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先行していますツィッターとは違い、時系列にしてみました。

ツィッターでは未登場のラガルトとのやり取りをお楽しみいただけましたら幸いです。

それから五時間後。

シェーラたちは、無事に皇国軍に合流することができた。



「――――すごいな。本当にもう着いたのか」


メラベリュー王宮から国境まで、通常ならどんなに馬を飛ばしても半日はかかる。それを夜間、しかも片方は二人乗りで五時間で駆け抜けたのだ。


皇気なしにはできない荒業に驚きながら出迎えてくれたのは、ラガルト元帥だ。

ほぼ二十年ぶりに見る、かつての臣下の姿に、シェーラは目を細めた。


(少し髪に白いものが増えたかしら? 体は相変わらず鍛えているようだけど……心なしか老けたような?)


ラガルトは今年で二百五十八歳。筋骨隆々とした武人だが、長命な皇族でもそろそろ老いが見える頃。

しかし、女皇の生きていた時の彼は、年齢などまったく感じさせないパワーの持ち主だった。

その彼を知っているからこそ、シェーラは目の前の偉丈夫に心配そうな目を向ける。


ちなみにスィヴァスもラガルトと同じ年齢だ。表舞台と裏舞台、双方から女皇を支えてくれた二人が、奇遇にも顔を揃えている。


ラガルトは、シェーラの姿を見て複雑そうな表情を浮かべた。



「あなたが――――」


しかし、何かを言おうとしたラガルトの言葉は、スィヴァスに遮られる。



「ラガルト! あなたもどうかシェーラさまを止めてください!」



初対面の挨拶もさせられず、突然わけもわからず「止めろ」と言われたラガルトは面食らった。


「落ち着けスィヴァス。なんのことだ?」


「なんのことだもありません! シェーラさまときたら、御自らゲン国軍にシシルさまのふりをして潜入すると仰るのですよ!」


「は?」


スィヴァスの言葉に、さすがのラガルトも驚いた。


「あら。だってこのままじゃ、ゲン国王陛下は、みすみす死ぬために自軍に帰るようなものですもの。一緒について行ってフォローする人が必要でしょう?」


シェーラは当然とばかりに、そう言った。



――――自軍と合流すれば、八割の確率で進軍を止めることができると言っていたゲン国王。

しかし、実はそれはかなり希望的観測だった。

いや、決して彼は嘘をついたわけではない。

ゲン国王の言う通り、軍の大多数を占める兵士のほとんどは親国王派。国王に心酔する兵士たちは、例え交戦中であったとしても、彼が命じれば即座に停戦することだろう。

ただ、その停戦がどうにも長続きしそうにないのである。

何故ならば、進軍して来ている軍隊の中に、ゲン国王の義父がいるからだ。

国王の帰還に沸く兵の前では殊勝に臣下の礼をとる義父も、一旦天幕に戻り周囲を自分の息のかかった者たちで固めてしまえば、何をするかわからない。


「国王陛下を拘束して閉じこめるくらいならまだましで、最悪殺害するかもしれませんよね?」


「そんなことはさせない! 私は、自分の命と引き換えても義父を止めて見せる!」


「……どうやって?」


冷静に聞き返すシェーラの質問に、ゲン国王は口ごもった。

これは、ここまで来る間に馬上でも繰り返した会話だ。

『命と引き換えに』というのは決意であって、手段ではないのである。


「それって、つまりは“無策”ってことですよね?」


結果、シェーラは先ほどスィヴァスが言ったように、自分がシシルに化けてゲン国軍に潜入する策を考えついたのだ。


「幸いにしてゲンの人々は、シシルさんの容姿を詳しく知りません。見た目が十六、七歳の少年だとしか認識していないのでしょう? だったら、私が男装して、ゲン国王陛下が証言してくれれば、十分いけると思いませんか?」


