゃんは変わってしまったんです。天国家に代々伝わってきた〝妖刀〟を握った、あの日から……」

 肩を震わせて、涙声で多々さんは力なく話す。私がちらりと視線を向けると、先生は諦めたように溜息を吐いて頷いた。

「……詳しく、話してくれるかな」

 先生が出せるであろう最大限の優しい声色で言うと、しばらくして多々さんは涙を拭い、涙声のまま一連の事件について話し出した。



 天国家。とある伝説の刀鍛冶に由来するというその家には、代々伝わる刀があったらしい。

 銘を『狐月(こげつ)』――かつて先祖が鍛えたと彼女の家に伝わる古い日本刀であり、何人もの人間を斬ったという曰く付きの、まさしく呪われし妖刀であると言う。多々さんの実家にある座敷牢のような所で、厳重に封印されていたそうだ。

「でも……当時、小学生だったワタシが好奇心から『狐月』を解放してしまったんです……でも、ワタシがそれを手にする寸前、お兄ちゃんが気付いて取り上げて……」

 両手で顔を覆いながら、多々さんは歯切れ悪く、ぽつぽつと語る。きっと己の過去を悔いているのだろう。

「……『狐月』を手にしたお兄ちゃんは、あの〝妖刀〟に取り憑かれて……笑いながら人を斬り殺す恐ろしい殺人鬼になってしまいました」

「妖刀に憑依されたお兄さんは、手始めに自分の両親を?」

「……」

 先生の問いに多々さんは顔を上げて、恐る恐る首肯した。

「はい……ワタシの目の前で……お兄ちゃんは、お父さんとお母さんを殺しました。……今でも覚えています」

 震えた言葉の端々から感じる恐怖。何かを抑え込むように膝の上でぎゅっと拳を握りしめる彼女からは、悲壮感が漂っていた。

「そっか……それは災難だったね。しかし妖刀とは厄介な話だ」

 ボールペンをくるくると指の上で回し、先生は思案顔でソファーの背もたれに体重を預ける。

 妖刀……と言っても、私みたいな一般人に毛が生えただけの人間では、どんなものか分からない。『村正』? とか名前だけ聞いたことあるけど。

「でも多々さん。その妖刀に取り憑かれたっていうお兄ちゃんと……ニュースで騒がれている連続通り魔殺人事件の犯人が同じだって、どうして言えるの?」

 私がそんな問いを投げ掛けると、彼女の顔は再び強張った。僅かな逡巡があったようだが、すぐに話し始める。

「こんなことがあったのは、初めてじゃないんです」

「?」

「警察さんも公表していないだけで、たぶん知っているんだと思いますが……ワタシが引っ越した先では必ず連続殺人事件が起きるんです」

 思いつめたような表情で、多々さんは続ける。その声にはどこか、恐怖と狂気が滲んでいた。

「ワタシはもう、お父さんとお母さんが妖刀に殺されてから、親戚の皆さんを頼って三回は引っ越しています……でも、その度に殺人事件があって……犯人は捕まらない……『狐月』は、ワタシを追っているんです……きっとワタシを殺そうとしている……あの日、殺し損ねたワタシを……!」

 揺れる額に浮かぶ汗、血走った瞳。まるで、多々さんこそが悪い何かに取り憑かれたようだった。

「お願いします、霊能探偵さん……! お兄ちゃんを……ワタシを、ワタシ達を! あの妖刀から救ってはいただけないでしょうか!?」





「妖刀って何なんですか、先生」

 天国多々さんと、その家に伝わる妖刀を発端とする事件の概要を聞き終えた私と先生は、事務所の倉庫へと訪れていた。安い電灯から発せられる僅かな光によって照らされるのは、雑多に並べられた古い書物や霊符、数珠や太鼓に榊の枝……もはや何が何やら分からない混沌空間である。恐る恐る近くの壁を指で触れてみると、分厚い埃の弾力が味わえた。長年放置した結果、随分と埃が固まってしまったみたいだ。……近々、大掃除プランを立案する必要がありそう。

