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一週間なんてあっという間だ。


メラベリュー王宮に向かう馬車に揺られながら、シェーラはしみじみ実感する。


彼女の隣には、ムスッとした表情のバランディが乗っていた。

今日の彼が着ているのは、黒のディナー・ジャケット。白いウイングカラーのシャツに小さめの蝶ネクタイが、男の色気を醸し出している。


(こんな仏頂面なのにカッコイイなんて、美形ってずるいわよね)


バランディの前には貴公子然とした青い衣装を着た可愛いシシルが、緊張した面持ちで座っている。

ちなみにシシルは半ズボンで、これはまたこれで眼福だと、シェーラは思う。




「シェーラさん、今日の君は本当に綺麗だよ。……これで、君の身を包むドレスが、私からのプレゼントだったら、もっと最高だったのに」


シシルの隣、シェーラの目の前に座っている男性がそんなことを言ってきた。


「俺以外の男の贈ったドレスを、俺がこいつに着せるはずないだろう!」


バランディは唸るようにそう言うと、ジロリと男を睨む。



男は、言わずと知れたレオナルド――――今は、メラベリューの文官セオ・クリシュだった。

今日のレオは、バランディとは対照的な白のディナー・ジャケット。中のベストとタイがゴールドで、着る者を選ぶ派手な衣装を見事に着こなしている。


バランディの声など聞こえぬふりで、一心に自分を見つめてくるレオに、シェーラは内心顔を引きつらせていた。




そもそも、本来ならば、レオは王宮でシェーラたちの到着を待っているはず。

それが一緒に馬車に乗っているのは、「待ちきれなかった」と言って、迎えに来てしまったからだった。

その場で、初対面のはずのバランディとレオが、一触即発の危機になったのは言うまでもない。


(まるで不俱戴天の敵に巡り会ったみたいだったわ)


それを無理やり宥めすかし、ようやく出発したのが一時間ほど前だ。


(それからずっと、バランディさんもレオもこの調子なんだもの。嫌んなっちゃうわ)


不機嫌オーラ出しまくりのバランディと、そのバランディをすっかりまるっと無視して、いないものとして振る舞うレオ。


(顔には出さないけれど、レオも相当怒っているみたい。……そんなに私のドレスを作れなかったのが、面白くなかったのかしら?)


当初、レオがシェーラに贈ろうとしたドレスは、バランディがキャビン織物工場に圧力をかけ、全て断らせてしまったのだ。

このため、今シェーラが着ているドレスは、代わりにバランディが作ってくれたもの。


(二人とも、とんだ焼きもちやきよね。……どの道、デザインも生地選びも、みんな私がやったんだから、誰がお金を支払うかでしかなかったのに)



「本当に品があって、優雅で、でも可愛らしさもある最高のドレスだね。……本当に、君が全部ひとりでデザインしたの? シェーラさんは、ドレスにも造詣が深いのかな?」


バランディの怒声などどこ吹く風。レオは、笑顔でシェーラに話しかけてきた。


造詣が深いも何も、前世の二百五十年間、彼女は毎日ドレスを着ていたのだ。

ひどい時は、日に七回も着替えたことだってあるくらい。


(これで造詣が深まらないんなら、私はただの着せ替え人形だったってことよね)


前世で着た数多のドレスを、シェーラは走馬燈のように思い出す。

今回作ったドレスは、女皇がかなり若かった時に、お気に入りだったドレスのデザインをベースにしたものだった。

とはいえ、シェーラとヴァレンティナでは、髪や目の色、体型が違うので、かなりアレンジは加えてある。


(我ながらいい出来だと思うのだけど)


しかしシェーラには、一つ気がかりがあった。


(流行は繰り返すっていうけれど……二百年以上昔のドレスのアレンジって、今の時代的に、どうなのかしら?)


不安を覚えたシェーラは、レオに向かって身を乗り出す。


「褒めてもらって嬉しいんですけれど……実は、私は最近の流行を知らないんです。このドレス、どこかおかしくないですか? 正直に教えてください」


シェーラは自分の両手をできる範囲で広げて、レオに見せた。

聞かれたレオは、小さく首を傾げる。


「そう言われれば……袖の形がメラベリューの王宮の今の流行とは少し違うかな? ……ああ、でもそんなこと気にしなくてもいいと思うよ。それは、あくまでこの地方の流行でしかないからね。君のドレスの方が皇都風で、何倍もステキだ」


太鼓判を押してもらって、シェーラはホッとした。


(レオがそう思うなら絶対よね? 前世でも、レオは衣装やアクセサリーについて、いろいろ“私”にアドバイスをしてくれたもの)


伯祖母(おおおば)であるヴァレンティナに、とても懐いていた幼いレオナルドは、いつでも彼女の側にいたがった。

それは、普通の男性が席を外す着替えの時でも、離れずに居残るほど。


(まあ、当時のレオは小さな子供だったから許されたんだけど)


そんなことを繰り返すうちに、レオはヴァレンティナの衣装について意見してくれるようになった。


『伯祖母さまには、僕の目みたいな青いドレスがよく似合います』

『ネックレスは金にしましょうよ。僕の金髪とお揃いです!』

『伯祖母さま、これは最近流行のデザインです。今度のドレスはこれで仕立てましょう! 僕も一緒にペアで仕立ててもらいますから』


正直、ドレスを選ぶのが億劫だった女皇にとって、レオナルドの意見はたいへん助かるものだった。


(弟なんかは『下心が明け透けすぎだろう』とか、わけのわからない文句をつけていたけれど――――それでも、レオの審美眼だけは認めていたもの)


安心したシェーラは、思わず笑顔になる。



すると、隣に座っていたバランディが、シェーラの腰に手を回し、グッと引き寄せてきた。


おりしも、石でも弾いたのか、馬車がガタンと揺れる。

腰を押さえてもらっていたおかげで、シェーラはバランスを崩さずにすんだ。


「ありがとうございます。バランディさん。よく馬車が揺れるってわかりましたね?」


無邪気に感心したのだが――――



「……わかるはずないだろう」


レオがボソッと呟く。


「え?」


思わずレオに聞き返したシェーラの顔を、バランディが自分の方に向けた。



「“ジル”だ」



もう何回繰り返したかわからない、呼び方の訂正を求めてくる。






――――レオの方から、底冷えのする冷気が漂ってきた。

シシルは、馬車の隅に身を小さくして固まっている。



メラベリュー王宮への道のりは、まだ半ば――――



(……もうっ! ずっとこの雰囲気のままなの!?)



さすがに叫びたくなるシェーラだった。

シシルくんに合掌――――

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