表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

悪魔憑き事件 補遺


「――このため彼の遺体を(We therefore commit )、かの地に委ねる( his body to the ground)。土は土に(earth to earth)。灰は灰に( ashes to ashes)。塵は塵に(dust to dust)――」

 ヴァチカンより派遣された神父により、呉内亜久太の葬儀は行われていた。その祈祷書は帰天した人物が、最後の審判にて甦り、主の国へと行けることを願うものだ。

「先生……何で? くれない先生……」

 子ども達はすすり泣きながら、最後の別れに集まっている。彼の棺桶の周りには供えられた花は、皆が修道院の庭で一生懸命育てた花々であった。

「あぁ……何で? どうして、くれない先生……」

 集まった子ども達の一人、一際大粒の涙を零す少年は、自分の掌を凝視しながらうわ言のように繰り返す。

「ぼくが……悪いのに……どうして……? どうして、神様は……――」


 どうして――ぼくを裁かないのだろう?


 少年――森揚葉は広げた拳を握り締め、葬儀を抜け出した。瞳から零れ落ちる涙を拭い、歯を食い縛りながら走っていく。

 あの日、些細な事で喧嘩した安間くん。次の日には謝って仲直りしようと、そう思っていたのに――交通事故で死んじゃった。

 そんなぼくを先生は励ましてくれたのに――何だかよく分からない病気で死んじゃった。

 ――全て、全て、ぼくが悪かったんだ。

 あんなおまじないの遊び半分で手を出したから、こんなことになったんだ。あの不思議な紙片はどこかに行ってしまったけど、もう探す気になんかならない。

 あぁ、それなのに、どうして神様は、ぼくに罰を与えない……?

 やっぱり、そうなのだろうか。

 パパとママの言う通りなのだろうか。



 神様なんて、この世にはいないんだ。



 少年は修道院の礼拝堂を通り抜け、さらに奥へと向かう。院長が不在の為に使われていない、大きな祭壇と椅子が設けられた祭祀の為の部屋――司教座。

 パパとママは、最近こんなことを言っていた。

 神様はね、本当は存在しないんだ。

 この世に存在するのは、悪魔だけなんだよ、と――。

「うぅ……ずずッ」

 垂れた鼻水を啜りながら、少年は跪き両手を合わせて指を絡ませる。

 祈る――神様がいないのだと言うのなら――悪魔に。

 返してください。

 悪いのは僕なんだから、かなた君とくれない先生を返してください。

 あぁ、悪魔様。

 確か、パパとママは、こんな風に言っていた。



「はれるや、はれるや……さんたまりあ……」



 少年は祈る――血によって『Pergamon(ペルガモン)』と刻まれた司教座に向かって、必死に――無垢な祈りと贖罪を捧げる。それが何を意味するのかも分からず。





「……終末の刻は来たれり」

 とある講堂に設けられた会議室の中で、最も上席に座った男が告げた。その顔に瞳もなければ鼻もない。全くののっぺらぼう――まるで一神教の神には、個を示す名がないように、彼の顔から個性と言うものを見いだせない。

「各地に散った使徒よ。走れ、奔れ、天使が喇叭を鳴らす前に、救われぬ魂を救い取れ」

 口も無いのにどこか声が出ているのか――彼が言葉を放つ度に、彼の首からぶら下がった十二の十字架が揺れる。

「さぁ、大いなるバビロンは到来する。おお、さんたまり、さんたまりあ……ベツレヘムの夜空に、星は輝いた!」

 会議室のプロジェクターに映し出されたのは、どこにでもいる平凡な女子高生。

 彼女こそ彼等の追い求める聖母にて大淫婦。

 大戦末期。【八咫烏】にて極秘で行われた非人道的な人体実験『〇神計画』の技術を流用して産み落とされた、人工的に神を造り出す生産機構。

〝本土決戦用魔人〟――龍ヶ崎終の次世代機。

〝神魔創造用聖母〟――七月羽衣。



 彼女を巡る数奇な運命は、今、ここに集束する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