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――――直接声をかけて聞いている時点で、“それとなく”というミッションは失敗したと言っていいだろう。
(シシルって、なんだか天然よね? よっぽどお坊ちゃま育ちなのかしら?)
そんなところも可愛いなと思いながら、シェーラは聞き返す。
「……なんでそんなことを知ろうとしているのか、聞いてもいいですか?」
田舎町とはいえ、大通りともなればそれなりの人出がある。
行き交う人々の邪魔にならないように、シェーラはシシルと道端に寄った。
ちょっと大きな金物屋の壁に、二人で寄りかかる。
「う~ん。……本当は言っちゃいけないんだと思うんですけど……でも、理由も言わずに教えてほしいってお願いしても、シェーラさんは教えてくれないですよね?」
もちろんその通りである。
いくらシシルが可愛いからといって、それはそれ、これはこれ、なのだ。
コクリと頷くシェーラを見て、シシルは「仕方ないかなぁ」と呟いた。
壁に背をあずけたまま、空を見上げる。
「――――僕も直接理由を聞いていないので、これは推測ですが……たぶん、僕の誕生日が理由だと思います」
「……誕生日?」
シシルの誕生日が、なんでシェーラのほしいものに繋がるのだろう?
わからずシェーラは、コテンと首を傾げる。
そんなシェーラを見たシシルは、ちょっと頬を赤くした。
「うわっ、シェーラさん、そのポーズはあざといです! シェーラさんの中身を知っている僕でも『うっ!』ってなります! ……ボスは、このギャップにやられちゃったのかなぁ?」
自分の両手で赤くなった頬をパタパタ扇ぎながら、シシルはブツブツ呟いた。
「……へ?」
シェーラは、わけがわからずマヌケな声を上げてしまう。
”あざとい”だの”ギャップ”だの、いったいなんのことだろう?
シシルは、ひとつ大きなため息をつくと、苦笑しながら話を続けた。
「僕、一昨日、二……っと、十七歳になったんです。それで“宴会する理由のほしい”仲間たちが誕生パーティーを開いてくれることになったんですけど……その際に、何故か“僕がボスに出資金をお願いする”ことになって……それで頼みに行ったんです」
――――いろいろツッコミどころ満載の話に、シェーラは呆れる。
(宴会目的の誕生パーティーとか、祝われる主役の本人が出資金をお願いに行くとか……普通に考えておかしいでしょう? バランディ商会って、いったいどうなっているの?)
首を傾げざるをえない。
一方シシルは、その辺りは疑問に思わないのか、普通に話を続けた。
「ボスは、二つ返事でお金を出してくれたんですけど……その時に、たぶんシェーラさんのことを思い出したんだと思うんです」
「私を?」
「はい。僕が十七歳ってことは、シェーラさんも十七歳になったんじゃないかって」
確かに、シェーラは先月十七歳になった。
バランディと出会ってもう一年近くになろうとしているのだから、歳をとるのは当然である。
貧しいシェーラの家庭では、派手な誕生パーティーは開けなかったが、両親と弟妹が、ささやかなお祝い会をしてくれた。
(女皇時代に皇宮で開かれた豪華絢爛な誕生祭より、よほど心に染みた誕生会だったわ)
質素でも心づくしの手料理と、弟妹からの可愛い手作りのプレゼント。
こぢんまりとした誕生会を思い出したシェーラの心は、ほんわか温かくなる。
――――しかし、それがどうしたというのだろう?
たずねるような視線をシシルに向ければ、彼は続けて話しはじめた。
「ボスは急に考え込んで――――『金は出すから、シェーラさんのほしいものを調べて用意するように』って、僕に命令したんです」
……本当にツッコミどころ満載な話だった。
(いったい何を考えているの?)
シェーラには、わからない。
シェーラが十七歳になったからといって、どうしてバランディが彼女のほしいものを知りたがるのだろう?
(しかも『金は出すから用意しろ』だなんて…………普通に考えたら誕生日プレゼントだけど……もらえる理由がないわよね? ……あ、まさか、もっと新商品のアイデアを出せとか言ってくるのかしら?)
疑心暗鬼となって、シェーラはいろいろ考える。
首をひねって唸る彼女に対し、シシルはクスッと笑った。
「とても愛されていますね」
「……へっ??」
「好きな人のほしいものを、こっそり調べて贈りたいなんて、ボスも見かけによらず可愛いですよね?」
シェーラは――――パカンと口をあけた。
「ええぇっ!?」
出てきたのは、語尾が変な風に上がった素っ頓狂な声だ。
(い、今! シシルったら、バランディさんが私を好きみたいなことを言ったように聞こえたけど……?)
絶対、聞き間違いだろう。
シェーラは、そう思う。
大きく目を見開いて全身で驚きを表すシェーラを……シシルは微笑ましそうに見つめた。
「ああ、やっぱり、サプライズでプレゼントなんて――――しかもあのボスから用意されたら、びっくりしますよね? 僕もビックリしました。……でも『ボスが、普通の男みたいなことをしている!』って思ったら、すごく感動もしたんです。……だから、絶対シェーラさんの喜ぶ物を用意したくって……サプライズにはならないかもしれないけれど、シェーラさんが本当にほしいものを知りたくて、声をかけちゃいました」
テヘペロみたいな感じで、シシルは笑った。




