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バランディの発言には大いに文句を言いたいシェーラだが、情報を教えてほしい立場として、ここはグッと我慢する。


「東の隣国ゲンは、数年前に新国王が即位したばかりでしたよね」


既に知っていることだったが、確認のためにそう言った。


歴代のゲン国王の中で、女皇時代のシェーラが詳しく知っているのは、現王の四代前の国王だ。

血気盛んな男だったが、皇国と自国との力の差はわきまえていて、良き隣国であることに常に気を配っていた。


(訪問して来る度に、美辞麗句を並べて褒め称えてくるのだけは困ったけど。……私が退位した後も、やたら自分の国に招こうとするもんだから、弟に嫌われていたわよね)


『地上に降りた女神』

『我が太陽』

『この世の美しさの全てを集めた美の化身』等々。


よくあれだけ褒め言葉が続くものだと呆れるほど、当時のゲン国王は女皇に心酔していた。


(あれも一種の外交手段だったんでしょうけれど……私にばかり会いたがって、(皇帝)から(うと)まれたんじゃ、政策的には失敗だったわよね)


まあ、それでもゲン王国が皇国に牙をむくつもりがないことだけはしっかり伝わった。

そういう意味では、成功と言えるのかもしれない。


(次のゲン国王もその次の国王も、だいたい似た感じだったわ。まあ、その時には私は退位していて、どうしても外せない歓迎式典に少し顔を出すくらいだったから、あまり面識はなかったけれど。……でも、ゲンがうちに戦争を仕掛けてくる気配なんて少しも感じなかったのに)


新王が即位して、ゲンの方針は変わったのかもしれなかった。


(今の国王は、確か二十八歳。……密かに野心を育てていたの? それとも誰かに(そそのか)されたのかしら?)




まあ、しかし、それもこれも全て想像の域を出ないことだ。

レオナルドが探っているのがゲンとは限らぬし、そもそもメラビューに居る理由も、単なる旅行や休暇ということだって十分ありえる。


(たまたまメラビューに滞在している間に、皇家の吉兆紋を見かけて調査に来たのかもしれないわよね? ……うんうん、その方が自然だし、私の精神的にも安心できる理由だわ)


それでも可能性がある限り、バランディに確認しないわけにはいかなかった。

そんな兆候はないと断言してくれないものかと、シェーラは視線を向ける。


しかし、シェーラの期待は裏切られた。


「さっきの質問への答えだが――――物流も人の流れも、今のところこの町では目立った変化はない。……ただし、ゲンとの国境のある町では、お前の言うような現象が少しずつ見られているようだ」


「とは言っても、本当に微々たる変化で国の役人は、まったく気づいていませんけれどね」


「俺たちには俺たち独自のルートがある。だから気づけただけだ」


バランディ、フレディ、そしてまたバランディの順でそう言ってくる。

シェーラは唇を噛み、下を向いた。


(その動き……この国メラビューは気づいていないのかもしれないけれど……皇国が気づいていないはずがないわよね)


広大な領土と二十もの属国の頂点に、何百年という長きに渡り君臨してきたレーベンスブラウ皇国。

その理由を、異能を持ち寿命が長い皇族が治めるためだと言う者が多いが、それだけでは国は治まらない。


(皇国を真に支えているのは、優れた行政システムだわ。そして、システムの中でも一番重要視されているのが、皇国の隅々にまで張り巡らされた情報網だもの)


皇国内外の情報を、素早く正確に集める情報網。

その重要性を、北のクリセルファ王国と戦った女皇であるシェーラは、よく知っている。


(戦争の後、情報機関の充実にはさらに力を入れたし、そのあたりのことはきちんと弟にも引き継いだわ。――――皇国が、バランディの気づいている情報を知らない可能性は限りなくゼロに近いはず。……レオは、これを確かめるために身分を隠してメラビューに来ているのね)


そして皇家の紋様を見つけ、調査を兼ねてミームまで来たのだろう。


面倒なことになったなと、シェーラは考えこんだ。





(…………まあ、でもだからって、ただの平民の私に出来ることなんて何もないんだけど)


最終的にシェーラはそう思った。

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