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「え? え? ……えぇっ!? そんな!」


シェーラは驚愕の声をあげる。

全員だなんて、そんな偶然あるのだろうか?


フレディは、呆れたようにため息をついた。


「――――嘘ですよ。少なくとも私は十年以上ここにいますからね」


フレディは、バランディが商会を立ち上げた当初からのメンバーで、独身である。

バランディにこき使われる毎日なため、結婚なんてできるはずもない日々を送っているそうだ。

彼の他にも、長年バランディに従う独身男は、たくさんいるということだった。


「なんと言っても、ボスのジル自らが独身ですからね。配下もこれで気を使うんですよ」


「嘘をつけ!」


バランディに全力否定されたフレディは、ハハハと楽しそうに笑う。


「ともかく、私は独身ですよ。勤務期間も長いので、間諜の疑いは、まったくありません。私におつき合いを申し込んでくださるのは、いつでも大歓迎ですよ」


白い顔の中、黒い目の片方をパチリと瞑り、フレディはそう言ってくる。

バランディは、ムウッと顔をしかめた。



「……それなら、お前や他の独り(もん)は、今日付けで全員解雇して、今日付けで雇い直してやる。そうすればみんなリセットされて最近雇ったことになるからな」


バランディは、いいことを思いついたとばかりにそう言った。

フレディは、本気で呆れた顔をする。


「……そこまでですか。余裕のない男は嫌われますよ」


ボソッとため息まじりに呟いた。



一方シェーラは二の句が告げない。

呆気に取られて彼らのやりとりを見ていたのだが……徐々に怒りがこみ上げてきた。


「――――なんて心の狭い男なの!」


ついには大声で怒鳴る。




「――――は?」


首をひねるバランディの顔に向けて、人さし指をビシッ! と突きつけた。


「そんなに私()、フレディさんや自分の仲間に近づけたくないのね!? いくら私()気に食わないからって、そこまですることないでしょう!!」


フーフーと肩で息をしながら、シェーラはバランディを詰る。



「なっ!? どうしてそうなるんだ!?」



バランディは、心外だというように怒鳴り返した。


「どうしても何も、そうとしか思えないでしょう!」


負けずと言い返せば、何故か頭を抱えてしまう。




「……確かに、今のはジルがいけないと思いますが――――」


苦笑しながらフレディが、落ち込むバランディの肩を叩いた。

言葉ではバランディを責めながら、慰めるみたいな動作をするのは何故なのだろう?

男二人は、何とも言えない視線をシェーラに向けた。


シェーラは、キッと睨み返す。



「……は~あぁ。まあいい。お前が”俺”をそういった対象として見ていないのは、わかっていたしな――――」


バランディはガシガシと自分の頭をかいた。

シェーラを見る黒い目の金彩が、物騒に光る。


「――――今は仕方ねぇ。まあ、いつまでもこのままにしておく気はないがな」


そう言った。


はっきり言って意味不明である。

何を言っているのかと、聞き返そうとしたシェーラが口を開く前に、バランディは言葉を続けた。


「お前の望み通り、最近入った奴のリストを作って後で渡そう。……それでいいか?」


「あなたからもらったリストなんて信じられるわけがないでしょう!?」


間髪を入れず、シェーラはそう言った。


「なんだと!?」


一触即発の雰囲気で二人は睨み合う。



「まあまあ、リストは私が作りますよ。もちろんキチンと正しいものをね。……その代わり、シェーラさん、あなたはそのリストの中から、あなたが怪しいと思った人間を、こっそり私たちに教えてくれませんか?」


そんな二人を宥めながら、フレディはとんでもないことを頼んできた。

……やっぱり食えない腹心である。


「正体を見破ることはできないって、私は言いましたよね?」


「ええ。ですから見破る必要はありません。ただあなたが気になった(・・・・・)人を教えてくだされば、それでいいんです」


ニコニコニコとフレディは優しい笑みを浮かべる。




「……わかりました。その代わり責任は持ちませんよ」


「ええ。もちろんそれで結構です」


視線を交わし合うシェーラとフレディ。




「……俺が、一番“普通”に思えるのは気のせいか?」




ポツリとバランディが呟いた。


「気のせいに決まっているでしょう!」

「気のせいですよ」


シェーラとフレディは、声を揃えて言い返す。



「……納得いかねぇ」



バランディの言葉など完全にスルーする、シェーラとフレディだった。

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