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バランディは、驚いたように目を見開く。

しかし言葉を発することはなく、シェーラの質問に軽く頷くことで肯定を伝えてきた。


それを確認してから、シェーラは話を続ける。


「ここにあげた賭場の儲けは、この町及び周辺地域の性別年齢別の人口と、平均収入及び現在の物価、消費傾向を分析して想定したものです。――――残念ですが、ミームは田舎町。賭場の儲けは思うようには上がらないでしょうね」


シェーラは淡々と説明した。

思いもよらぬ本格的な数値資料を見たバランディは、書類に目を落としながら考え込むように顎に手をあてる。


一方、周囲にいる厳つい男たちは、目をしろくろさせていた。


「……人口と平均収入?」

「……物価? 消費傾向ってなんだ?」


首を傾げ、互いに顔を見合わせる。

彼らにとって、この資料がチンプンカンプンなのは、聞くまでもない。




「……いくらなんでも儲けが低すぎだ」


さすがにバランディはわかるようで、資料を真剣に検分した後で不服そうに呟いた。


「仕方がありません。……キャビン織物工場が潰れますから。織物工場は単独で商売をしているわけではないんですよ。下請け工場から商品の販売先、果ては従業員にお弁当を配達するような出入りの業者まで。……その影響の大きさは、こんなものではないかもしれません。……織物工場がなくなれば、賭場に通えるような余裕を持つ町民の数は激減するでしょうね」


シェーラの返事に、バランディは忌々しそうに舌打ちした。


「私としては賭場への投資はお勧めできませんけれど――――でも、だからといって”代替案”もなしでは、あなたは土地の売却を止めてはくれませんわよね?」


「当たり前だ」


バランディは不機嫌に顔をしかめる。

シェーラはニッコリ笑った。


もう一枚、別の紙を机の上に広げる。



「そこで、こちらの表です。これは今後キャビン織物工場で販売予定の、ある商品シリーズの収支見込みになります。この商品が軌道に乗れば、先ほどの収益一覧表に比べて初期の儲けは少なくとも、長期的に見て安定した収益を得ることができるようになります。グラフを見てもらえばわかると思いますが、単純に利益が逆転するまでの期間は三年ほど。シリーズの更新が順調にいけば、その後も利益は伸び続けるでしょう。……まあ、とはいえあなたが得ることのできるお金は、今のままでは貸したお金とその利子が限度になりますが。――――そうですね、今なら投資に一枚噛ませてあげてもかまいませんよ?」



現実的には下から見上げているシェーラだが、気持ち的には上から目線でそう告げた。

バランディは、フンと鼻で笑う。


「数値だけならどんな売り上げも計上可能だからな。問題は、それがどんな商品で実際に売れるかどうかだ」


もっともな言い分だった。


言われたシェーラは、自分のカバンから小さな布を取り出す。

その布を書類の上で、ゆっくりと広げた。



それを見たバランディは、大きく顔をしかめる。


「……何の真似だ?」


布の中は、空っぽだったからだ。


シェーラは、ニッコリ笑う。



「売るのはこの布――――正確には、この図柄ですわ」



シェーラは布の両端を持ち、バランディの目の前に広げて見せる。


「図柄?」


確かに布には、曲線と直線が複雑に絡まり合った少し変わったデザインが刺繍してあった。


「この図柄は……なんと! 幸運を呼ぶ紋様なんですよ!」


シェーラの言葉に、バランディは眉をひそめてしかめっ面をする。





「…………その手の商品は間に合っている」


「まあ! 私の紋様をそのへんのインチキ商品と一緒にしないでください!!」


シェーラはプンプンと怒鳴った。

それもそのはず、シェーラが見せた紋様は皇家のものなのだった。

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