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咄嗟にシェーラは、皇気を自分とゲン国王の周囲に展開する。

同時にレオと、少し遅れてバランディが皇気を発したのが感じられた。


幸いにも爆弾は目くらましの閃光弾だったようで、目は眩んで見えなくなった(・・・・・・・)もののそれ以外の被害はない。

周囲のあちこちからは、夜会の参加者の悲鳴が上がっていて大混乱になっているようだった。



シェーラは、その中で襲ってきた刺客の一人を右足で蹴り飛ばす!

哀れな刺客は、何がなんだかわからない内に壁際まで吹っ飛んで気絶したものと思われた。


(足が自由に動かせる裾の広いドレスで良かったわ)


フワリと舞ったドレスのスカート部分が落ちてくるのを待って、シェーラは裾をパンパンと直す。


「クソッ! 何も見えない! ……いったい、どういうことだ!? 襲撃は、ラストダンスが終わって、私が退席してからのはずだったのに!」


ゲン国王は、目を押さえながら狼狽えていた。


「彼らは、シシルさんと一緒にあなたも消そうと思っているようですね」


ゲン国王目がけて短剣を突き出してきた別の刺客の後頭部に手刀を入れながら、シェーラはそう話す。

刺客は、その場でドサッと崩れ落ちた。


「なっ!? シシルさまは!」


「大丈夫です。あちらにはレオさまとバランディさんがいますから」


そうでなければ困るとシェーラは思う。


(このくらいの目くらましと襲撃に、てこずったりはしないわよね?)


二人の皇気を探れば、どちらも闘志満々で暴れている雰囲気がうかがわれた。

きっとシシルも大丈夫だろう。




「君は? さきほどから人が倒れたりぶつかったりする音が聞こえるが……君には、敵が見えているのか?」


「そんなはずありませんでしょう」


何をバカなことを言っているのだと、シェーラは呆れてしまった。

閃光弾をくらっても目が見える“平民”なんているはずがない。

襲い掛かってきた別の刺客の顎にピンポイントで掌底を決め床に沈めてから、シェーラは言葉を続けた。


「私は単純に相手の殺気を読み取って防戦しているだけです」


同時に皇気で探知もしているが、それは言う必要のないことだろう。


「…………そ、そうなのか?」


あまり納得した感じはなかったが、ゲン国王はそれ以上の追求を止めたようだった。

次々と襲い掛かってくる刺客たちを華麗に薙ぎ倒しながら、シェーラは考える。


(きりがないわよね? バランディさんたちもこっちに来ないってことは、向こうにもかなりの数の刺客が向かっているってことだし――――他の夜会の参加者に被害が出ないように、ここはいったん逃げるが勝ちかしら)


いずれ視力が戻ればメラベリューの警備兵も役に立つはずなのだが、のんびりそれを待っていていいものかどうかわからない。




「先ほど、襲撃の予定はラストダンスが終わってからと、おっしゃっていましたよね?」


「あ? ああ。――――レオナルド殿下が、シシル・ヴェストルという少年を招待したという情報を得たからな。誘拐するか……さもなければ殺害する計画を立てていたのだ。……殿下がお守りになっているからには、万に一つも成功する見込みはないだろうが、それでも少しでも戦争を避けられる可能性が増えるのならと思って許可をした。……だが、失敗覚悟の案だからこそ、兵は少数にして閃光弾なども使う予定はなかったのだが――――」




うん。その辺りは、きっと義父とやらが秘密裏に計画をすり替えたのだろう。

なかなか途切れる様子を見せない刺客たちの数多さに、シェーラは呆れた。

女皇の皇気で一喝して治めたいが……そこまでしたら、今後のシェーラの平民人生が、ここで終わってしまう。


(レオは、皇帝の皇気は使えないし、このまま防いでいるしかないのかしら? ……でも、ここまで派手な襲撃を計画したからには、単発計画ではないかもしれないわよね?)


繰り出される刺客の剣を、自分の体を屈めて躱し、ついでに相手の”弁慶の泣き所”を思いっきり蹴り飛ばしながら、シェーラは考える。




「……もしかしたら、既にゲンの軍隊が皇国目指して行軍をはじめているかもしれませんね」


「――――っ!?」


ゲン国王は、息を呑んだ。


「今から駆けつけて、陛下が軍を止められる可能性はどのくらいですか?」


冷静なシェーラの問いかけに、今度は考え込む気配がする。

もちろんその間も、シェーラは刺客を撃退し続けていた。


「おそらく八割くらいだろうか。……高位貴族の将校たちは義父に手懐けられているが、実際に動く兵士や騎士は、私を慕ってくれている者が多いからな」


ならば、善は急げである。

一刻も早くゲン国王を連れて戦場に駆けつけ、戦争を止めなければならないと、シェーラは思う。

こちらに向かってくる一際大柄な刺客に、見事なサマーソルトキックを決めた。

ドレスの裾が盛大に翻って膝上あたりまで捲れてしまったが――――みんな目が眩んでいるはずなので問題ないだろう。



「行きましょう! こちらです!!」



シェーラはゲン国王の手を掴むと、問答無用で走り出した。


「なっ!? どこへ?」


「ゲンとの国境付近です。急いで行って戦争を止めないと!」


シェーラの言葉を聞いたゲン国王は――――自ら走り出す。

己のなすべきことがわかったのだろう。




「シェーラ!」




同時にバランディの声が聞こえてきた。

切羽詰まった響きの――――胸に響く声だ。

おそらく彼は襲撃の最初の波をしのぎきり、シェーラを助けようと探しているのだろう。


一瞬、シェーラは立ち止まりそうになった。


(バランディさん、怪我とかしていないかしら?)


無事を確認して……できることならば、彼の大きな体で抱きしめてほしいと思う。


だが、直ぐに首を大きく横に振った。


(な、何よ! 抱きしめてほしいって!? ……今はそんな時じゃないわ! 一刻を争う時なのに! 私ったら!)


頬に熱が集まってくる。

反省したシェーラは、スピードをあげて走り出した。

バランディに返事をしたかったが、そんなことをしたら襲撃者の注意を惹きつけることになってしまう。


(大丈夫。きっとバランディさんなら無事に切り抜けて、後から追いついてくれるわ!)


そう信じ、今は前へと進むシェーラだった。

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