「うーん……説明しろって言われると難しいんだけどねぇ」

 がさごそと何やら木の箱の中を物色しながら、先生は私の質問に答えてくれる。

「僕の知る限り、この国の歴史の中で〝妖刀〟だなんて呼ばれたのは、それこそ『村正』くらいなものだ。だけど、あれも千子村正(せんごむらまさ)という刀匠や、その一派が鋳造した刀を総称したもので、固有銘じゃないんだよねぇ」

「つまり……実際に、妖刀って呼ばれる刀は存在しないんですか?」

「その通り……だけど、似たようなものなら幾つもある」

 そう言って、先生は壁に立てかれた七星・破敵剣を指さす。『少女誘拐事件』で使われて以来あそこに置きっぱなしのようだが、そんなコンビニで買った傘みたいな扱いで良いのだろうか。

「例えば星剣(アレ)は、最初から人を斬り殺すことを目的に鋳造されたものじゃない。かつて安倍晴明が都に築いた多重防衛結界の要として、鍛え直した物だ。……要するに、剣や刀というのは『力』の象徴であって、人の願いや祈り、また魔術的な補助によって如何なる聖剣にも成り上がるし、如何なる魔剣にも成り下がる。話に出て来た『狐月』とやらにも、ひょっとした何かの願いや恨みが込められているのかもしれないねぇ」

そこまで話したところで、ようやく先生は探していた物を見つけたようだ。「あ、これこれ」と、箱の中から棒状の金属の両端にフォークの刃が付いた不可思議な物を取り出した。シルエット的にはダンベルに近いソレは、私も初めて見る物だけど、きっと魔術アイテムなのだろう。

「まぁ何にしても、面倒ながら調べなきゃいけないことが今回は多そうだ。連続通り魔殺人事件、天国家、妖刀……やれやれ。新しいゲームを始めたばかりだと時間は幾らあっても足らないんだぞ」

 先生は気怠げに溜息を吐き出して立ち上がり、ポーチに謎の魔術アイテムを始め、他にも色んな種類の霊符を入れていく。台詞だけ見れば普段のやる気がない先生だったけど、表情は仕事モードに入っていた。

「じゃあ先生、手早く事件を解決してくださいね」

「そうだね。とっとと終わらせて、僕はアニラジでも聞きながらリセマラでもしよう。毎回DMM自体を退会しなきゃいけないのが手間でねぇ」

 ぶつくさ意味の分からない文句を垂れ流しながら、先生は頭を掻きながら頭をガシガシと掻きむしる。

「まずは依頼者を無事、自宅まで送り届けようか。妖刀に狙われていると自己申告されてしまったら、流石に一人で帰す訳にはいかない……悪いね、羽衣ちゃん。こんな物騒な時なのに、帰りが遅くなりそうだ」

「まぁ、私が持ち込んだお仕事なので、別に構いませんよ」

 仕方がないとばかりに嘆息し、私は先生の言葉に返事をする。この話の流れで多々さんを一人で帰すなんて言ったら、それこそ先生の鳩尾(みぞおち)に私のドロップキックが炸裂するところであった。

「ははは、いつも危険に晒してしまってごめんね」

 だらしなく笑って謝る先生に、どうせ何かあっても、先生が守ってくれるでしょ? なんて言葉を返すことはせず、私は「まぁ、仕事ですし」と素っ気なく(うそぶ)くのであった。





 まばらに歩く人間は、無数に蠢く肉塊にしか見えない。もはや壊死してしまった左眼の代わりに、よく光を拾ってくれる筈の右眼に映るのは、ハリボテのような赤と肌色の色彩だけだ。

 不用心だなぁ。これだけの人が死んでいるのに、よくもまぁ外を出歩けるものだ。自分だけは死なないとでも思っているのか。

 少しでもボクが腕を振り抜けば、それだけでこの路地を歩く肉塊を赤い華に変えることが出来るのに。

 どくん、どくん、と心臓の音が聞こえる。血の臭いや消化液の臭いが、叩き付けるような雨によって掻き消されているのが幸いか――今の鋭敏化したボクの感覚には、少々耐え難い。