筋書きは、こうだ。


メラベリューの夜会に出席していた国王は、シシルを捕えて早めに夜会を抜けてきた。

このため、義父が企てた夜会の襲撃は未遂。

国王もシシルも殺し損ねたが、義父の悪だくみも露見していない。


――――きっと、ゲン国王の義父は、そう思ってくれるだろう。


「こちらに手を出してきたところを一網打尽! 二度とおかしな真似ができないよう懲らしめてやります!」


シェーラは、両手で拳を握って力説した。


「危険すぎます!」


当然スィヴァスは猛反対だ。


「大丈夫です。私、これでも結構強いんですよ」


「それは“よ~く”わかっています! それでもそんな策を許したとあらば、私がレオさまや“皆さま”に叱られます!」


必死でシェーラを止めようとするスィヴァス。


「ラガルト! お前もなんとかお止めしろ!!」


怒鳴られたラガルトは、本気で呆気にとられていた。

それでもギロリとスィヴァスに睨まれて、真剣に考える。



「……あなたのような“可愛らしい”少女が男装するというのは、いささか無理があるのではないですかな?」


シェーラをながめてそう言った。

生真面目で無骨なラガルトは、お世辞なんて言わない。

その彼に『可愛い』と言われたシェーラは、嬉しくなった。


「ありがとうございます。……でも大丈夫です。シシルさんも十分可愛い男性でしたから」


「いや、そういうことではなく。……そうだな、そのふわりとした長い髪では、直ぐに女性とバレてしまうだろう」


ラガルトは、今度はシェーラの髪を見ながらそう言った。


「男の人でも長髪の人はいますよね?」


現にレオナルドは、美しい金の長髪だ。


「――――大人で髪を伸ばす者はいるが、成長期の子供のほとんどは短髪だと思う」


ラガルトの言葉に、スィヴァスも大きく頷いた。

そんな決まりはなかったはずだと思うのだが――――確かに、シェーラの知る男の子の中に長髪の子はいないし、シシル自身も短髪だ。

考え込んだシェーラは――――



「わかりました。だったら髪を切ります」



そう言い出した。

スィヴァスもラガルトも、ゲン国王までもが、サーッと顔から血の気を引かせる。


「だめです!」

「女性が髪を切るなどと――――」

「絶対切るな!」


三人一斉に怒鳴った。


「だって、髪を切らなければシシルさんの身代わりにはなれないのでしょう?」


シェーラの質問に、ブンブンと首を横に振る三人。



「髪だけは絶対切らないでください! 最悪、私たち全員殺されます!」



スィヴァスの物言いは、ずいぶん大袈裟だ。



その後、「髪を切る」「やめてください!」という言い合いの結果――――結局シェーラは帽子をかぶって髪を隠すことに話が落ち着いた。






「……そもそも行かないという選択肢は、どこに消えたのでしょう?」


話し合いが終わった後に、疲れたようにスィヴァスが呟く。

ラガルトは、そんなスィヴァスの肩に大きな手を置いた。


「なんだか昔に返ったような気がするな。……私とお前と“陛下”と――――いつも(・・・)こんな感じではなかったか?」


彼の言う“陛下”が誰なのかは、聞くまでもない。


「バカを言わないでください。『いつも』だなんてとんでもない『しばしば』の間違いでしょう!」


それは、あまり変わらないのではないかとシェーラは思う。


(失礼しちゃうわ! 『いつも』でも『しばしば』でもない、『時々』よ!)





――――間隔のとらえ方には、個人差がある。


スィヴァスの言葉を聞いたラガルトは、「そうか?」と言って晴れ晴れとした笑みを浮かべた。

その笑みを見たスィヴァスは、驚きに目をみはる。


「あなたのそんな笑顔は、久しぶり――――それこそ二十年ぶりくらいですね」


思わずと言ったように呟いた。

なんにせよ、嬉しそうなラガルトの様子に、シェーラも嬉しくなる。



「……あ、申し遅れました。私は皇国近衛軍を預かるラガルトと申します」


今さらのようにとってつけられたラガルトの自己紹介に、明るい笑い声を響かせるシェーラだった。

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