表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/72

63

そして、かつての女皇の目の色と同じ、美しい明け方の空の下。

周囲をゲン国軍に囲まれたど真ん中に、シェーラとゲン国王は立っていた。


「……本当に、これで良かったのか?」


「ええ。きちんとみんなで話し合って決めましたでしょう?」


「いや、あれは話し合ったというより、強引に脅して押し切ったと言う方が――――」


小さな声でひそひそと話しはじめたゲン国王の言葉を、シェーラはジロリと睨んで黙らせる。


「脅すだなんて人聞きの悪い」


「――――『髪を切る』と言うのは、立派な脅しだと思うぞ」


ゲン国王は大きなため息をついた。

シェーラは、ツンと横を向く。


「私は、脅したつもりはありません」


しゃあしゃあとそう言うシェーラの今の服装は、簡素な白いシャツと茶色のチョッキ。足には同じ茶色のズボンを穿いていて、長い髪は一つにまとめハンチング帽の中に隠している。

どこからどう見ても普通の町の少年に見えるはずだ。


(ずっと悩んできた貧乳だけど、まさかそれに感謝する日がくるとは思わなかったわ)


実際にシシルを見たことのない人間ならば、間違いなく騙されてくれることだろう。


「勢いと根性論だけでは、狡猾な貴族に勝つことはできません。例え命を懸けても、失敗すればなんにもなりませんからね」


「……しかし、君は本当に危険なのだぞ。義父は、私と一緒に君も亡きものにしようとするだろうからな」


心配するゲン国王に、シェーラはクスリと笑いかけた。


「ええ、そうでしょうね。でも、たぶん直接私を攻撃することはしないと思いますよ」


そう話す。


「何故だ?」


「陛下のお義父さまは高位貴族なのでしょう? あの手の連中は、反逆に自分の手を汚しませんから。シシルを本物の王の子だと思っているのなら、なおさら手は出してこないはずです。自分の逃げ道は確保して、策を巡らすのが彼らの常套手段ですからね」


心当たりがあるのだろう。ゲン国王は苦虫を噛み潰したような顔になる。


「あと、私は自分の身は自分で守れますから。心配なのは陛下の方ですよ」


以前シシルを殺そうとしたゲン国王だが、戦争を避けたいという彼の思いは本物。

また、ここまで事を大きくしてしまったことで、シシルの殺害を企てたこと自体も悪手だったと思っているようだ。


(だったら、彼に協力して戦争を回避した恩をたっぷり売った後で、シシルの件をどうするか話し合った方がいいわよね?)


そのためにも、ゲン国軍に潜入し国王を脅迫している義父とその一派を何とかしなければならない。


「私を生かしたまま連れて自軍に戻った陛下が、軍の即時撤退と王都への帰還を命令する。そこで陛下がシシルさんに王位を返上するつもりだと宣言すれば、彼らは必ず何かしら行動を起こすはずです。――――私を排除しようとするか……陛下を排除して私に媚びを売ろうとするか……そうでなければ多少面倒でも、当初の予定通り私と陛下の両方を排除して、一気にゲン王国を手に入れようとするか」


一番可能性が高いのは、ゲン国王も言っていた通り三番目のケースだろう。


(まあ、どれにしてもやることは決まっているんだけど――――こちらに手を出してきたところを一網打尽。動かぬ証拠を突きつけて断罪よね)


なんとゲン国王軍の中にも皇国の間諜は入りこんでいて、表向きのシェーラの役割は、相手の攻撃を引き出す囮役だ。自分の身さえ守ってくれれば、後は潜入している間諜たちが敵を捕らえるからと、スィヴァスにはくどいほど説明された。


『くれぐれも! くれぐれも! 御身を守ることを第一に! 決して自分から攻撃などして傷を負うなんてことにならないでくださいね!!』


ここへ来る前、スィヴァスは泣きつかんばかりの勢いでそう言っていた。

どれだけ信用がないのだと、ちょっぴり悲しくなってしまったシェーラだ。


自軍の中に皇国の間諜がいると知らされたゲン国王は、ずいぶんショックを受けていたようだが……まあ、それはこの際どうでもいいだろう。




「――――来たぞ」


顔を強張らせたゲン国王が、小さな声でシェーラに囁いてきた。


「――――陛下。無事のお帰りお喜び申し上げます」


声がすると同時に、周囲を囲っていた兵士が道を開けて、一人の男が現れる。

その場でゲン国王とシェーラに対し、初老の男性が跪いた。


「出迎えご苦労」


国王の言葉を受け、下げた頭の頭頂部が昇りはじめた朝日を浴びてキラリと光る。



(まさかのO型ハゲ!!)