「……」

 グロテスクに蠢く肉塊の中で、嘔吐感を抑えながら歩き続ける。ここまで感覚を鋭くして地獄の中を進んでいる理由は、一つしかない。

 ボクは殺さなきゃいけない。

 妹を――あの愛おしい妹を、殺さなきゃいけない。

「……多々」

殺すべき人の名を呟く。それだけでボクの半身たる日本刀――『狐月』が震えるのが分かった。

 あぁ、待て。暴れるな。

 すぐに、見つけてやる。

 すぐに、殺してやる。

 今夜、全てを終わらせてやる。

 だからやめてくれ。ボクに関係の無い人間を殺させないでくれ。

 見たくない。

 見たくない。

 人が死ぬのは見たくない。

 もう、見たくないんだ。

 その為に、ボクは神様に全てを捧げたんだ。

「――」

 ボクは町中に繋がる下り坂へと足を進める。あぁ、こっちだ。こちらで合っている。ボクの嗅覚に間違いはない。ボクの感覚に間違いはない。あの日の出来事を想起するだけで、ボクは多々の気配を読み取ることが出来る。

 そして坂の上から見下ろす。幾つかの肉塊――その、中に、一つだけ色鮮やかに映る姿があった。

「は、はは……ッ」

 笑う。

 笑う。

 ようやく見つけた。よくやく会えた。

 嬉しい。嬉しい。あぁ、ありがとう神様。

 あの日の約束を君が覚えているかどうかなんて、関係ない。

 あぁ、多々。可愛らしい多々。ボクの大好きな多々。

 ボクはあの日の約束を果たしに来たんだ。

「――ぎゃははッ!」

 ニヤリ、と口角が持ち上がる。

 今まで封じていた枷が外れ、ボクの中に内在する殺気が漏れて、拡散していく。ボクは全ての思考を捨て去り、地面を力の限り蹴り飛ばした。





「すみません……帰りに付き合ってくださるなんて……」

 バスの一番後ろの席に乗って揺られる中、多々さんは謝罪と共に頭を下げた。少し時間が経って落ち着いたのか、先程までの狂気は鳴りを潜めて、しおらしく俯いている。

「依頼者の身の安全を守るのも、探偵の大事な仕事なんだよ。ねぇ、先生」

 隣に座っている先生に話を振ると、先生は「な……、緊急メンテか……しょうがない、暇だしイベント周回でもす……あぁ緊急メンテか」とスマホの画面を凝視しながら支離滅裂なことを言っていた。駄目だ、聞いちゃいない。

「えーっと……多々さん」

 先生の不気味な言動に不思議そうな貌でぽかんとする多々さんに対して、私は別の会話を模索する。せっかくなんだし、少しくらいは事件解決の手がかりになるような話をしよう。

「例の事件が起こる前……天国朏句人さんは、どんな人だったの?」

「お兄ちゃん、ですか?」

 今のところ第一容疑者だ。少しでも身内の人からの情報があった方が良いだろう。多々さんを傷つけかねない質問ではあったが、きっとこれは避けては通れない。

「……お兄ちゃんは、良い人でした。ワタシにも優しくて、どんなお願いでも聞いてくれたんです」

 多々さんは俯いたまま……だけど、どこか嬉しそうな声色で語る。

「いつも穏やかで、ワタシに怒ったことなんて一度も……あぁ、一回だけあったっけ。ワタシが『狐月』の封印を解いた、あの日」

「……」

「『やめろ! 多々!』……って、聞いたこともないような怖い声で……嗚呼、あれが、お兄ちゃんが、本当のお兄ちゃんが言った、最後の言葉だったのかもしれません……あははっ。本当、ばかなことしちゃったなぁ、ワタシ……」

 多々さんは自嘲するように、涙の混じった擦れた声で言う。気軽に聞いてしまった自分をぶん殴りたい気分だ。

「……あれ。そういえば、ここで降りるんじゃなかったっけ?」

 次の言葉に窮していた私を救うような言葉を、顔を上げた先生が発した。確かに多々さんから聞いていたバス停の名前が画面に表示されていた。

 私達は転がるようにバスから降り、事務所に置いてあった予備の傘をさす。外はバケツをひっくり返したような土砂降りで、安物の傘ではとても雨を防ぎ切れず羽織ったコートが濡れているのが分かった。

