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「あ~あ、どこかに、誰かいい(・・)人いないかしら? ……ううん、この際少しくらい悪い(・・)人でもいいんだけれど――――」


なかなか婚活がうまくいかないシェーラ。

最近の彼女は、ついにそんなことまで言い出してしまう。


「ちょっと、シェーラったら何バカなこと言っているのよ!」


「えぇ? 私は本気よ」


いつもの工場からの帰り道。

オレンジ色に染まる空を、大きな夕日が落ちていく。

アリサと並んで歩くシェーラは、巣に帰るのだろう黒い鳥をぼんやりと見上げた。

アリサの声は、右から左に聞き流す。


(だいたいこの辺りの“悪い人”なんて、スリか窃盗、恐喝くらいのものでしょう? 国家転覆をはかるわけでも、大量殺人を企てるわけでもないんだもの、可愛いものじゃない?)


前世の女皇時代に対処した極悪人の数々を思い出し、シェーラはうっすらと笑う。

相変わらず彼女の比較対象はおかしいのだが――――彼女がそれに気づくことはない。


(その程度の悪人なら、恋人になってから性根を叩き直してやればいいだけよね?)


シェーラの笑顔は……とても黒かった。

そんな彼女を見て、アリサが焦る。


「ちょっとシェーラ、変なことしないでよ! シェーラは時々予想外のことをするから油断できないわ!」


シェーラの手をギュッと握り、そう注意してきた。


ずいぶんな言われようだと、シェーラは思う。


「ええ? 私、そんな変なことなんてしないと思うけど?」


「嘘ばっかり! ――――暴れ馬を落ち着かせたり、溺れた子を助けに激流に飛びこんだり――――子供の時から、シェーラは信じられない無茶ばかりするじゃない! どれもたまたま(・・・・)無事に済んだからいいけれど……普通は、死んでも不思議じゃないことなのよ! もっと自重してよね!」


アリサは、プンプンと怒ってそう言った。

シェーラは、少し考え込む。


(あんな暴れ馬くらい、気合いでねじ伏せれば簡単に落ち着かせられるのに? ……それに、激流っていっても、あのくらいの流れなら、体に皇気を纏わせれば問題なく泳げるわよね?)


皇気とは、皇族が長年の精神鍛練により身に付けるオーラのようなものだ。

シェーラは、女皇の記憶と共に皇気の力も引き継いでいた。


(普通の民には、できないものみたいだけど……精神的なものだから、体が変わっても心が覚えていたのかしら? まぁ、でも使えないより使えた方がいいわよね)


だから、それくらいのことで心配する必要はないだろうとシェーラは思う。

しかし、皇気が使えないアリサにしてみれば、心配なのはもっともなのかもしれなかった。


(いくらアリサでも、皇気のことを教えるわけにはいかないし……)


「えっと、心配かけてごめんね。今後は、無茶はしないようにするわ」


少し反省したシェーラは、アリサにそう約束した。


「本当に? 絶対よ! 絶対だからね!」


「わかったわ」


何度も念を押すアリサにシェーラは誓う。


この時、彼女は本気でそう思っていた。





(でもこれは不可抗力よね?)


そう約束した三日後。

シェーラは自分の周りを囲む筋骨隆々な男たちを見回しそう思う。

彼らはみんな厳つい顔で、目を合わせた子供の十人中十人が泣き出すだろうという強面の男ばかりだ。


「ああん? 小娘がいったい何の用だ? ここがバランディ商会の事務所だとわかっているんだろうな?」


ガラの悪い大男が、脅すように話しかけてくる。


バランディ商会=バランディ悪徳金融商会である。

ちょっと悪いどころか、かなり悪い男たちのただ中に、シェーラは立っていた。

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