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麗しい(かんばせ)で『私とつき合って』と、シェーラに頼んでくるレオ。




この場合の『つき合う』の意味は、三つ考えられた。


ひとつは、先ほど頼まれた『町の案内につき合う』という意味。

もうひとつは、『男女の恋人としてのおつき合い』という意味。

そして最後の三つめは、もっと広範囲にいろんな行動に『つき合う』というまさしく文字通りの意味だ。


曖昧なお願いを、おそらくわざと(・・・)してきただろうレオナルドに、シェーラはクスリと笑って返す。



「ええ。もちろん……"町を見て回る"のに、おつき合いしますよ」



彼女の答えを聞いたレオは、驚いたように青い目を見開いた。


――――承諾の返事をするのに、その内容をきちんと告げて限定(・・)するのは大切なことだ。

単に肯定の返事をするだけでは、どんな解釈をされても文句を言えなくなってしまうから。

特に皇族などは、持つ権力が大きいため、この件については子供の頃からうるさく教えられていた。


当然、レオがそれを知らないわけはない。




「……君は、見かけによらず用心深いんだね」


思った通り、レオは、感心したようにそう呟く。


(レオったら、やっぱりもっと面倒くさいことにつき合わせるつもりだったのね! ……まったく困った子)


シェーラは、こっそりため息をついた。

レオが狙ったのは、おそらく三番目の意味の『つき合う』だろう。


(女性から引く手あまたのモテモテなレオが、一度断られた私に、再度“男女のおつき合い”を申し込むはずなんてないもの)


隣国ゲンの情勢を探るため、属国メラベリューに滞在していると思われるレオナルド。

彼は、きっとミームの町で何か調べたいことか、やりたいことができたのだ。

そして、それにシェーラを利用しようと考えたのだろう。


(私みたいな普通(・・)の女の子に頼むことだから、危険なことじゃないんでしょうけれど……『つき合ってほしい』なんて、そうそう簡単に言っちゃだめでしょう?)


内心呆れるシェーラをよそに、レオは急に考えこむ様子をみせた。



「……これなら大丈夫かな?」


小さく独り言を呟いている。


「セオ・クリシュさま?」


(いったい何が大丈夫なの? 私は、町の案内以外は断ったわよね?)


不安に思ったシェーラの呼びかけに――――レオは、ニンマリ笑った。


あまり見たことのない彼の黒い笑みに、シェーラは思わず後退る。


そんな彼女の肩を、レオが軽く掴んできた。


「町を回る前に、少し話がしたいな。……そこのカフェに入ろう」


一瞬見せた黒い笑みをキレイに隠して、そう言ってくる。


(えっと? どんなところを回りたいかとか、どんなものがお勧めなのかとかの話が聞きたいってことよね? ……確かに、闇雲に歩き回るより計画を立てて回った方が効率的だわ。さすが私のレオね!)


肩を掴まれたまま、シェーラはそう考えた。

レオの手に力はまったく入っておらず、ふんわり促されるように押されれば、彼女の足は自然とカフェの方を向く。

完璧なエスコートに、先ほどの黒い笑みは見間違いだったんじゃないかと思えてきた。


(手にほんの少し皇気をこめて私を離さないようにしているみたいだけど……そんなに話が聞きたいのかしら? 逃げ出したりしないのに、レオったら心配性ね)


そんなところも可愛いわと思いながら、近くにあったカフェに入る。

一番奥のテーブルに、椅子を引いてもらって座った。

向かい合って座ったレオナルドは、直ぐに店員を呼んで注文をはじめる。


「君のお勧めは何? ――――だったらそれを二つ頼むよ」


見たこともないような美形からの注文を受けた店員の女の子は、真っ赤な顔でふらふらと厨房の方へ戻っていった。


(バランディさんの時もそうなんだけど……顔の良すぎる男性って、ある意味凶器よね)


果たしてあの女の子は、きちんと注文を覚えているのだろうか?

心配しながら厨房の方を見ていれば、レオの手がさりげなくシェーラの手を握ってきた。



「セオ・クリシュさま?」


「一日一緒に町を回るんだ。そんな他人行儀な呼ばれ方は嫌だな。“レオ”って呼んでくれる?」


「……レオ?」


たかが一日一緒に回るくらいで他人行儀も何もないもんだと思ったのだが――――それより、レオが『レオ』と呼んでほしいと言ったことの方にシェーラは驚いた。


「ああ。私の愛称みたいなものかな。本当はセオなんだけど、通っていた学園に同じセオって名前の同級生がいたんだ。……ほら? 私の外見はレオナルド殿下に似ているだろう? どっちもセオじゃ紛らわしいからって、ふざけて私をレオって呼んだ奴がいて、そのままレオになった」




…………なんだか、ものすごく苦しいこじつけだった。


(この前は不敬だのなんだの言っていたのに……それでいいの?)


呆れはしたが、シェーラ自身『レオ』の方が言い易いので、彼の話に乗ることにする。


「レオ……さま?」


「さまも付けなくていいんだけど……直ぐにそこまでは無理かな?」


無理ではないが、してはいけないに決まっていた。

シェーラがコクコク頷けば、「わかった」とレオも頷く。


そのまま二人は、ちょっとの間見つめ合った。


シックな雰囲気のカフェの空気には、淹れたてのコーヒーの苦い香りと、軽食として食べられるクレープを焼く甘い香りが入り混じっている。

一つ一つのテーブルに小さな花が飾られていて、見る人の心をほっこりさせた。


(小さいけれど、いい店だわ)


そう思う。


店内が仄暗いせいなのか、シェーラを見る青い目の中に、微かな紫の明滅が一瞬見えた。

そのとたん――――ざわざわとした周囲の音が、スッと消える。


(あら? 音を遮断する皇気を張ったのね?)


何故そんな必要があるのだろう?

首を傾げるシェーラの方に、レオは身を乗り出してきた。



「君は、ジルベスタ・バランディの()一番のお気に入りの女性だそうだけど……その認識で間違いないかい?」



彼は、そう聞いてきた。

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