「……ところで、この坂を登るのかい?」

 げんなりしたような声色で、先生は行く先を眺める。そこは都心部と住宅街を分ける長い坂で、あまり徒歩で使う場所ではない。その証拠に車道を通る車は多いが、歩道を歩く人は皆無だった。この土砂降りと連続通り魔殺人事件が起きている現在、それは当然だろうけど。

「あ、はい……ワタシが部屋を借りているアパートは、ちょうどこの坂の上にありますので……」

「いやぁ、明後日辺りには筋肉痛確定だぞぉ」

「? 明後日?」

 首を傾げる多々さんに「……年を取ると筋肉痛は、時間差で来るらしいよ」と小さな声で教えてあげると「え、そ、そうなんですか……?」と驚かれた。

「そこのJKコンビ、中年男性の悲しい生態をこそこそ話さないおくれ……」

 嫌そうな貌で言う先生に若干申し訳ない気持ちが浮かんだけど、だったら少しは普段から運動しろよとも思う。

「まぁ、この土砂降りの中で外に長居はしたくないし、ちゃっちゃと行こうか」

 先生は諦観したように肩を竦めて歩き出したのに続いて、私と多々ちゃんも歩き出す。長い坂道、雨の音がうるさく会話もしづらい。私達は無言で歩道を進んでいた。

「……ん?」

 坂も中腹に差し掛かった辺りで、先生は立ち止まった。「どうしたんですか?」と質問する前に、私も違和感に気付いた。

 暗い。

 もう夜の七時を回っているのだから、暗いのは当然だけど、今までは街灯の光があったはずだ。だったら停電かな? と思ったが……だとしても、おかしい。

この道は都心部と住宅街を結ぶ大動脈であり、今まで車が何台も通っていた。しかしその灯りすら、この坂道から掻き消えている。

「――ッ」

 ぞくり。探偵事務所で働くうちに何度も感じて来た、嫌な雰囲気。その元凶は――坂の上に居た。

 雨合羽を着た男が、立っている。

 顔は分からない――なのに、右眼だけが爛々と輝き、こちらを凝視している。

「皆! 伏せろ!」

 先生の叫びと共に、雨合羽の男は地面を蹴り飛ばして勢いよく突進してきた。雨に濡れることも気にせずしゃがみ込んだ、その刹那――頭上にシュン、という風を切り裂くような、軽快な音が響く。

 私の持っていた傘が、バラバラに断裁されていた。

「は……?」

 まるで冗談のような光景に驚く間もなく、隣で「きゃあぁああああッ!」という、多々さんの悲痛な叫びが耳朶を打つ。

 横を向くと同じように地面にしゃがみ込んでいた多々さんだったけど、その横っ腹に真っ赤な血飛沫が飛び散っていた。ぴちゃり、と私の頬にも血液が付着して、鉄の臭いが鼻孔を貫く。

