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そんな日々の中、いつも通りの仕事を終えての帰り道。



「――――本当にシェーラったら、黙っていればそこそこ可愛いのに残念過ぎるわ」


シェーラは、一緒に帰っていた幼馴染のアリサから、呆れたようにため息をつかれていた。


「だからいつもフラれるのかなぁ? でもお付き合いしている相手と会話しないわけにもいかないし。……あ~あ、どうしたら結婚できるのかしら?」


シェーラはコテリと首を傾げる。

さすがに二年で五回の失恋はこたえていた。

これでもシェーラは落ち込んでいるのだ。

顔をしかめ考えていれば、アリサが声をひそめて話しかけてきた。


「あのね。怒らないで聞いてほしいんだけど? 私、サムに聞いてみたのよ――――」


サムとはシェーラの記念すべき(?)第一回目の失恋相手だ。

アリサと同じく幼馴染みで、サムの方から申し込まれてシェーラは彼と付き合いはじめた。

しかし、そろそろ結婚の話でも出るかと思っていたらフラれてしまったのだ。


ついでに言えば、現在、サムはアリサと付き合っている。

シェーラがフラレた一年後に、サムがアリサに告白したからだ。


最初アリサは激怒して、サムの申し出を断ろうとした。

それをシェーラがとりなして、二人が付き合いはじめたという経緯がある。


(サムとアリサは相性が良さそうだったもの。二人とも大好きな幼馴染だし、私のせいで付き合えないなんてイヤだわ)


シェーラは心からそう思う。


「聞いたって何を?」


「シェーラをフッた理由よ」


アリサのとんでもないカミングアウトに、シェーラは慌てた。


「へ? なんてことを聞いたのよ!?」


「だってイヤじゃない! ――――私から見て、シェーラは十分可愛い女性だわ。性格だって結婚願望が強すぎる以外はそんなに悪くない。……ちょっと背が低くてお子様体型だけど、それだってもう少しは成長すると思うし――――」


「お子様体型で悪かったわね! どうせ私は貧乳ですよ!」


そう、残念なことにシェーラの体型は大人の女性としては少し小柄なところがあった。

特に、胸とか胸とか胸とかなのだが。


……いやまだ十六歳。今後に希望を持っている。



「ともかく! 私から見て、全然イケてるシェーラがフラレたんなら、私だっていつフラレるかわからないでしょう? だから理由を聞いてみたのよ」


アリサの心配は、言われてみればわからないでもないものだった。

しかしそれにしても、そんなこと聞いてほしくはないと思うのだが。


アリサは声を潜めシェーラに囁いてくる。



「……サムはね、『怖くなったんだ』って言っていたわ」


囁かれたシェーラはポカンとする。


「え? ……怖いって? 私、別にサムを怖がらせるようなことなんか何もしなかったわよ」


サムは幼馴染みだ。

お互い遠慮のない間柄で、時々は言い争いもしたけれど、怖がらせるほどひどいケンカをした覚えはない。

首を傾げるシェーラを見て、アリサは真面目な顔になった。


「私、サムの話を聞いて“わかる”って思ってしまったわ。……だってシェーラは私たちとどこか違うところがあるもの」


「――――違う?」


言われたシェーラはポカンとした。

まったく全然自覚はない。


「そうよ。――――シェーラは、何か落ち着いているっていうか、動じないっていうか……覚えてる? 昔、学生だった頃に、学校に皇都から貴族が視察に来たことがあったでしょう?」


アリサとシェーラとサムは、みんな同じ学校に通っていた。


「ああ、そんなことあったわね」


ボンヤリ思い出したシェーラは、相づちを打つ。


「そうよ! その時、みんなものすごく緊張していたのに、シェーラだけは全然普通だったじゃない? 歓迎の歌を歌うのに、先生すらテンパって動けないでいたのに、シェーラは一人で突然、音程の“外れた”大声で歌いだしたの」


「悪かったわね! 音痴で!」


音程を外したと言われたシェーラは、思わず怒鳴り返した。

断っておくがシェーラは決して音痴ではない。彼女の歌はプロ並の素晴らしさだ。


(皇族は芸術に秀でることも求められていたから。……だけど、まさか皇族ばりの歌声を平民が披露するわけにはいかないでしょう? だから、今世では私わざと(・・・)音程を外して歌っているのよ!)


言い訳したいのにできなくてシェーラは心の中でほぞを噛む。


「歌の上手い下手じゃないわ! あの状況で平然としているところが違うのよ」


「えぇ~?」


シェーラは、思いっきり不満そうな声を上げた。

そんなことを言われたって、たかが(・・・)皇都の下っ端貴族の視察程度に、シェーラが緊張できるはずもない。


「私、図太いから」


そう答えれば「それだけじゃないわ!」とアリサは大声を出した。


「シェーラってなにもしていなくても、何て言うか迫力がある時があるのよ。小さいけれど姿勢もいいし、視線は私の方が上なのに見下ろされてるって感じる時があるわ」


小さいは余計だろうと、シェーラは思う。


(まぁ、その余計な一言が付く内はそんなに心配しなくてもいいんでしょうけどね)


なんだかんだと言われているシェーラだが、言われるということはアリサも本気でシェーラを怖がっていないということだ。


(本気で私を畏れていた者たちは、言葉すら発しなかったもの)


気軽に声をかけられ遠慮なしに言いたいことを言われる。

その関係が、シェーラは嬉しい。


「えっと、じゃあいつもビクビクオドオドしていたら結婚できるかしら?」


「……シェーラには、無理だと思う」


「えぇっ!なんで?」


「気の小さいシェーラなんて想像できないもの」


あんまりな言葉だった。


「ひどいわ! 私だって本当は繊細で傷つきやすいデリケートな心を隠しているのに!」


「ないない! シェーラにだけは、間違ってもそれはないわ!」


「ひどい!!」


ぎゃあぎゃあと言い合いながら、シェーラたちは家に帰る。

シェーラは、生まれ変わった幸せを心から噛みしめていた。

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