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誤字報告をいただきました。
ありがとうございます。
これからもお気づきの点がございましたら、ご指導くださると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
m(_ _)m
田舎町ミームの西の外れにシェーラの家はある。
シェーラと三人の弟妹、両親という六人家族で住むにはなんとも小さな家だ。
(皇宮の庭園を管理する庭師が使っていた物置小屋より、小さいわよね?)
庭師の物置小屋は、庭の景色を損ねないために小さいけれど趣のある建物が建っていた。
(外見も内装も、絶対物置小屋の方が立派だわ)
それでも小さなこの家が、今世のシェーラの住む城だ。
(まぁ、いずれは私もお嫁にいって、私と旦那さまの小さなお城を持つ予定だけど!)
その時は、この家よりもほんの少し大きな家にしようとシェーラは計画している。
「子供は五人くらいほしいもの。……あとあと、猫の額くらいでいいから庭も欲しいわ! 野菜を植えてそれを収穫すれば、買わなくていいわよね」
皇宮の庭のように、美しい花や立派な樹木ばかりでは実用性に欠ける。
計画され整えられすぎた庭園なんか、シェーラは見飽きているのだ。
「雑草の一本もない庭なんて不自然極まりないわ」
ブツブツと呟いてしまう。
「――――あら、なあに? シェーラはまた夢の家の計画を立てているの?」
するとそこに、呆れたような声がかかった。
「ママ!」
「夢の家の計画もいいけれど、それより先に一緒に暮らしてくれる、パパみたいな頼りがいのある旦那さまの目当てはついたの? 」
声をかけてきたのはシェーラの母だ。
年齢は三十六歳。
四人も子を産んだとは思えない若々しい外見をしている。
「それは――――」
シェーラは答えに窮した。またフラれたとは言いたくない。
娘に聞かなくとも全てを察したらしい母は、大きなため息をついた。
「本当に世の男どもは、どうしてシェーラの価値がわからないのかしら?」
そう言いながら、シェーラの頭をポンポンと慰めるように叩く。
母は――――というより両親は……かなりの親バカだった。
娘のシェーラをものすごく溺愛して、自慢にもしているのだ。
「確かにシェーラは、年のわりには小柄で胸も小さいけれど、しっかり者で気が利くし度胸もあって大胆だし、それにケンカじゃ誰にも負けたことがないくらい強いのに」
それは、年頃の女性に対する評価としていかがなものだろう?
毎度のこととはいえ、母の発言にシェーラは顔をひきつらせる。
「マ、ママ――――」
「もう、シェーラの良さがわからないようなバカは、放っておきなさい。お嫁になんていかなくていいのよ。ず~っとパパとママと一緒に仲良く暮らしましょう!」
そう言いながら、シェーラの母は、彼女をギュッと抱きしめてきた。
豊満な胸にシェーラの顔が埋まる。
シェーラはジタバタともがいて、なんとか母の抱擁から逃れた。
「で、でもママ、それじゃレクスがいつまで経ってもお嫁さんをもらえないわ」
レクスとはシェーラの三歳年下の弟のことだ。
この家の長男であり、当然家はレクスが継ぐことになっている。
「大丈夫よ。レクスはお姉ちゃんが大好きなんだもの。お嫁さんをもらったからってお姉ちゃんを追い出したりしないわ」
いやいや、そうはいかないだろう。
確かにレクスはシェーラにべったりなシスコンと言ってもいいくらいの弟だ。
しかし、今はそうでも将来的には誰より愛する奥さんを見つけ、結婚し幸せな家庭を築くはずなのだ。
――――いや、絶対そうでなければいけない!
(前世の弟の時みたいな騒動は、もうごめんなのよ!)
思い出したシェーラは、その思い出に頭を抱えた。
女皇であった前世で、ヴァレンティナが大切に守り、無事成人させて皇位を譲った弟は――――レクスなんて比べものにならないくらい、たいへんなシスコンだった。
そのシスコンぶりたるや、自分のためにヴァレンティナが結婚もせず生涯独り身なのを気にしてか、自身も皇妃を選ぶに際し、その第一条件に『皇帝である自分より姉上を敬愛できる者』というわけのわからない条件をあげたくらい。
「そんな女性が、いるわけないでしょう!」
ヴァレンティナは懸命に弟を諌めたのだが、彼は聞く耳持たなかった。
「姉上なくして、私はありませんでした。姉上を敬えない者を伴侶に迎えるなど、できるはずもございません」
そう公言して一歩もひかない。
「……わかったわ。見つけられるものなら見つけてみなさい。その代わり見つからなかった時は、そんな条件外すのよ」
最終的に折れたのはヴァレンティナの方だった。
どうせそんな女性は見つかりっこないと思って、認めてしまったのだ。
しかし、なんと弟は条件に当てはまる女性を見つけてしまった。
弟に見初められ皇妃となったのは、女皇時代のヴァレンティナの警護を担当していた女騎士だ。
「私は、もしもの時は、皇帝陛下を見捨てても皇姉殿下をお助けいたします!」
並み居る臣下の前でそう断言した女騎士。
弟は大感激して、彼女に求婚した。
なんとも都合のいいことに、女騎士の家柄は皇家の血をひく侯爵家。
身分的にも問題なく、トントン拍子に彼女が皇妃になることに決まった。
(ううん。問題大有りだったわ。なんであの婚姻がまかり通ったのか今でも不思議だもの)
婚姻後も、皇妃となった女騎士が弟と張り合って「お義姉さま大好きです!」行動をとるものだから、弟のシスコンは強くなる一方だった。
今世は、前世の二の舞は決してすまいと、シェーラは決意している。
「絶対、私は結婚して自分の家を建ててみせるわ!」
シェーラは、そう宣言する。
「そうは言っても、結婚は一人ではできないのよ」
そんな彼女に対し、母は容赦がなかった。
「うっ……わかっているわよ、そんなこと!」
「ならいいけれど。まぁ、なんにしてもママもパパもレクスも他の子たちも、シェーラがずっと家に居ても気にしないから。……安心して失恋記録を伸ばしなさい」
「安心できるわけないでしょう!」
このままでは家族総出で結婚を邪魔されるかもしれない。
恐れを抱いたシェーラは、恋人捜しに益々熱を入れるのだった。