「……ひッ、ぎゃはは」

 嗤う。

 気付けば私達の背後に立っていた雨合羽の男は、聞くだけで心臓が止まるかのような悍ましい声で、嗤う。

 その雨合羽の裾からは、一本の日本刀の刃が伸びていた。赤く染まった刀身は雨に打たれ、不気味な(みかづき)のように輝く。

「あ、ひ、い、いたッ、痛い! 痛いよぉッ!!」

 ドバドバと溢れ出る横っ腹を抑え込みながら、多々さんは泣き叫ぶ。すると雨合羽の男は呼応するように嗤って、

「ぎゃはッ、ぎゃはははははははッ!!」

 血濡れの刃を振り翳して、再び襲い掛かってくる。だが、その目前に霊符が宙を舞った。

「オン・シュッチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ!」

 超高速で唱えられた真言と共に、真っ赤な刃を一枚の紙切れが受け止める。空中で固定された霊符は雨に濡れながらも、確かに私達を守っていた。

「ぐ、ぎぎぎッ!」

「逃がすかぁ! 急々如律令ッ!」

 先生は雨合羽の男の前に躍り出て、五本の北斗七星が刻まれた短刀を投擲する。それらは男の足元に突き刺さり、光の尾を引き五芒星を描いた。

「ぎ、ぎぃッ!」

「はぁ、はぁ……晴明紋(セーマン)による封印結界だ。逃げられるとは思うなよ……それより」

 悔しそうに歯軋りする雨合羽の男に対し、先生は荒い息のまま告げ、すぐにこちらへと意識を向けた。

「うぅ、痛い、痛いよぉ……ッ!」

 多々さんの傷は深く、多々さんと私が抑えているのに止まる様子すらない。だらだらと溢れ出て、アスファルトに血溜まりを作っている。

「大丈夫かい、多々さん! 今すぐ薬師如来の霊符で――」

 先生はどんな傷も瞬時に癒すことが出来る霊符を持っていることを、私は知っていた。だから差し出された霊符を急いで受け取ろうとした、その時である。

 先生の背後で、雨合羽の男の右眼がまばゆく輝き出す。

「先生ッ!!」

「ぐぁがあぁあああぁああああああああああああッ!!」

 私の警告とほぼ同時、雨合羽の男は鼓膜を劈く咆哮を上げ、狂ったように上半身を反らして天を仰ぐ。バキィッ! という破壊音と共に、男の足元のアスファルトがめくり上がった。

「な――ッ!?」

 水飛沫と共に、宙を舞うコンクリートと北斗七星が刻まれた短刀――圧倒的な暴力の前に、先生は地面を蹴って後退したが――それよりも早く、斬撃は襲い来る。

「ぐふッ!? お、オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカッ!」

 胸元を抉られた先生は、躊躇なくこちらに渡そうとしていた霊符を使い、すぐさま自分の傷を治癒する。そのまま腰に掛けたポーチから、事務所の倉庫から持ち出したダンベルのようなアイテムを取り出した。

「――ッ」

 一瞬、雨合羽に隠されていた男の口元が、驚きに広がったのが見える。切り裂いたはずの敵が即座に回復して襲い掛かってくるのが予想外だったのだろう。先生は雨に濡れながら、前傾姿勢のままアイテムを男の懐に突き出し、突き刺した。

「ナウマク・サマンダボダナン・インダラヤ・ソワカッ!」

 噛み締めるような力強い詠唱と共に、バチィン! という雷撃音が響き渡った。視界は白く染まり、周囲にはバチバチと弾ける稲妻が駆け巡る。その爆心地たる雨合羽の男は雷撃を全身で受け止め、その衝撃に気色の悪い悲鳴を上げた。

「ぐ、ぎぎ! ぎぎゃぁああぁあああぁああああッ!?」

 口元から血液が溢れ出て、今まで力強く動いていた男が停止する。追撃するのならここなんだろうけど、先生は肩で息をしながら座り込んでしまっていた。

「はぁ……はぁ……ッ、帝釈天(インドラ)の雷霆たる独鈷杵(とっこしょ)の全力解放が直撃して、なお耐えるのか……ッ!」

「ぎ、ぎぎぃ!」

 まるで落雷が直撃したような有様だったが男が刀を振り被ると、彼に纏わり付いていた紫電が消し飛んだ。だが、その反動で被っていた雨合羽のフードが外れて、その下に隠れていた顔が露わになる。

 二十代半ばであろう男性の髪は年齢に似合わず白髪であり、その左の瞳は壊死しているようで眼球に色はなく――代わりに右の瞳は爛々と輝いていた。

 随分と様変わりしていたが、それでも分かる。その顔は数時間前に、写真で見ていたからだ。

「……ッ、お兄、ちゃん……ッ!」

 這い蹲りながらも、顔を上げた多々さんは血を吐き出しながら呼び掛ける。半ば分かり切っていたことだが、雨合羽の男の正体こそが指名手配中の殺人者、天国朏句人であったのだ。

「……が、ぁ、あああ、ぎ、ひ、ひひ」

 朏句人さんは変わり果てた醜悪な貌で呻く。あぁ、確かにこれは妖刀に取り憑かれているのだと判断して良いだろう。

「――多々さんに、手を出すな」

 だからこそ、多々さんと朏句人さんの間に立つ。守れるとは思えない。先生があそこまで戦って、まるで歯が立っていない相手なのだから勝てる算段なんて、あるはずがない。脚が震えて仕方ないけれど、それでも醜悪な殺人者の前に私は立ちはだかった。