ラガルトほどではないものの、堂々とした体格と薄い毛の男――――それが諸悪の根源、ゲン国王の義父――――ビュケ伯爵だった。




   ◇◇◇




キラキラと目に眩しい初対面を果たした後、シェーラはゲン国王の大きな天幕に招かれる。


日の出とともに行われるはずだった戦争は、いったん中止とされ、両国軍は国境を挟んで睨み合っている状況になっていた。

ゲン国軍が攻撃しない限り皇国軍も攻撃しないと、ラガルト元帥には約束させてある。


天幕の中、シェーラとゲン国王は並んで座り、二人の前には跪くビュケ伯爵がいた。


(視界的に辛いものがあるから、できれば立ってほしいんだけど)


どうしてもビュケ伯爵が正視できず、シェーラは目を逸らしてしまう。

人払いをしてあるので、天幕の中にいるのは三人だけたった。


「――――王都への帰還ですか?」


「ああ。私は、直ぐに帰って一刻も早く真の国王に王位をお返ししたい。シシルさまに出会って、自分の過ちに気づけた。やはり玉座は正当な方に座っていただくべきなのだ」


熱心に語るゲン国王に、ビュケ伯爵は一瞬忌々しそうに顔をしかめる。


「ご命令はわかりました。……しかし、軍を動かすには時間がかかります。今から準備しても出立は明日以降になると思いますが、ご了承願えますか」


「できるだけ早くせよ」


命令されたビュケ伯爵は、頭を深く下げた。


「……しかし、本当にシシルさまは皇国の皇族の血が表に出ておられるのですね。その外見で陛下と同じお歳とは信じられません」


そのまま出て行くのかと思えば、顔を上げながら、そんなことを言いはじめる。

無遠慮にジロジロ見られたシェーラは、ムッとした。


「義父殿!――――」


声を荒げかけたゲン国王を、片手で制して――――シェーラは、微笑む。



「誰の許しを得て、私に声をかける?」



わずかばかりの皇気をこめて、威圧した。


天幕の中の温度が急激に下がり、頑丈なはずの天幕がキシキシと軋む。



「たかが伯爵が、何さまのつもりだ?」



不機嫌を露わにして問いかければ、ビュケ伯爵の顔色は、あっという間に青ざめた。

そればかりか、ガタガタと体を震わせはじめる始末だ。


「シッ――――シシルさまっ!!」


ゲン国王が、焦った声をあげた。


シェーラは、ゆっくりとそちらに顔を向ける。


「伯爵の無礼は平に謝罪いたします。……どうかお許しください!」


懇願されて、コテリと首を傾げて見せた。

そのまましばし考え込むふりをする。

このわずかな()が、許しを待つ者たちに十分な脅威を与えることを経験上知っているからだ。



「あなたが、そう言うのなら」



ニッコリ笑って頷いたシェーラは、笑顔のままビュケ伯爵を見て――――


「失せろ!」


短く言い放った。


伯爵は転がるような勢いで天幕を出て行く。







「まあ、あんなに急がなくてもかまわないのにね」


サッと皇気を消してそう言えば、ゲン国王が大きく息を吐き出した。



「……やりすぎだ」


疲れたように呟いて頭を抱える。


「“あの程度”でですか?」


「どこが“あの程度”だ! 私は、命の危機を感じたぞ!!」


ずいぶん簡単に危機に陥る命だとシェーラは呆れてしまう。

そんなことでは、皇宮ではあっという間に死んでしまうだろう。

髪をかき上げた国王は、シェーラにジッと目を向けた。


「レオナルド殿下のお気に入りというからには、ただ人ではないと思っていたのだが……本当に君は何者なんだ?」


真面目な顔で聞いてくる。


「え? 私はただの町の女工ですよ」


「嘘をつくな」


即座に否定されてしまった。

そんなことを言われても嘘などついていないので困ってしまう。



「――――まあ、いい。いずれ名のある皇族のご令嬢なのだろう。……それよりも、今の件で義父は間違いなく君を排除する方向に走るはずだぞ。くれぐれも気を抜かないでくれ」


ゲン国王は、真剣な表情でそう頼んできた。

元よりシェーラに気を抜くつもりなど無い。


(……まあ、でも皇気がある限り、全力を尽くす必要はないと思うけれど)


「わかりました」と頷いたシェーラだが、そこまで気を張る必要はないだろうと思う。





――――その彼女の思惑が外れてしまったのは、それから一時間後のことだった。

……どうしても、シリアスになりきれない私です。

(タグに『コメディ』ついてるし、大丈夫ですよね?)


また、作者の家系は父方も母方もしっかりハゲの遺伝子を持っています(涙)

ハゲの方には親しみこそあれ悪意はありませんので、お許しください。

m(_ _;)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