 そんな弱々しい私をじっと光り輝く瞳で睨み付けた後、彼は引き攣った笑みを浮かべ、

「多々」

 不気味な歪んだ口で、確かにそう言った。

「待っていて……今度こそ、今度こそ、殺してあげる……それまで、きひひ、……君は、自由だよ」

「――急々如律令!」

 そこで背後から先生が短刀を投擲したが、呆気なく朏句人さんが持つ日本刀によって弾かれ宙に踊った。

「はぁ……ッ、背後からの不意打ちも、無意味か……ッ。何と言う化け物……いや、まさか神性適合者か……?」

「ぎぎ……ただの肉塊ではなさそうだね、面倒だ」

 そう言って、彼は思いっきり地面を蹴り飛ばしてビルの屋上へと飛び降りた。雨が降りしきる闇の中で、彼は不気味な光を帯びた右眼で私達を一瞥し――そのまま宵闇へと消えて居なくなってしまった。

「先生、あいつを……」

「ははは、羽衣ちゃん。あの化け物を追うのは難しそうだ。それよりも彼女の治療が優先だろう」

 ふらふらと私達の元へと歩み寄り、先生は地面に倒れ伏す多々さんを見下ろす。

「やっぱり、お兄ちゃんだった……お兄ちゃんだったんだ……あの妖刀に……『狐月』に今も囚われたままで……」

 ぶつぶつと呟きながら、彼女は唇の端から血を流す。雨に打たれ、彼女の血液は今も流れ出ていた。だけど、そんなことすら、彼女の心には無関係らしい。

「ワタシを、殺しに来たんだ……」

 ぽつり、唇の端から血を流しながら呟く。

 私達を嘲笑うように、ざあざあと雨は降り続けていた。






「多々さんを一人にしてしまって、大丈夫なんでしょうか」

「大丈夫じゃないでしょ……」

 妖刀に支配された殺人鬼・天国朏句人の襲撃の後、多々さんの治療を済ませた私達は、彼女をアパートの自室に置いて帰路についていた。

「だけど本人が『一人にしてほしい』って言っているんだから、無理強いは出来ないよねぇ」

 はは、と情けない笑みを浮かべる先生。確かに多々さんは憔悴し切った表情をしており、彼女の意見を無視することは難しかった。

「一応、住宅用の清祓と鬼門除け、四聖獣の霊符で結界を張っておいたけど……まぁ、あの殺人鬼の問答無用さを考えれば、気休めに過ぎないだろうねぇ……」

「……珍しく先生、フルボッコでしたね」

「その上この体たらくだ、面目ない」

 疲れ果てた表情で、先生は相好を崩す。実際先生は一人で歩くことも満足に出来ず、私の肩を借りて何とか事務所へと向かっている状態だ。

 叩き付けるように降っていた雨は止み、夜の街に静寂をもたらせている。だけど、それが安穏としたものじゃないことくらい、私には分かっていた。

「あの殺人鬼に打ち込んだ独鈷杵って魔法具は、戦いと雷を司るインドの神様インドラ……仏教世界に於ける帝釈天の力が込められた、物理的な威力で言えば僕の持っているアイテムの中でも最強クラスの代物だ。ぶっちゃけ殺すつもりで使ったのに、あれに耐えられちゃ僕には手の打ちようがないって感じさ」

「あれって破敵剣より強いんですか?」

 確かにあの独鈷杵というアイテムが放った雷撃は凄まじかったけれど、低級霊などを一発で打ち払えるあの剣の方が強そうな気もする。

 私の率直な質問に、先生は「んー」と眉間に皺を寄せる。

「敵が、悪霊・怨霊の類なら七星・破敵剣の方が強いよ。だけど今回の敵は、あくまで人間だ。妖刀が如何に超常の存在だとしても、担い手が人間である以上、破敵剣はそれほどの威力は期待出来ない。だからこその切り札だったんだけど……手応えはあったにしても、逃げられちゃったしなぁ」

 大きな溜息を吐き出して、がっくりと先生は肩を落とす。重いのでやめてほしい。

「しかも僕は独鈷杵を使った時点で、ほぼ自前の魔力はすっからかんだ。明日は霊薬草(パナ・ケア)ドリンクや神酒(ソーマ)をガブ呑みして一日中寝ているしかないね」

「戦闘不能ってことですか……」

 その魔力がどうとかいう話は分からないけど、先生は明らかに疲弊している様子であった。何だか生命力が感じられない。

「ここまでの強敵とはねぇ……殺人鬼・天国朏句人……妖刀、刀鍛冶、天国家、……色々と推測は出来るけど、根拠を探す余力も残ってないし、どうしたものかね」

「……先生」

 諦観混じりの言葉を呟く先生に、私は伝える。

「その……私に出来ることって、何かありませんか? 私は戦力としては役に立たないかもしれませんけど、体力になら自信はありますし……」

 妖刀の襲来――私は何も出来なかった。先生があの殺人鬼と戦っているのを、ただ見ているしか出来なかった。その結果が、これだ。多々さんは塞ぎ込み、先生は魔力を使い切って歩行すらままならない。

 私にだって、何かしたい。

「……羽衣ちゃん。君のそういう優しさが、あの『聖母事件』に繋がったことを、忘れたのかい?」

「覚えています。それでも……あの過去を理由に、何もしないなんて、私には出来ません」

「覚悟完了している感じだなぁ、これは」

 私の断固とした返答に、先生は呆れたような口調だったけど、その表情はどこか嬉しそうな様子だった。

「じゃあ……そうだね。僕は明日、一日中寝ている予定だから、羽衣ちゃんは新しい助っ人の対応をしてもらおう」

「助っ人……? 誰か協力してくれる人がいるんですか?」

「ああ、後で電話しておくから、まぁ明日には来てくれると思う……その人物に多々さんから聞いた話や、今日あったことを話してあげてほしい。僕が回復してから話しても良いけど、今は一刻を争う時だからね」

「……まぁ、それなら私でも出来そうですね」

 もっと色んな調査とかお願いされるかと思ったら、何かお話しをすれば良いだけの簡単なことだった。どこか拍子抜けしていると、「あぁ、それと」と先生は付け足すように切り出した。

「僕の晩ごはん作ってくれないかな」

「……」

「あ、あと出来れば、朝ごはんと洗濯も」

「………………………………まぁ、良いですけど」

 私は家政婦じゃねぇと叫びそうになった自分を抑え付けて、何とか首肯する。仕方ない、自分から何かすることないかと聞いてしまったのだから、仕方のないことなのだ。

「それと僕のスマホにダウンロードされているソシャゲ三つと、PCに入っているソシャゲ四つのログインボーナスの受け取りと、あぁそういえば通販で頼んでおいたフィギュアが着払いで届くから受け取っておいて。あ、この前ラジオに送ったメールが採用されたかどうかも気にな――」

「調子に乗るなッ!」

「ぶげりゃ!?」

 疲弊しているはずなのに、やけに口だけ高速で回る先生を、私は思いっきりアスファルトへと叩き付けるのであった。





 路地裏に駆け込んで、ビルの壁に背中を預けると、そのまま立っていられず座り込んでしまった。

「はぁ……はぁ……ッ」

 息が荒い。耳の後ろで血液がどくどくと流れる音がする。

 殺せると思った。

 遂に殺せると思ったのに。

「……ちッ」

 舌打ちをし、自分の左手を眺める。返り血と雨に濡れたボクの掌は、未だに痺れて思うように動かない。あの身体の芯まで貫くが如き雷撃の残滓は、未だにボクの身体を蝕んでいる。

 ようやく見つけた、ようやく会えたのに……ボクと多々の逢瀬を邪魔する人間がいたのだ。

 神の領域へと至ったボクを止める人間――間違いなく魔術師の類であろう。

「……き、ひひ」

 頬の肉が引き攣り、溜息すらも不気味な笑い声のように聞こえる。我ながら不気味な姿だ。それでもボクは、こんな姿に成り下がってでも、多々を殺す。愛する妹を殺さなきゃいけない。脳裏に焼き付く約束だけが、ボクをここまで生きながらえさせたのだ。

障害は全て排除する。

肉塊も魔術師も例外なく、全て、全て、全て斬り殺す。

 手にした『狐月』が震える。血が足りないのだろう。肉が足りないのだろう。悲鳴が足りないのだろう。痛みが足りないのだろう。絶望が足りないのだろう。

 あぁ、今日もまた、嫌な夜になりそうだ。


今回は長くなりますので、次に続きます

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